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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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かざぐるま

「かざぐるま…ってなんだ?」


 アオイの発した言葉に、レクスは首を捻る。


 レクスはいままで、風車をみたことが無いのだ。


 すると、よくわからなそうなレクスにアオイはきょとんとした顔で振り向く。


「…レクス、知らないの?」


「ああ。初めて見たぞ。こんなものがあんのか……。」


「…うん。…大和の工芸品。…お祭りとかでよく売れてる。」


「へぇ……。俺の村でも収穫祭とかあったけどよ。露店にも「かざぐるま」なんてみたことが無ぇんだ。」


「…意外。…子供のおもちゃでもよく見かけるのに。」


「そうなのか……。」


 レクスが興味深く見つめる一方で、アオイはどこか遠い目で、憂うように風車を見つめていた。


 くるくると回る風車を、どことなく寂しそうに見つめるアオイ。


 レクスはアオイのそんな視線に気が付き、口を開く。


「どうしたんだ?アオイ。……寂しそうじゃねえか。」


「…え?…うちが?」


「気がついてなかったのかよ。……よかったら、話ぐらいは聞くぞ。……俺は、アオイのことをもっと知らなきゃならねぇからよ。……いや、俺が知りてぇんだ。聞かせてくれるか?」


 レクスは優しげに目元を下げ、少しはにかみつつもアオイに語りかける。


「…レクス。…うん。…わかった。」


 レクスの顔を見てか、アオイはすぅと息を吸うと、レクスに顔を向けた。


「…うちが「シノビ」として活動する前。…うちが「シノビ」の修行を受ける前に、お祭りがあった。」


「大和でもお祭りがあんのか。アルス村でも収穫祭があるけど、同じようなもんか?」


「…少し、違うかも。…大和は、お祭りがわりと多い。…うちが修行を始める前に、ととさまに連れて行ってもらった。」


「ととさまって……アオイの親父さんか?」


 レクスがアオイの琥珀の眼を見つめると、アオイはコクリと頷いた。


「…ととさまは、「これぐらいしかしてやれない」って言って、うちと妹をお祭りに連れて行った。…いつも厳しいととさまだけど、その時だけは優しかった。」


「厳しい親父か……俺にゃ想像できねぇな。」


 レクスの頭の中には、いつも何処か優しげな父親の、レッドのイメージしか無いのだ。


 確かにレクスやクオンが悪いことをすると叱りはするが、「優しい」イメージしかなく、「厳しい」とはほど遠い存在に思えていた。


 そんなレクスを少し微笑みながら眺めるアオイはさらに言葉を続けた。


「…うちの家……「コウガ」家は、優秀な「シノビ」を輩出してきた家。…男子が期待されてた。…でも、うちの家はうちと妹の二人だけ。…それでもととさまはうちと妹の二人を、「シノビ」として育てるって決めたらしい。…だから、普段はすごく厳しかったけど、お祭りの時だけはすごく優しかった。」


「そりゃ……いい親父さんじゃねえか。アオイを立派に育てたかったってことだろ?」


「…うん。…うちも、ととさまは好き。…でも。」


 言葉を紡いでいたアオイの顔が、僅かに影が差した。


 レクスはそれを見逃さなかったが、黙っていることにした。


 余計な口を挟む雰囲気でも無いからだ。


「…いつも、お祭りで見かける他の子たちは、風車を手に遊んでた。…みんなではしゃいで、追いかけっこしたり、見せ合いっこしたり。…そんな子たちを見て、その子のお父さんやお母さんみたいな人は笑ってて。…羨ましかった。…うちには、友達もいなかったから。」


「……アオイ…。」


 レクスはアオイと初めて話した時のことを思い出していた。


『…うちは、友達なんて必要無いから。』


 そう言い放ったアオイは、何処か寂しがっていたようにレクスは覚えている。


 いまでこそ、カルティアやアラン、エミリーやカリーナ、コーラルなどと打ち解け話すアオイだが、最初は『いつも何を考えているかわからないから、話しかけようとする人も居ない』とコーラルは言っていたのを、レクスは聞いていた。


 話してみると、『素直で可愛い』とレクスの知り合いは誰も話す、ごく普通の少女なのだ。


 そんなアオイの横顔は、レクスの瞳には暗く映っていた。


「…うちは、修行をするまえも、ずっと「シノビ」として訓練してた。…もちろん、同年代の女の子は妹だけ。…それに妹はスキルが優秀で、うちとは扱いも違った。…追いつこうとして頑張っても、離されるだけ。…誰も、うちを見てくれなかった。…見てくれたのは、ととさまとかかさま、妹だけ。…ずっと、そうだったから。…だから、この風車が、それを持てることが、すごく羨ましかった。」


 そう言ったアオイの目元から、つうと僅かに雫が垂れていた。


 アオイは気がついていない様子でじっと風車を見据えるばかりだ。


 レクスの中で、以前にアオイから聞いていた「妹」へのコンプレックスと、その言動がアオイの話でしっかりと繋がったのだ。


「……アオイ。……ありがとうな。話してくれてよ。」


「…レクスが知りたいって言ったから。」


「悪ぃな。辛いこと思い出させちまってよ。……マスター!」


 寂しそうに微笑むアオイにいたたまれなくなったレクスは、店の店主を呼びつける。


 店主もレクスの声に気づき、レクスに顔を向けた。


「マスターじゃねえ。ゲンジって呼べ。……買うものが決まったかい?」


 レクスに顔を向けた店主のゲンジは、少しだけ唇を上げていた。


 そんなゲンジに対し、レクスは堂々と口を開く。


「ああ。そこの風車をな。()()頼む。」


お読みいただき、ありがとうございます。

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