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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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かわらぬもの

「……レイン?どうしたんだ?もしかして、口に合わなかったとか……。」


 レインの涙に驚き、心配したレクスがおそるおそる声をかけると、レインはゆっくりと首を振った。


「ち……違うです。……おんなじ、だったです。」


「……どういうこった?」


 レインはフォークを口から抜き、テーブルに置くとすんと鼻をすすった。


「あちしは……まだ小さかった頃に、ここへ来たことがあるです。そのときの味と……いっしょ、です。」


「レイン……。」


 レクスはぽたりと雫を落とすレインの顔を、静かに真っ直ぐ見つめた。


 すると、レインはレクスの瞳を涙ながらに見返す。


「あちしは……パパもママも、もう、いないです。馬車の事故であちしを庇って、お空へ行ったのです。」


「そう、だったのかよ……。」


「パパもママも、あちしにすごく優しかったです。いつも笑ってて、近づくとおひさまの匂いがして、あの時も……あちしを……抱きしめて……くれ………て……。」


 レインは感情の堰が切れたように、たらたらと涙を流し続けている。


 その姿にレクスもいたたまれなくなり、唇を噛み締めた。


(そうかよ……。レインは……。)


 レクスに思い浮かんだのは、自身の両親と義母の姿。


 皆レクスを愛してくれていることを、レクス自身も分かっていたし、レクスを導いてくれた自慢の両親と義母だ。


 そんな両親を、早くに失う痛みをずっと抱えて生きてきたレイン。


 それがどれほど辛いものか、レクスには想像ができなかった。


 涙を拭き、なんとかしたいと思うレクスだが、レインはテーブルの向こう。


 その距離がレクスには遠く感じて、もどかしさがこみ上げる。


 すると、レインははっとしたように自身の腕でごしごしと眼を拭った。


 心配と不安が入り混じる表情をしたレクスに向け、無理やり笑顔を作ったように苦笑いを浮かべる。


 しかしその眦には、まだ玉のような涙が僅かに浮かんでいた。


「こ、こんなことを話してごめんなさいです。せ、折角のレクスさまとのデートです。今の話はなかったことにして……。」


「レイン。」


 レクスの声に、レインは言いかけた言葉を止める。


 レクスの眼差しが、何処か真剣な様子でレインを見つめていたからだ。


「「こんなこと」じゃねぇよ。レインにとっては大切な思い出じゃねぇか。むしろ俺が謝んなきゃならねぇよ。俺は、レインの幸せそうな姿が見てぇんだから。……泣かせたりして、ごめんな。」


「い、いいえ!レクスさまのせいではないです!あちしが勝手に泣いてしまっただけです!」


 慌てて繕おうとするレインに対し、レクスはずいっと身体を乗り出すと、柔らかく口元を上げた。


 しかしその目は真剣なままだ。


 そんなレクスの姿に、レインはきょとんと首を傾げる。


「レクス……様?」


「すまねぇが……少し予定変更だ。レインに案内して欲しいところができた。俺は、そこに行ってみたい。……案内してくれるか?レイン。」


 荒っぽくも優しげな語り口。


 その真摯な視線に、レインはコクンと小さく首を縦に振る。


「良いですけど……どこに行くです?」


「ちょっと……挨拶にな。」


 レクスが語った行き先に、レインは眼を瞬かせたのち、大きく青銅の瞳を見開いた。


 ◆


 ハニベアで食事を済ませた二人は、王都の北側にある、閑静な小高い丘に足を運んでいた。


 さらりと肌を撫でるように吹き抜ける風は、レクスとレインの髪を靡かせ、レインのフリルがふわりと風を含む。


 熱く照らす夏空の下には、生い茂る緑の草花が独特の青い匂いが浮かび上がる。


 そんな草花を掻き分けるように整備された一本の道を、レクスとレインは並んで歩いていた。


 そんなレクスの手元には、黄色い花束が抱えられている。


 ここに来るまでに、広場の出店で買ったものだ。


 レインはレクスに付き従うように側を歩くが、その表情は何処か遠くを見ているようだった。


 一方のレクスも、落とさないように花束を抱えながら、真剣な眼でその先を見据えていた。


 この道の先に、レクスが頼み込んだ場所があるからだ。


 そして、レクスたちは丘を登ると目的の場所へと到着した。


「ここ……です。」


「……俺の村とほぼ一緒か。失礼のないようにしねぇとな。」


 レインの言葉に、レクスは襟を正すように、何処か干渉にふけるようにその光景を目の当たりにした。


 一面に広がるのは、規則正しく並んだ石の十字架。


 それらは夏の陽射しに照らされ、何処か浮き上がるような白。


 その光景に一瞬立ち止まったのち、二人はゆっくりと歩き出す。


 そこは物言わぬ命の残滓が、静かに眠りゆく場所。


 グランドキングダムの共同墓地だ。


 レインは迷うことなく、歩き慣れたように墓所の合間を抜けて歩みを進める。


 レクスは、そんなレインに静かについて歩いていく。


 さわさわと靴に擦れる青々とした草花を感じながら歩く二人。


 墓所を歩くレインの姿は場違いなようだが、幻想的で不思議さを感じさせるように見えることだろう。


 そうして二人はある一つの十字架の前で立ち止まった。


「ここに、パパとママがいるです。」


「……ありがとうな、レイン。案内してくれてよ。」

お読みいただきありがとうございます。

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