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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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指名依頼

 レクスは階段を駆け上がり、木の床を鳴らしながら廊下の先にあるギルドマスターの部屋に歩いていく。


(俺に指名依頼ってクロウ師匠は言ってたけど、一体誰だ……?もしかして、マルクスのおっさんとかか…?)


 レクスは自身を指名して依頼してくるような人物には心当たりがない。


 唯一思い浮かんだ人物も、厳つい顔をした憲兵隊長のマルクスぐらいなものだからだ。


 頭を捻りながらも、レクスはギルドマスターの部屋を隔てる黒い扉の前に立つ。


 すぅと息を吸い込んでから、コンコンと扉にノックを打った。


「婆さん、レクスだ。入っていいか?」


「ああ、レクスかい。入んな。」


 扉の奥からは聞き慣れた老婆の声が響く。


 レクスは鈍く光るドアノブを捻り、黒い扉を押し開ける。


 その先には机の上で手を組み、何処か楽しげに笑っているようなギルドマスター、ヴィオナが座っていた。


 ヴィオナは口角を上げ、面白そうに口を開く。


「レクス。お前さんに指名依頼が届いてるよ。お前さんも有名になったもんさね。」


「……俺にか?間違いじゃねぇのかよ。」


 心当たりのないレクスは訝しむように首を捻り、後ろ手にドアを閉めつつ、ヴィオナの机の前まで歩み寄る。


 そんなレクスを不敵な笑みで出迎えたヴィオナはゆっくりと、しかし通る声で言葉を口にした。


「お前さんへの依頼は、ある貴族からの依頼さね。」


「……貴族?誰だよそれ?特に俺が依頼で行った実績もねぇけど……?」


「先方は「レクスに頼みたい」とわざわざここまで脚を運んだとある貴族さね。お前さん、丁度学園も休みで故郷に帰るって話だったねぇ。……でも、馬車が捕まらないって言ってただろう?」


「あ、ああ。……それに何の関係があんだ?」


 事態を把握できずよく分かっていない表情のレクスに、ヴィオナは一枚の紙を机の上に滑らせた。


 その紙をレクスが手にしたことを確認すると、ヴィオナはにししと老獪な笑みを浮かべる。


「依頼人には、お前さんの帰郷が丁度いいらしいけどねぇ。」


「どういうこったよ……ん?こりゃ……!?」


 レクスは紙にざっと眼を通していくと、そこに書かれていたのは「馬車の護衛」という依頼だった。


 行き先は「アルス村」。レクスの故郷だ。


 レクスが馬車を捕まえられない理由として、アルス村に行く乗り合い馬車がほぼいないという事実があった。


 依頼料金は傭兵を扱うには低めだが、それを解決するこの依頼は、レクスにとってうってつけともいえる。


 そして依頼主の署名を目にした瞬間、レクスは一瞬眼を見張るが、すぐに苦笑するように目元が下がった。


「……なるほどな。そりゃ、俺に来るわけだ。」


 そこにあったのは、レクスのよく知る貴族の名前。


 僅かににやけるレクスに、ヴィオナは口を加える。


「お前さんのことだ。絶対にしないとは思うけど、先方に迷惑はかけるんじゃないよ。」


「当たり前だっての、婆さん。……迷惑なんてかけられねぇよ。……でも、直接行ってちょっと話はしとかねぇとな。」


「ほう?どういった話だい?」


 訝しむようにも、面白がるようにも聴こえるヴィオナの声に、レクスはぽつんと呟いた。


「ああ、ちょっと……同行人がいるかもしれねぇってよ。」


「……なるほどねぇ。その同行人に、先方も驚くだろうね。……あの娘たちだろう?」


 全てを見通したかのようなヴィオナの言葉。


「敵わねぇな……婆さんにゃ。」


 その言葉に、レクスは苦笑いを浮かべながらヴィオナに向けて顔を上げた。


 その署名欄にあったのは、レクスと関わりの深い貴族の一人であったからだ。


 レクスの言葉に、ヴィオナは目元を下げてぷくくと口元を押さえる。


「……敵わない?よしとくれよ。あたしゃ、お前さんやクロウにはあたしを超えてもらわないと困るさね。……隠居すらできやしないからねぇ。」


「よく言うよ、婆さん。……クロウ師匠ですら婆さんに敵わねぇってのによ。」


「当たり前だろう?越えて欲しいけど、まだまだあたしも現役だからねぇ。……ただで譲る気はないさね。」


「クロウ師匠もなら、婆さんもってか……。」


 事実、レクスはクロウとヴィオナの模擬戦を見たことがあるのだが、あまりに激しい試合の末にヴィオナがクロウに勝ったのを目撃しているのだ。


(クロウ師匠が敵わねぇとこなんて初めて見たけどよ……)


 脳裏に浮かぶのは火花が散るが如く激しい剣戟。


 愉しそうなヴィオナの言葉に、レクスは模擬戦の光景を思い浮かべ、引き攣った笑みを溢すしかなかった。


 ◆

 そして、出発の当日。


 カーテンから射し込む眩しい陽射しと暑さの中で、レクスは帰郷の準備を進めていた。


 衣類などと共に、武器や道具なども持って帰るためにベッドへ並べつつ、レクスは自身が使っている机に歩み寄る。


 長年使われただろう木の机の引き出しを開けると、そこにはレクスの作っていた小物が四つ、ころころと転がるように入っていた。


(……こいつだけは、忘れちゃなんねぇからな。)


 木で作ったそれらを軽く鷲掴みにすると、レクスは小物を指で僅かに遊ばせた後、決意するように軽く握る。


 少し微笑みながら小物を纏めて小さな布袋に入れ込むと、愛用している背嚢を取り出し、ベッドへ戻る。


 荷物をある程度纏めて背嚢に入れ込んだレクスは、ベッドに寝そべって本を読んでいるアランに声をかけた。


「じゃあ、アラン。俺はちょっくら依頼がてら実家に帰ってくるからよ。」


「ああ、行ってらっしゃい。とは言っても、僕も明日にはカリーナと実家に帰るんだけどね。」


 レクスの声に、ベッドに座り直して返答するアラン。


 アランの言葉に、レクスは眼を瞬かせた。


「……そうなのか?てっきりずっと寮にいるもんかと思ってたぞ。」


「昨日、手紙が届いてね。せめて夏に顔は見せて欲しいらしくて。多分、君のほうが帰ってくるのは早いと思うよ。」


「そういうことかよ…。じゃあ、戸締まりは頼むぞ。」


「うん、しっかりとしておく。……いい帰省をね。」


「アランこそな。」


 レクスが荷物を持ち上げると、アランが歯を出して微笑む。


 レクスもにぃっと笑みを返す。


 そんな手を振るアランを背にして、レクスはドアから一歩踏み出した。



お読みいただき、ありがとうございます。

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