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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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刻む誓い

 急に生徒会室の扉が開いたことに、その場にいた全員は驚愕のあまり入口を見た。


 ゴシックタイプのロングスカートを靡かせ、レインは生徒会室へと乱入する。


「れ、レインちゃん!?なんで……?」


 マリエナは目をまん丸にして、レインを見る。


「あ、あちしは……って、マリエナかいちょー!なんて格好してるです!?」


 レインが言葉を発そうとした矢先、レインの目に映っていたのは、スカートをたくし上げたマリエナだったからだ。


 その言葉に、マリエナは「あっ」とした顔を浮かべつつスカートを下ろした。


「ま……まさかそうしないといけないぐらいに切羽詰まってたです?マリエナかいちょー…。」


「ち、違うからね!?」


「あ、あちしもそんなアピールが必要です……?……ご、ご主人様が喜ぶならするですけど……は、恥ずかしいです。」


 顔を真っ赤にしてもじもじとしながら俯くレイン。


 そんなレインに対し、レクスとアオイは目を点にしていた。


「……レインさん。でしたわね。……理由を聞かせて欲しいですわ。」


「は、はいです!カルティア様!」


 カルティアも困惑していたが、顔を真っ赤にしているレインを見定めるように真っ直ぐ、しかし優しげに目を向ける。


 レインも真っ直ぐカルティアを見つめていた。


「あちしは、昨日からアーミア様付きのメイドに変わったです。……そして、アーミア様から言われたです。『マリエナかいちょーが婚約したから、その婚約相手であるレクスさんのお世話をしてほしい』って頼まれたです。」


 その発言に、目を丸くしていたのはマリエナだ。


「お、おかあさん!?……どういうこと!?わ、わたしおかあさんに何も聞いてないんだけど!?」


「アーミア様は続けられたです。『これからマリエナを支えてくれる男性は、絶対にお世話さんが必要になるほどにお嫁さんを増やす男性だから』って。……だからあちしは、ご主人様となるレクスに尽くしたいです!」


「……ご主人様って、俺か!?」


「そうです。マリエナかいちょーの旦那様になるお方がレクスと聞きましたです。……何なりとお申し付け下さいです。ご主人様」


 レインはレクスを真っ直ぐと見たのち、ペコリとお辞儀をする。


 そんなレインに、レクスは眼を揺らして戸惑いながらも、その眼を見つめ返す。


 その頬は朱が差し、青銅の眼にはレクスをはっきりと映していた。


「……レインは俺なんかがご主人様で良いのかよ。」


 困ったようなレクスの言葉に、レインはおどおどしながらも、はっきりと頷いた。


「あちしは、レクスの言葉に助けられたです。レクスがいなかったら、あちしは何も踏み出せないままだったです。絵本の王子様みたいにかっこよくて、優しくて、勇気をくれました……だから、あちしも……レクスが好きです!……だからたとえ、従者としてでもお側に置いて欲しいのです!」


 じっと見据える眼差しは、どう見ても冗談や酔狂にはレクスには感じられない。


 ましてや、緊張しているのか両の手をぐっと握りしめている。


「……レイン。なんでそこまで…。」


「あちしは、あの異形の体内に入る前から、「何も心に感じなくなっていた」んです。戦っている皆を見ても、何も思わず立ちすくんだままだったです。でも……暗い中で、どうしようもなく漂うようなあちしに手を差し伸べて、レクスはあちしを救ってくれたです。その時にあちしは「心」を取り戻したような気がするです。……その時、思ったですよ。「あちし」を治してくれたのは「レクス」です。そんな男の人、あちしには、レクスしかいないです。だから…お願いするです!」


 レインの表情は、真剣そのもの。


 決意を固めているように、レクスには映った。


 そうして、レインがもう一度頭を下げようとした時。


 レインの側に、カルティアとアオイが近寄っていく。


 真面目な表情で近寄る二人に、レインは呆気に取られるが、その瞬間。


 レインの手は、優しくカルティアの手に包み込まれた。


「か……カルティア様……?」


「……レインさん。貴女の想い、しっかりと受け止めましたわ。」


「…伝わったよ。…うちにも。」


 二人の顔はどこか優しく微笑むように、レインの眼を見つめていた。


「よろしくお願いしますわね。レインさん。仲良くいたしましょうね。……同じ殿方を愛する者として。」


「…よろしく。…レイン。…うちも、負けないからね。」


「あ、ありがとうです!あちし……精一杯、レクス…いえ、「ご主人様」に尽くすです。カルティア様も、アオイも、マリエナかいちょーとも、「ご主人様」を支えていきたいです!」


 レインは感激したように、キラキラと輝いた眼で二人を見つめる。


 そこに、マリエナもすたすたと歩み寄る。


 マリエナは、レインをじっと見つめながら、戸惑いつつも微笑んだ。


「レインちゃんも……レクスくんが好きなんだね。……おかあさんは、何て?」


「アーミア様は「貴女の好きになさい」と仰っていたです。だから、あちしはご主人様のお手伝いを引き受けたです。……こうしないと、ご主人様とはいっしょにいれないと思ったですから。」


「……そんなことはねぇだろ。」


 不意に響いたため息混じりのレクスの声。


 その声に、レインはレクスの顔を見る。


 レクスはただじっと、レインを瞳に映していた。


「俺は……まだけりをつけれてねぇことがあって、誰とも恋人になってねぇ。カティとも、アオイともな。」


「そ、そうなのです!?」


「え!?そうなの、レクスくん!?」


 吃驚したようなレインとマリエナの声。


 カルティアとアオイはただじっとレクスを見ていた。


「ああ。でも、今年中にはけりをつけるつもりだ。絶対にな。カティとアオイはそれでも良いって言ってくれたけどな。二人は……それで良いのかよ。」


 レクスの真剣な眼差しが、マリエナとレインの二人に注がれる。


 しかしその瞬間、二人はすぐにコクリと頷いた。


「わたしは……「淫魔紋」のこともあるけど、それ以前に、レクスくんがいいの。他の誰でもない、レクスくんじゃなきゃ嫌だから。」


「あちしもです。あちしを助けてくれたのはレクスさんです。あちしの「心」を取り戻してくれたレクス……いえ、ご主人様がいいです。……お傍に、おいてほしいです。」


 二人の言葉。


 観念したように、レクスは口を開いた。


「二人とも……。ああ、わかった。……絶対にけりをつけて、責任を取る。それまで、待っててくれ。」


 レクスは真剣な眼で四人を見据え、はっきりとした声色で告げる。


 すると。


「わたくしは、最初からそのつもりですわ。どうあろうと、必ずレクスさんの隣に立つつもりですもの。」


 カルティアは、ころころと微笑みながら。


「…うちもカルティアといっしょ。…絶対、レクスを逃さない。」


 アオイは、少し口元を上げて。


「さっきも言ったけど、わたしはレクスくんがいいの。……こんなわたしだけど、よろしくね。レクスくん。」


 マリエナはにっこりと笑いながら。


「あちしもマリエナかいちょーと同じです。あちしは、「従者」としてもよろしくです。」


 レインはクスリと目元を下げて。


 その場の四人はコクリと頷いた。


「……ありがとうな。こんな俺を、好きでいてくれてよ。」


 その言葉に、レクスは胸がじわりと温かくなる。


 レクスは自身の胸に手を当てた。


 どく、どくと血潮を流すリズムが、重くレクスの身体に響く。


 そして、一つ。誓いを胸に刻んだ。


(俺を好きでいてくれるんだ……。絶対に、守り通さなきゃならねぇな。)


 そんなレクスを、四人は嬉しそうに見つめていた。


 すると、カルティアがぽつんと呟く。


「そうと決まれば、夜に女子会をしないといけませんわね。細かいルールを決めなければなりませんもの。」


「…わかった。…会長とレインも来てね。」


「う、うん。……王女様と女子会なんて、わたし、いいのかな……?」


「女子会です?そうと決まれば、あちしのメイドとしての腕前を見せるときです!」


 わいのわいのと姦しく話す四人。


 だが、当のレクスは蚊帳の外だ。


 苦笑いしながら四人を見ていると、クイクイとレクスの裾が引かれる。


 ビッくんだ。


 足元に眼をやると、ポンポンと脚をたたき、にこりと笑ったような表情を浮かべた。


 その顔は、どこか「大丈夫。頑張って。」と言っているようにレクスには見えて。


「ああ。ありがとうな。ビッくん。」


 ニコッと笑い、レクスはビッくんを抱え上げる。


 皇暦一四〇五年 六の月 三〇分目。

 レクスの運命を握る女性は、あと三人。

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