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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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甘く可愛く

 レインはレクスと離れ、マリンについて行く。


 その間もレインは、マリンを興味深く見ていた。


 マリンはレインから見て、元雇い主のメギドナや現雇い主のアーミア、さらにレクスの元にいる他のハーレムメンバーと比べても見劣りしないほどの美人だ。


 そんな人物とレクスが知り合いと分かり、レインは実は少しだけ警戒していた。


(レクス様はこれだけ美人な人とお仕事してるですか……。いくら既婚者といえど、油断できないです。あちしから見ても、マリエナかいちょーやカルティア様、アオイさんと比べても劣ってないどころか良い勝負です。……あれ?あちし、勝てるです……?)


 そんなレインの疑うような視線をよそに、マリンはレインと衣装をちらちらと見比べていく。


「腕は細身、背は低め……本当にお人形さんみたいで可愛い。でも胸は大きい。となるとギャップを利用する?」


 マリンはぶつぶつと一人事を言いながら、衣装を手にとってはイメージと合わせていっている様子だった。


 そんなマリンにレインは思い切って口を開く。


「あ、あの……マリンさんは、ご主人様のことをどう思っているですか?」


「レクスの……こと?」


 マリンは衣装を選ぶ手を止め、レインを見ながら少し顎に手を当て頭を捻る。


「頑張ってる仕事仲間。諦めの悪いクローの弟子。……なるほど。」


 マリンは何処か不安げに見つめるレインの顔をちらと見て、納得するように頷いた。


「わたしの旦那さんはクローだけ。それは何があっても変わらない。……大丈夫。レインもとても可愛い。レクスも可愛いって言ってくれるはず。」


「そ……そうなんですか……?」


 やはりどことなく自信がなさそうに眉を落とすレインに、マリンはふわりとほほ笑んだ。


「自信を持っていい。わたしが絶対、可愛くしてあげる。」


 直後、マリンは一着の服を手に取ってレインに重ね合わせた。


 ◆

 レインがマリンに連れて行かれて数十分。


 レクスは店内の椅子に腰掛け、手持ち無沙汰だった。


(……レイン、まだか……?マリンさんも戻ってこねぇしよ……。)


 不安そうに店内を見回すが、未だに二人は帰ってこない。


 さらにレクスに追い打ちをかけるように、少し困ったことがあった。


(……店内の視線が痛ぇ。まぁ……俺は明らかに場違いだしなぁ。)


 レクスは俯き、はぁと力なくため息を吐く。


 レクスが待っている間にも数人お客が入って来ていたが、皆すべからくレクスを怪訝な眼で一瞬見ることをレクスは自覚していたのだ。


 あまりにも場違いで悪目立ちしつつ、レクスはそわそわと落ち着かないまま二人を待っていた。


 どうも居心地が悪く、もう一度ため息をつこうとした時、レクスの眼にマリンが向かってくるのを見つける。


 どうやらマリンだけが戻ってきたようで、音もなくレクスの前で立ち止まった。


「お待たせ。レクス。……こっちに来て。」


「あ、ああ。……レインは?」


「来ればわかる。会心の出来。」


 やはり掴みどころのないマリンの表情に困惑しつつ、レクスは椅子から立ち上がる。


 その姿を見たマリンは踵を返すと店の奥へと向かう。


 レクスもマリンの後を追って歩く。


 色とりどりのレースとフリルの海をマリンは迷うことなく進み、マリンがたどり着いたのは試着室。


 カーテンの閉められた個室が、レクスの目の前に現れた。


 立ち止まるレクスに、マリンは流れるようにカーテンの前に経つ。


「御開帳。」


 呟かれた言葉とともに開かれるカーテン。


 そこにあった姿に、レクスは眼を奪われた。


 眼をかっと見開き、息を呑む。


 まるでそれは、絵本の中の主人公がそのまま飛び出してきたような美少女。


 全体的には白と淡いピンクの交互に重ねられたフリフリなフリルとレース。


 ワンピースタイプのようで膝丈までのスカートから覗くおみ足は白いタイツで覆われており、すぐに折れてしまいそうに華奢だ。


 ノースリーブタイプのようで肩紐から伸びる白魚のような細腕は人形がそのまま人に変わったみたいだ。


 しかしその胸元は素肌の露出はないものの、しっかりと大きな山を作り存在感を現し、僅かに扇情的にも見える。


 水色のおかっぱに映えるのはこれまた淡いピンク色の大きめなヘッドドレス。


 自分の姿に自信がないのか、はたまたレクスに見られることが不安か。


 頬を紅く染め、瞳は不安そうに揺らめいている。


「……すげぇ可愛い……。」


「ふぇっ!?」


 レクスが頬を染め、無自覚にそう呟いてしまうくらいに、レクスは「可愛さ」を叩きつけられたのだ。


 それは、レクスを好く他の三人、カルティアやアオイ、マリエナとは全く方向の違う可愛さ。


 何時も忘れそうになるが、レインはレクスより一つ年が上だ。


 しかしその事実を全く感じさせない、妖精のような美少女。


 その姿に、レクスはただただ眼を奪われるままになっていたのだ。


「ど、どうです?レクスさま……?」


「あ……ああ。似合ってて、可愛い……。」


 何処か呆けた様子の、だが明らかに見惚れている姿のレクスに、マリンはしめたというようににやりと口元を上げた。


 レインはそのまま白いローファーを履き、レクスの目の前に立ち止まると、上目遣いでレクスを見上げる。


 頬は紅潮しきり、潤んだ眼は何処かレクスの言葉を期待しているようだった。


「あちし……見違えたです……?」


「……ああ。めちゃくちゃ可愛い。……悪ぃ、言葉が出てこなくってよ。」


「大丈夫。レクスは見惚れてる。レインは自信を持っていい。」


 照れくさいようにちらちらとレインを見ては視線を彷徨わせるレクスに、マリンはコクンと頷いた。


「れ……レクスさま。ありがとう……です。」


「お、おう。」


 気恥ずかしいように俯く、初々しい二人に、マリンは満足そうにほほ笑んだ。


 三人は揃って店から出る。


 レインは先程のロリータファッションのままだ。


 くるときに着ていたメイド服は、畳まれてレクスの持つ紙袋に納められている。


 レインはマリンに振り返ると、深く頭を下げた。


「きょ……今日はありがとうございましたです!」


「ううん。わたしもレインに出会えてよかった。同志。また予定が合えば、一緒に来よ?」


「は、はいです!マリンさん!あちしたちは同志です!」


 レインは頭を上げ、輝いた眼でマリンに向かい頷いた。


 どうやらかなりマリンと仲良くなったらしい。


「……悪ぃな。マリンさん。お金、出して貰ってよ。……俺が出したのに。」


 そう、レインの服の代金は全てマリンが出したのだ。


 レクスは自分が出すと言ったのだが、マリンは頑なに譲らなかった。


 バツが悪そうに口を開くレクスに、マリンはふるふると首を横に振る。


「別にいい。これは同志へのわたしからのプレゼント。……もしレクスがそう思うなら、レインに使ってあげて。」


「……ああ。わかったよ。マリンさん。」


 レクスが苦笑しながら頷くと、マリンは満足したように頷き返した。


 マリンはレインに眼を向けると、にこりと微笑む。


「わたしは傭兵ギルドにいる。レクスと来たときには会えるかもしれない。また会おうね、レイン。」


「はい!今日は本当にありがとうです!マリンさん!」


 レインがペコリとお辞儀をすると、マリンはくるりと踵を返し、レクスたちとは反対方向へ歩いていく。


 その後ろ姿は、何処か嬉しそうにレクスは感じた。


 すると、レインがレクスの方に顔を向ける。


 いまだにレクスはレインの姿に慣れず、心臓がドキリと跳ねた。


「じゃあ……デートの続き、するです?」


「……ああ。そうするか。」


「それじゃあ……えい!」


 レインはレクスの腕をガバリと抱え込む。


 レクスの腕にふわふわとしたフリルの感触、そしてむにゅっとしたレインの女性の感触にレクスはかぁっと顔を赤らめた。


「れ……レイン……?」


「ひ、引き続きエスコート、お願いするです。レクスさま……。」


 レインも言っていて恥ずかしいと思ったのか、顔をさらに朱で染めた。


「あ、ああ。……行こうか。」


「は……はいです。」


 ふわりと匂う甘い香りに緊張しながらもレクスは声をかけると、レインは小さく頷く。


 コツコツと鳴り出す石畳に響く足音。


 まだ燦燦と照りつける昼下がりの陽の下で、広場へ向かう二人の影は、一つに重なっていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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