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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
間章 かえるもの編

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うちなおすもの

 七の月に差し掛かったグランドキングダムのとある一角。


 そこにあるのは、こぢんまりとした、たったいまにも崩れ落ちそうな木造のボロ家。


 突き立った煙突からは、もくもくと白煙が立ち昇り、熱い陽を霞ませている。


 そこは、エミリーの実家であり、父親のグラッパが経営する鍛冶屋だ。


 外はうだるような暑さだが、輪をかけて暑い店内にレクスの姿はあった。


 ところ狭しと並ぶ武器や防具の中、カウンターには右目に小さな単眼鏡を挟みこみ、黒い鉄塊をすみずみまで凝視しているグラッパがいた。


 その側に立つのは、黒いサマージャケットを羽織り、中に白いシャツを着たレクス。


 隣にはブラウンの花柄模様をした浴衣を着て、店内を「…おぉ…!」と物珍しそうに眼を輝かせながらきょろきょろと見回しているアオイが立っていた。


 レクスはグラッパの手元にある、穴の空いた黒い塊を苦々しく見つめていた。


「おやっさん、どうだ?直りそうかよ?」


「……ちょいとまちな、坊主。もうちょっとでわかりそうだぜ。」


 ドワーフであり、比較的幅広な手をしているグラッパだが、その手つきは繊細であり、丁寧に黒い鉄塊を解体していた。


 レクスがグラッパに修理を依頼したもの。


 それは学園をメギドナが襲撃したときに破損した魔導拳銃だった。


 銃身の真ん中には、触手に貫かれた穴がぽっかりと空いている。


 魔導拳銃は基本ダンジョン産であり、異常な高値で取引される代物だ。数も少なく、持っているのはほとんどが貴族。


 レクスはこの武器を誰に修理を依頼すればわからず、とりあえず身近だったグラッパの工房に頼むことにしたのだった。


 レクスがじぃっとグラッパの手元を見ていると、グラッパが「おっ……!?」と声を上げる。


 ”カチャリ”という音とともに、レクスの魔導拳銃のカバーが開いた。


「……坊主、運が良かったな。こいつが無事なら、問題なさそうだぜ。」


 グラッパはにやりと口元を上げ、楽しそうに下がった赤い目をレクスに向けた。


 その指先は、魔導拳銃の内部に入っていた小さな黒い箱のようなものを指さしている。


「おやっさん、これは……?」


「こいつは”魔導吸収集積回路”って代物だ。魔導拳銃はこいつに使用者の魔力を溜め込んで弾丸にするもんだ。だが、こいつが一番厄介なもんでな。この魔導吸収集積回路っちゅうもんは、誰が作っても上手くいかねぇんだ。どうやって作られてるのか誰もわからねえ代物よ。こいつが壊れてたらお手上げだが、運良くこいつは傷ついてねえ。だから、安心しな。直るぜ、こいつはよ。」


 自信満々にニヤけるグラッパに、レクスはふぅと安堵のため息を吐く。


 魔導拳銃を失うと、レクスの戦闘方法が変わってしまうからだ。


「すまねぇな、おやっさん。本当に助かった。」


「坊主が俺を頼りにしてくれんだ。エミリーのこともあるしよ。学園の襲撃事件もお前さんが解決したんだって?エミリーから聞いたぜ。」


「あ、ああ。……って言っても俺は俺の出来ることをしただけだっての。そう言われると、なんかこそばゆくってよ……。」


 少し照れたように僅かに染まった頬を掻くレクスを、グラッパはガハハと大笑いしながら眺めていた。


 しかし、その様子は一瞬で職人の顔つきに戻る。


「……そんで、坊主はどうしてぇんだ?この銃、元に戻すのか?」


「おやっさんに任せる。なんやかんやでおやっさんの剣の魔導回路が役に立ったしよ。……俺はおやっさんを信用してるからな。」


 レクスの真剣な眼差しに、グラッパはにっと口元を上げた。


 久しぶりの面白い仕事に、わくわくしているような職人の顔つきだった。


「俺は魔導拳銃を扱ったこたぁねえが、仕組みそのもんは知ってるつもりだ。……任せな。坊主の扱える、最高傑作にしてやらぁ。」


 新しいおもちゃを貰ったような子供みたいなグラッパ顔つきに、レクスは少々不安を覚えつつも、レクスは魔導拳銃をグラッパに預けることに決め頷いた。


 グラッパは解体した魔導拳銃の部品を、一つ残らず持ってきた麻袋にしまいだす。


 レクスはすまなそうに、横に立つアオイに目をやる。


「……ごめんなアオイ。付き合わせちまってよ……。」


 その言葉にアオイは優しい顔付きで首を横に振った。


「…大丈夫。…うちも来てみたかった。…欲しいものがあったから。」


 優しく小動物のように微笑むアオイにレクスは少し見惚れてしまった。


 時折出るアオイの微笑みが、レクスにはとても魅力的に映ったのだから。


(……本当、俺なんかにはもったいないぐらいだよな、みんな。……あいつらのことを忘れたわけじゃねぇけどよ。)


 レクスの脳裏に浮かぶのは、幼い頃から共に育った幼馴染と義妹の姿。


 その三人のことが嫌いになることはないし、いまでも引きずっているのだが、それを踏まえてもレクスの中では、「レクスのハーレムに入る」と言ってくれた四人の存在が日に日に大きくなっていくことを、レクス自身自覚していたのだから。


 既にレクスは、カルティアも、アオイも、マリエナも、レインも、「守りたい大切な人」になっていた。


 アオイは店内をぐるりと見渡すと、とある一点を見つめ、ぴくりと目元を動かす。


 するとアオイは何かを見つけたようにレクスの側を離れ、店内に陳列してあったとあるものを手に取った。


 レクスも気になり、アオイの元に歩み寄る。


 アオイが手に持っていたもの。


 それはじゃらりとした細い金属製の鎖の先に重りが付いただけに見える代物。


 いわゆる「鎖分銅」だった。


「…まさか大和の武具がここにあるなんて。…全く思わなかった。」


 アオイが僅かに吃驚したような声を上げ、鎖分銅をじぃっと眺める。


 するとそこにのそのそとグラッパが近寄った。


「お目が高えな、嬢ちゃん!そいつは俺が拵えた「鎖分銅」って大和の武器だ。……まあ、俺も見たもんを適当に作っただけだから、合ってるかはわかんねえがよ。」


「……おやっさん、良いのかよそんなんで。」


「ばっきゃろう。俺の職人魂が作れって言ったんだよ。そんで見よう見まねで作った。……買うなら安くしとくぜ?店の隅で埃被ってちゃそいつも可哀想だしよ。」


「…買う。…幾ら?」


 アオイの答えは即決だった。


「おう、まいどあり!金額は……やっべ、決めてなかった。」


「またかよおやっさん……潰れんぞこの店。」


 レクスは呆れたように眼を細め、ため息を吐く。


「う、うっせぇ。エミリーが継ぐまでは保たせるんだよ、俺が。……あー、一万Gでどうだ?」


「…良心的。…それで良いよ。」


「あんがとよ、嬢ちゃん。これでこいつも日の目を見るってもんだぜ。」


 嬉しそうに笑うグラッパは、武器が買われるのをたいそう喜んでいるようにもレクスには映った。


 アオイは浴衣の懐に手を差し込むと、朱色のがま口財布を取り出し、ぱちんと開く。


 中から金貨を一枚、取り出してグラッパに手渡した。


「丁度だな!まいど!……俺の子だ、しっかり使ってやってくれ。壊れたら直してやるからよ。」


「…ありがとう。…おっちゃん。」


「……そう呼ばれるのは、予想外だったぜ。」


 少し戸惑いつつも嬉しそうに金貨を受け取ると、グラッパはアオイの手から鎖分銅を取り上げる。


「…なんで?」


「サービスだ。ちぃとばかし調整しといてやるよ。嬢ちゃんに合うようにな!」


 グラッパは鎖分銅とレクスの拳銃の部品が入った袋を手に、店の奥へと消えて行った。


 その後、グラッパは手ぶらで二人の元に戻ってくるが、その顔は何処かやる気に燃えているようにも見えた。


「嬢ちゃんのは明日には出来てるから、いつ取りに来ても構わねぇ。坊主の拳銃は、もうちょっとかからぁ。8の月の頭には完成させちゃるからそれまで待ってな。」


「ああ。ありがとうな、おやっさん。」


「…うちの分もありがとう。…おっちゃん。」


 レクスは手を振って、アオイはペコリと礼をして、それぞれはグラッパの工房から出る。


 グラッパも「また来いよ!」と笑顔で手を振るっていた。


 店から脚を踏み出すと、夏の眩しく、暑い陽射しが二人を照りつけた。


 店内と比べれば涼しいが、もわりとした熱気が二人を包み込む。


「…暑い。」


「だな。……アオイ、どっかで休むか?」


 心配そうなレクスの問いかけに、アオイは微笑みながら首を振った。


「…ううん。…いい。…今日は、せっかくのデートだから。」


 やはり優しい笑みに、レクスは頬を染める。


 そう、今日はレクスとアオイのデートの日だった。

本日から間章になります。

お読みいただき、ありがとうございます

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