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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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逢魔の願いごと

 苛立ち眉を潜めるリュウジの傍らで、ノアもまた表情には出さないものの不機嫌だった。


 ミルラや「黄金百合」の面々がリュウジに注目する中、ノアは一人物思いにふける。


 周囲の喧騒など全く気にせず、ノアは自分の意識に没頭していた。


 ノアは感情に任せ怒り狂ったりなどはしないが、先日の学園で起きた事件で思うようにいかなかったことに、かなり腹を立てていたのだ。


(……結局役に立たなかったじゃん。あのオバサン。せっかく回復したわたしの魔力もおじゃんだし。ほんっと最悪。マリエナすら殺せてないしさ。……まあ急がなくてもいいっちゃいいけど。)


 ノアは先日、メギドナに力を貸したせいで、回復した魔力を無駄にこそげ取られ、派手な動きは出来なくなっていたのだ。


 ただ、それもあと二カ月もすれば回復出来る量であり、次の計画に移せるとノアは見ていたのだが。


(……もっと早く、リュージを起こした方が良かったかもね。せっかくリュージの功績になるはずだったのに。マリエナは死んで、あのオバサンはリュージが斃す。そうすればわたしも動きやすくなって、リュージも「学園の救世主」になる。……そのはずだったのになぁ……。)


 ノアは笑顔のままで気づかれないくらいに、小さなため息を吐く。


 ノアの計画は、マリエナを殺すだけではなかったのだ。


(マリエナが死んだあとにリュージを起こす。そうすればリュージはあのオバサンを追い詰めてくれる。オバサンが持ってたわたしの血液を飲むことで魔獣になるから、それをわたしの身体に戻して弱体化させてリュージが斃す。……そうすれば、全て上手くいったのに。)


 ノアは自身の計画を思い浮かべ、僅かに目元をつり上げる。


 全ては上手くいく。そのはずだった。


(レインとか言う娘はあのままでもどうせ死んじゃっただろうし、リュージが悲しめばそれだけで悲劇的になって勇者の機運も高まる。……そのはずだったのに……あの「無能」はなんなんだろ?対して強くもないくせに。しかも「傭兵ギルド」なんてよくわかんないギルドに入ってるしさ。)


 ノアの脳裏によぎるのは、リュウジが「無能」と呼んでいたアルス村の男。


 伝説のスキルの所持者であるリナ、カレン、クオンの幼馴染で、スキル鑑定で何も出なかったとリュウジから聞いた人物だ。


 しかしあの男は何故か学園に入り、カルティアを味方につけて、今回の学園の事件を収束させたのを、ノアは目の当たりにしていた。


 それに、ノアにとって「傭兵ギルド」とは未知の存在であった。


 リュウジに調べさせたが、「金の亡者」とか、「汚い仕事をやる」ギルドであるという情報しかなく、ノアにとっても脅威ではないと判断していたのだ。


 一方の冒険者ギルドはリュウジの「異世界での冒険譚」によく出てくるギルドであり猛者の集うギルドとの情報から、ノアは冒険者ギルドを警戒していた。


(……マリエナまであの「無能」に協力しちゃうしさ。あんなのの何処が良いんだろ?あの「無能」に私の魔獣が倒されちゃったのは、予想外だったよ。)


 ノアが渡した血液を飲んだメギドナは、ノア自身が血液を回収しないとリュウジでは倒せない。


 そう睨んでいたのだが、あの「無能」は姿を変え、いとも容易く魔獣を倒してしまったことに、ノアは驚愕し、苛立ちを覚えていたのだ。


(あのオバサン、わたしの血とあまり適合しなかったのかな?……適合すれば、もっと純粋なわたしの力が使える魔獣になれたのに。……ま、過ぎたことはいっか。)


 ノアの自身の服のポケットにこっそりと手を入れる。


 硬く冷たい感触のする小さなガラス瓶。


 そこには、メギドナに渡したものと同じアンプル瓶が入っていた。


 ノアは心の中でにやりとほくそ笑む。


(実験も兼ねて渡してみたけど、概ね成功かな。あまり適合しなかったのも、人によるだろうし。……もう少し調整は必要かもしれないけどね。……それにしても、あの三人の幼馴染……ね。……もしかすると、もういらないかな。あの「無能」はあの三人を追ってきたってリュージは言ってたし、これ以上計画が狂ってほしくないし。早めに処理したほうが良いかもね。わたしの安全のために。)


 そう思い、ノアがうすらと見つめる目線の先。


 冒険者で賑わう中で、場違いのように可愛らしい三人組の一人。


(……最初は、あの子からでいっか。)


 小さな背に、濡羽色をした髪のツーサイドアップ。


 庇護欲をそそる容姿ながら、不釣り合いに大きく実った女性の象徴。


 翠玉の眼がぱっちりと開き、大きな弓を抱えながらぴょこぴょこと髪を揺らし、リナについて回る女の子。


 レクスの義妹、クオンがそこにいた。


 ◆

 学園の夏休みを目前に控えたある日の昼過ぎ。


 雲一つない、夏晴れの熱い陽射しが照らすのは、学園の生徒会室。


 部屋にはまだ誰も来ておらず、カーテンも閉められていない。


 窓から射し込む光の先にあるのは、生徒会長であるマリエナの机。


 その上には、光に照らされるように二つの人形がたてかけられ並んでいる。


 デートのときにレクスに買ってもらった、桜の柄の万華鏡。


 そこにたてかけられているのは、マリエナが幼い頃にベッドに放り出したあの人形。


 その人形は、仲良く手を繋ぐように寄り添い合う、王子様とマリエナ。


 二人を祝福するかのようにその人形の目線の先には、七の月の青い空が広がっている。


 ”ガラリ”と音を立てて、生徒会室の扉が開いた。


「おつかれさまー。……あれ、誰もいないのかな?」


 入って来たのは、授業を終えたマリエナだ。


 するとその足元から、ぴょこぴょことビッくんが部屋の中へ入っていく。


「あ、ビッくん!」


 急に飛び出したビッくんを追いかけながら、マリエナは早足で自分の席へ向かっていく。


 ビッくんはマリエナの席に辿り着くと、ぴょんと飛び上がり机の上に顔を出した。


 少し遅れて、マリエナも自分の席の側に立った。


 マリエナも、ビッくんも。


 その視線の先にあるのは万華鏡にすげられた二つの人形。


「『……えへへ』」


 ()()()()、何処か嬉しそうにその人形を見つめる。


 幼い頃の夢。諦めかけていた夢。


 それでも願ったその先に。


 マリエナの願いは、成就したのだ。




 お読みいただき、ありがとうございます。


 これにて第四章完結になります。


 レクスの物語はマリエナ、レインを加え佳境へ突入します。


 次の章のテーマは「事態の急変」ということで、クオン編ということになりますが、その前に各ヒロインとのデートとレクスの里帰りを描きます。

「間章・かえるもの編」も楽しんでいってください。


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