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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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そよぐ草花

 そうして暫く二人は腕を組みながら歩き続けていると、だんだんと人通りも少なくなり、閑静な住宅街へと足を踏み入れる。


 それをも通りこし、レクスとカルティアは住宅すらも少ない王都の北側まで歩いて来ていた。


 そこからさらに進み、以前にレインのお墓に参った場所の近くにある、自然豊かな小高い丘の上。


 カルティアはそこで足を止めた。


 レクスもつられて足を止め、自身の目の前に向けて顔を上げる。


「……ここか……!?」


「ええ。ここですわ。」


 レクスは眼の前の光景に、目を拡げてつい声を溢しす。


 そんなレクスの様子に、カルティアはふふっと小さく声を出して笑った。


 レクスの眼前に広がっている光景は、一面の緑。


 その緑の先端には、色とりどりの大輪の花が咲き乱れ、レクスとカルティアの間を通り抜ける風に波打ちながら揺れ動く、幻想的な空間を目の当たりにしていた。


「カティ……ここは?」


「王都の墓地の近くにある自然保護区域ですわ。……なかでもここが、一番の絶景を堪能できますのよ?」


「こりゃ……すげぇな。」


 呆気に取られ、感嘆したように言葉を漏らすレクスにカルティアは嬉しそうに微笑みを返す。


 レクスがきょろきょろと全景を見渡す間にも、ひゅるりと風がそよぎ色づいた花々を軽く波打たせる。


 レクスたちの周囲には、人影などは全く見当たらなかった。


「このあたりはあまり人は訪れませんわ。墓地の近くであることもですけど、少し中心部から遠いのです。今日は誰もいらっしゃいませんから、貸切ですわね。」


「……カティはどうやってここを見つけたんだ?」


 クスリと口に手を当て微笑むカルティアにレクスが何気なく疑問を口にする。


 するとカルティアは「ふぅ~」と深いため息をついて少し遠い目をして僅かに上を仰ぎ見た。


「……お母様に教えてもらいましたの。」


「カルティアの、母さん?」


 レクスがカルティアに首を向けると、カルティアはコクンと頷いた。


「ええ、そうですわ。わたくしのお母様は元々は王族ではなく、市井にいた平民ですの。お父様が一目ぼれをされて、お母様は王家に嫁いだのですわ。……第二夫人として。」


「第二夫人?……ってぇと、第一王子や第一王女とは母さんが違うのか?」


「そうなりますわね。わたくしのお母様はお父様のハーレムに入ったということになりますわ。でも、お母様もわたくしも、第一夫人であるお妃様やお兄様やお姉様にとても可愛がっていただいていますの。仲は良いと思っていますわ。……そんなお母様に、わたくしは幼い頃に連れてきてもらいましたの。いつ来ても、変わりませんわね。」


 懐かしむような眼で微笑むカルティアが女神のように綺麗に見えて。


 レクスはドキリと心音が高まり、頬を染める。


 そんなレクスにカルティアは気がついたのか、少し口元を上げていたずらっぽくレクスを見上げた。


「あら?お顔が真っ赤になっていますわよ。レクスさん。」


「……カティの気のせい……ってことにしといてくれ。」


「うふふふ。レクスさんは少し意地っ張りですわね。」


 にこやかに目を細めるカルティア。


 レクスは気恥ずかしそうにカルティアから目を逸らし、頬を指で掻く。


 そんなレクスの熱を持った頬に、野を駆ける風がふわりと吹き抜け、レクスは心地よさを感じた。


 そして、レクスは頭をカルティアに向き直し、アイスブルーの瞳を見つめる。


「……カティは、ここに来るだけでよかったのかよ?」


 レクスの疑問にカルティアは「いいえ」と首をゆっくり振った。


「今日は、レクスさんとゆっくりしようと思っていますわ。……ピクニックをいたしましょう。」


「ピク……ニック?なんだそりゃ?」


 聞き慣れない言葉に、レクスは首を傾げて頭に疑問符を浮かべる。


 よくわかっていないようなレクスの表情が少し可笑しく見えたのか、カルティアはクスっと口をほころばせた。


「レクスさんはご存じでないのですね。簡単に言うと、「野外でお弁当を食べましょう」ということですわ。」


「ああ、そういうことかよ。聞き慣れねぇ言葉だから吃驚しちまった。……でも俺、弁当なんて用意してねぇぞ?」


 心配そうなレクスにカルティアは得意げに笑みを浮かべ、小さくバスケットを持ち上げた。


「ご心配には及びませんわ。……今日のためにわたくしが作って来ましたもの。」


「……カティが?……なんか、すまねぇな。俺、何も出来てなくてよ……。」


「わたくしの好きでしたことですもの。さあ、準備をしますわよ。手伝ってくださいませ。」


「……ああ、そうだな!」


 小さな花のように微笑むカルティアに、レクスもニッと歯を出した笑顔を浮かべる。


 そうして二人は一面の緑で敷き詰められた絨毯の上に、薄くシーツ大の大きさをした布を拡げる。


 靴を脱ぐと、布の上に腰を下ろした。


 腰を下ろすと、燦々と照らす陽の光が暑く感じられた一方で、少し汗ばんだ皮ふを柔らかな涼風が通り抜けて汗をさらっていく。


 心地の良い青空も広がり、草花とのコントラストが王都の中とは思えない風景だ。


 後ろに手を着き、ぼおっと空を眺めるレクスの肩にこつんとカルティアの肩が触れる。


 カルティアもほんのりと微笑みを浮かべた柔らかい表情だ。


「……気持ちがいいですわね。」


「……だな。王都だってことを忘れちまいそうだ。」


 ぽつりと言葉を口にするカルティアに、レクスも空を仰ぎ見ながら言葉を返す。


 忙しない様子もなく、ただ風がゆったりと吹き抜ける布の上は時間を忘れさせるようだ。


 そんな風景に、レクスは故郷のアルス村の光景を重ね合わせながら、流れていく雲を見つめていた。


 そしてレクスは、思いついたように声をかける。


「……なぁ、カティ。」


「どうしましたの?レクスさん。」


 こてんと首を傾げながらレクスに向き直るカルティア。


 その顔は、レクスが学園で初めて見かけたときとは顔は同じなのだが全くの別人のような柔らかく、楽しげな雰囲気をレクスは感じとっていた。


 そんなカルティアに顔を向け、思い出すように表情を緩める。


「……アルス村から出てきて、ざっと三ヶ月くらい経つけどよ。……なんか、毎日がずっと濃くてな。ずっと前から王都にいたみてぇな気がするんだ。おかしいのかな、俺は?」


 レクスの言葉に、カルティアはにこやかに目を細めると、レクスが地面についていた手に自身の手を重ねた。


 柔らかく、すべすべとしたカルティアの手の感覚に、レクスは少しだけ頬を朱に染める。


「……そうですわね。でも、それはわたくしもかもしれませんわね。」

お読みいただき、ありがとうございます。

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