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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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「お姫様と黒い龍」

 それはある国での物語。


 何処からともなく現れた大きな黒い龍は、次から次へと村を焼きはらい、人々を困らせていました。


 そんな黒い龍は、ある日とても綺麗な女の人を見つけます。


 黒い龍はどうしてもその女の人が欲しくて堪らず、花畑でお花を摘んでいる女の人の前に降り立ちます。


 黒い龍は怖がる女の人をお構い無しにさらっていくと、自身の住処の鳥籠へと女の人を閉じ込めました。


 女の人は、その国のお姫様でした。


 悲しんだ王様とお妃様は、優秀な兵隊たちに呼びかけて、お姫様をとりかえしにむかわせました。


 しかし、黒い龍の吐き出す炎に、どうやってもかないません。


 兵隊たちを追い返した龍は、高らかに笑っていました。


 王様もお妃様も途方に暮れて嘆き悲んだとき、一人の青年が王様とお妃様の元へやってきました。


 彼は、隣の国の王子様で、お姫様の幼馴染です。


「僕がお姫様を助け出します!……僕の、大切なひとですから。」


 王子様はにっこりと笑って白馬に乗り込むと、一目散に黒い龍の住処へと向かいます。


 黒い龍が待ち構えている住処へ、王子様は剣を抜き入って行きました。


 ◆

「……すっげぇ。」


 あまりの光景に、レクスは無意識に呟く。


 レクスは、演劇の圧倒的な演出と演技に、食い入るように見入っていた。


 演者たちの息づかいや、歌うような台詞回し、踊るような身体捌きでレクスの視線を惹きつける。


 次々と変わる舞台の照明や音楽も、演者の演技を一層引き立たせていた。


 全てが、レクスの知る村の演劇とは異なっていた。


 隣のマリエナも固唾をのんで見入っている。


 アランやカリーナ、エミリーもじぃっと壇上に釘付けだった。


 別にレクスが演劇を舐めていたわけではない。


 あまりにもレクスの想像した演劇とは、別世界だった。


 壇上の上ではクライマックスを迎え、王子が強大な黒龍と対峙するシーンになっていた。


 ◆

 黒龍の像の前に雄々しく剣先を向けて立った王子は、黒龍を睨みつけ、口を開く。


「黒き龍よ!姫を返し給え!」


 劇場全体を高らかに歌うような声が反響し、空気全体を震わせる。


 黒い龍の像は靄を纏いながら王子に問うように唸るような低い声を上げた。


「否や!我欲せしは美しき姫君!姫君成るは我が花嫁也!誰も止めらねぬ!我手にするは全てなり!」


 龍の像が王子に灼熱の吐息を吹きかけるが、王子は大きく横に剣を振り払うと、シンバルの音とともに灼熱の吐息が霧散する。


「何!?我の吐息が効かぬ!?」


 龍の像を赤い目で真っ直ぐ見据えた王子は、再び剣を構え声を荒げた。


 照明が集中し、王子を照らし出す。


「黒き龍よ!貴様の炎は既に見切った!観念しろ!」


 そんな王子の宣言に、龍の像はギラリと目を光らせた。


「喧し!その程度、我に能わず!なればこうしてくれる!」


 龍の像の隣へ、縛られた姫の入った金色の鳥籠が舞台の上に運ばれた。


「何をする気だ!黒き龍よ!」


 王子が鋭く睨みつけながら歌うような声を響かせると、檻の中のお姫様をひょいとつまみ上げる。


「やめてください!た……助けて!王子様!」


 喧しいくらいの金切り声のような悲鳴も虚しく、黒い龍の上に軽々と持ち上げられるお姫様。


 龍の像はにたにたと笑むように、まるでそのあたりの小石をつまみ上げるように、眼前へと持って来る。


「姫様!」


 紅玉のような瞳を見開き、王子が姫に向けて手を伸ばす。


 その仕草を嘲笑うかのように、黒龍は大きな顎を広げる。


「きゃあああああああああああああ!!」


「姫様ァァァ!」


 何もない虚空に吸い込むが如く、姫を己が口で呑み込んだ。


 龍の像の鼻から、白い煙がじわりと溢れ、立ち昇る。


 ゴクンと嚥下する音に、紅玉の瞳は灼熱に燃え盛る怒りの炎を灯した。


「黒龍ぅ!お前は僕の大切な人を……よくも!僕は……絶対お前を倒してみせる!」


「これで姫は我のものだ!我を倒すなど笑止千万!全力の我が炎で燃え尽きるが良い!」


 再び黒龍の熱気を帯びた吐息は、赤い靄となって舞台の上を這う。


「ぐ……ああっ!その……くらいぃ……!」


 王子は赤い靄に包まれながらも、一歩、また一歩と泥のなかを歩むように黒い龍ににじり寄った。


 その姿に、黒い龍は酷く怯えたように声を震わせた。


「何故だ!?何故止まらぬ!?何故……我が炎の吐息が効かぬ!?」


 そして、黒龍の眼前に立った王子は龍をおもむろに見上げ、光を受けて輝く両刃剣を横一文字に構えた。


「僕のスキルは……「耐炎」。ただ炎に耐えるだけだ。熱さは感じるし、今だって苦しいほどに熱いよ!正直何の取り柄もない。でも、今僕はこの「スキル」に感謝している!……この炎が何だ!姫様の為なら!このくらいの痛みも……苦しみも!どうってことはない!」


 王子のぼそりとした呟きは、だんだんと声量を増し、それでもはっきりと劇場内を包むように反響する。


「く、来るな!……やめるのだ!」


 じりと竦んだように下がる黒い龍。


 その眼差しの先には、赤く燃える紅玉の光があった。


「龍よ!覚悟!」


 姿勢を屈めた王子は、そのまま舞台の天井まで蝗のように跳び上がると、くわっと大きく紅玉の瞳を見開いた。


 そのまま王子の剣は光を受けて白銀に輝きながら。


 迸る一閃。


 龍の頸は真一文字に切り取られた。


 ”ドン”と音を立てて王子は着地すると、すぐさま立ち上がり、龍の腹に駆け寄る。


「姫様!」


 王子は龍の腹を捌くように剣を振り抜くと、龍の腹から白い手が伸びる。


 王子は白い手をつかむと、姫を引き抜いてその身に包み込むように優しく抱いた。


「王子……様。」


「姫様!お気を確かに!」


 王子は姫を揺さぶるように声をかけると、姫はゆっくりと目を開くとその身を抱いた。


「王子様……いけません。王子様が龍の血で汚れてしまいます。」


「姫様……大丈夫です。姫様はどこも汚れていません。これが、その証です。」


 太陽のようににこやかに笑顔を向ける王子。


 そして王子は、姫の唇にそっと口づけを落とした。

お読みいただき、ありがとうございます。

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