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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第一章・出立・まどうもの編

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第7.5−1話

 7.5

 リュウジがノアと身体で交わった翌日。

 リュウジたちは王宮の兵士の訓練場に集められていた。

 晴天の下で、雑草の無いむき出しの砂が、微かに風で動く。

 リュウジたちは皆、それぞれの装備が用意されており、それらを着用していた。

 リュウジとリナは胴にプレートメイルを着用した簡素なものだ。

 カレンとノアは魔術師用のローブが支給されていた。

 クオンは胸部に革製の硬い胸当てを着用しており、右手には弓を引くための革製グローブをはめている。

 必要最低限の装備を着込んだリュウジたちは、ずらりと横一列に並んでいた。

 リュウジたちの前には何人かの兵士が対面で並んでいる。

 リュウジは「ふぁぁ」と眠そうにしているが、リナたちはこれから何が始まるのかとドキドキした様子だ。ノアに至ってはニコニコと微笑んでいる。

 そんな中、リュウジたちの前に一人の兵士が駆け足でやってきた。

 兵士はそのまま、リュウジたちの前で立ち止まり、リュウジたちを見る。


「勇者殿。お待たせしてしまい、申し訳ありませぬ。王国軍のバッファと申します。」


 バッファは40歳位で金髪の美丈夫だった。

 質素だが年季の入った鎧を着用しており、腰の左側には長剣をさしている。

 その眼光は鋭いものだった。


「で?僕たちを待たせて何させるっていうのさ?僕はいろいろやりたい事があるんだけど?」


 リュウジは軽薄な口調でバッファに返す。

 しかしバッファはそれを気にしていないのか、その素振りに怒りなどは見えなかった。


「はっ。皆様には、いち早くスキルに慣れることとそのスキルの上達をして頂く為、教導騎士の方々をご用意しました。彼らなら、皆様の上達の力添えになると信じております。それでは、前へ!」


 バッファの声にリュウジたちの前に並んでいた兵士たちが前に出る。

 筋骨隆々な男性とローブを纏った背の高い女性、褐色で弓を持った女性の三人だ。

 そして筋骨隆々な男性が口を開く。


「俺の名前はガルダン!ガルダン・バイカルだ!スキルは「剣士」だ!俺は勇者殿と赤髪のお嬢さんを担当するぜ!宜しく!」


 茶髪で筋骨隆々な男性は明るく遠くまで聞こえそうな声で自己紹介をした。

 歯を見せつけるほどの満面の笑みだ。


(うっわ…暑苦し。僕こういうタイプ嫌いなんだよね。)


 リュウジは引きつった笑みを浮かべていた。

 ガルダンはリュウジが歓迎していると勘違いしているのかガハハと笑っている。

 続いてローブ姿の女性が前に出る。

 女性はローブのフードを脱ぐ。

 青灰色のボブヘアをした、身長がリナ位の美女だった。

 瞳は大地のような茶色だ。


「ジーニア・ファーリス。ジーニアでいい。担当は魔術。青髪の子と赤黒い髪の子がこっち。よろしく。」


 透きとおるような声で自己紹介していたが、少々めんどくさそうに話すジーニア。

 カレンはそれに合わせ、「宜しくお願いします」と礼をしていた。ノアも「よろしくね」と言ってはいたが礼はしなかった。

 意外な美女にリュウジは少し、鼻息が荒くなっていた。

 そして褐色の女性が元気よく前に出る。

 この女性もジーニアと方向性は違うが美女と言っていいだろう。

 身長は低めだがノアよりも高く、カレンより小さい。

 胸こそあまりないが、元気な雰囲気にその体躯は黄金比とも言えた。


「マティア・パガーニでス!よろしくお願いしまス!

 あてはそこの黒髪の子を担当するヨ!スキルは「弓術士」!よろしク!」


 マティアはハキハキと何処か癖のあるイントネーションで挨拶をする。

 クオンは「よろしくです。」と少し緊張気味に挨拶を返していた。

 リュウジはまたしても違う方向の美女に心をゾクゾクさせていた。


(最初の筋肉バカはどうでもいいや。後の二人は凄くそそるじゃん。ま、美女や美少女はみんな僕の虜になるんだ。このスキルでね。)


 そう思い、口角を吊り上げる。

 リュウジの次のターゲットが決まった瞬間だった。

 バッファがリュウジたちを見て言葉を続ける。


「教導騎士は全員が王国軍の中でも精鋭だ。確実に勇者殿たちの力になってくれるだろう。王国学園の実技試験にも間に合うよう、私たちも努力する。それでは各自分かれて訓練を進めて行ってほしい。…それでは3人とも、あとは任せましたぞ。」


 そう言ってバッファはその場を去る。


(え?王国学園って実技は受けるの?…ま、僕の勇者スキルを見せつけるには丁度いいか。試験トップで入学するのが定番だしね。)


 一瞬試験を受けることに戸惑ったリュウジだが、よくある事だと思い直した。

 するとガルダンが声を出す。


「さあ時間は待っちゃくれねえぜ!さっそく分かれて訓練といこう!」


 その言葉にリュウジが慌てて前に出る。


「ちょっと待ってくれないかな?僕たちも一応自己紹介しておきたいんだ。それと友愛の印として握手もね。さすがにずっと勇者殿、勇者殿って呼ばれちゃ堅っ苦しいよ。ね?皆?」


 リュウジの発言に、リナたちも頷く。


「おっといけねぇ!それもそうだな!じゃ、それが終わってから分かれっか!」


 ガルダンは手を顔に当て、ガハハと笑っていた。

 そしてリュウジたちはそれぞれが自己紹介をする。

 リュウジもそれぞれの教導騎士としっかり握手をした。


(これでこの二人もゲットってね。僕のパーティも強くなっていくな。ヒヒヒっ。)


 リュウジは心の中でほくそ笑むが、その様子は誰も気がついていなかった。

 一通りリュウジたちの自己紹介が終わった後にリュウジたちは訓練担当ごとに分かれた。


 リュウジとリナはガルダンの指示の下、訓練場の真ん中へやってきた。

 そしてガルダンは背負っていた袋を地面に落とす。

 袋からガラガラと多数の木製武器があふれ出た。


「リュウジとリナちゃんはこんなかから武具を選んで、俺に打ち込んでこい!もちろん俺も抵抗して武器を振るう。なるべく怪我させないようにするが、怪我させたらすまねぇ!」


 そう言ってガハハと笑うガルダン。


「あたしは…これかな。使ったことないし、わからないけど多分これね。しっくりくるもの。」


 リナが選んだ剣は刃の広い大剣だった。

 長さはリナの身長よりやや短い位のものだ。

 幾らリナが「聖剣士」とは言え少女が扱えるようなものではない。


「おいおいリナちゃん。それはちょっとリナちゃんには大きいじゃ…」


 ガルダンがそういった瞬間、ブゥンと風斬り音がして、揺らいだ空気がガルダンの髪を揺らす。


「へぇ。いいじゃない。これにするわ。」


 リナが軽々と大剣を振るっていた。

 いくら木製とはいえどかなりの重量があり、扱い難い武器を器用に振り回すリナにガルダンは驚きを隠せない。


「こりゃ、とんでもないお嬢ちゃんだ。なるほど、俺の見当違いだったか。おもしれぇ。」


 そう言うとガルダンの目つきが荒々しいものに変わる。

 それはまるで、強者を求める目つきだった。


「ま、僕はこれだね。」


 そう言ってリュウジが手に取ったのは長剣だった。

 長剣は神聖剣ファブニルと大きさや太さも近いものをリュウジは選んでいた。


「そい、そい、そいっと。」


 リュウジは軽い感覚で長剣を振るう。

 ヒュンヒュンと風を切る音をさせたかと思えば、そのままピタっと剣を止めた。


「うん。いいねこれ。やっぱり僕はこれにしよ。」


 その動きを目にしたガルダンは眼を丸くしていた。


「リュウジよ。おめぇどっかで剣持ったことがあるのか?」


「ん?ないけど?どっか変かな?」


 リュウジはあっけらかんとした表情でガルダンを見る。


「いや、スキルがあってここまで熟練してるもんだから驚いちまった。こりゃ、俺もちっとばかし気合入れねぇとな!」


 ガルダンは楽しげに笑っていた。

 しかしその目は、剣士としてのプライドが燃え上がっていた。


「じゃ、来な。いっちょ指導してやるよ。」


 ガルダンはリュウジとリナから離れる。

 正面に木剣を構えるとニヤリと口元を上げた。

 その目は闘志に燃えている。


「はああああっ!」


 まず飛び出していったのはリナだ。

 リナはガルダンの元に駆け、ガルダンを自身の中央に捉える。

 掛け声と共に大振りで大剣を振るった。


「そいっ!」


 ”バキィ”っと音が鳴り、リナの大剣がガルダンの木剣に受け止められた。

 受け止めた剣が軋みを上げる。

 ガルダンは完璧にリナの挙動を読んだ筈だった。


(やっぱこの嬢ちゃん、強えぇな!これで初めてかよ!)


 そうガルダンが思うくらいに、リナの剣は重く、鋭い一刀だった。

 一方のリナは何処か充実したような気持ちを抱えていた。


(身体も軽いし剣を振るのも楽ね。身体が付いてくるみたい。これでリュウジと一緒に戦えるわ!)


 そんな手応えを嬉々として感じていた。

 ガルダンはリナの剣筋を逸らし、払う。


「次は僕だ!」


 今度はリュウジがガルダンに向かう。

 さらに鋭い剣閃をガルダンに浴びせかけた。


「なんの!」


 ”カンカンカン”とリュウジの剣がガルダンの剣に何度も当たる。

 ガルダンはその剣閃を全て守りきったつもりであったが、リュウジの剣閃は一回一回全てが鋭いものだ。

 じんじんと腕に痺れが蓄積していく。

 ガルダンの額を汗が伝う。

 本気を出すべきだとガルダンの本能が囁いていた。


「悪いな!手加減できそうに無ぇや!耐えろや!」


 ガルダンはリュウジに向かい剣を横薙ぎに振るうが、リュウジはそれを分かっているかのように剣を当て防いだ。

 そのままガルダンはラッシュへ移行し、幾度も剣を振り続けるが全てリュウジが防ぎ止めていた。

 もちろんガルダンが手加減しているわけではない。


「あはは。やっぱりだ。上手く扱えてる!」


 リュウジは子どもが初めて剣を振るったように嬉々として剣を振るっていた。

 しかし、その狙いや剣筋は熟練のそれだ。

 その姿にガルダンは驚愕する。


(なんだ…リュウジってバケモンじゃないか。こりゃ、末恐ろしいぞ…)


 そう思ったガルダンは何とかリュウジの剣を弾き返す。

 すると背後に殺気を感じ、すぐに殺気の方向へ剣を向けた。

 リナが大剣を思い切り振るい、ガルダンを狙う。

 咄嗟に構えたガルダンの剣が間に合い、リナの剣を防御する。

 ガルダンの腕に、強烈な痺れが襲いかかった。


(この嬢ちゃんもバケモンだろ!やっぱ伝説級スキルってのは違う!)


 ガルダンはリナの剣をそのまま受け流し、体勢を整える。

 その間にまたリュウジの剣がガルダンに襲いかかり、ギリギリで受け流す。

 その直後にはリナの剣を受け止め、上手く流す。

 リュウジとリナの波状攻撃に、ガルダンは舌を巻いていた。


(かなりいい腕してるじゃねぇかこいつら!鍛えりゃ敵なしだろうな!)


 ギラついた眼でリュウジとリナを見つつ、攻撃を剣で受け流すガルダン。


「そいっ!」


 リュウジが鋭い太刀筋でガルダンの胴を狙う。

 ”カァン”とリュウジの攻撃をガルダンの剣がすんでのところで受け、弾く。


「はあああああ!」


 リナが踏み込み、大振りの一撃がガルダンの胴目掛け襲いかかる。

 その一撃を剣で受け、弾くガルダン。

 その時だった。

 ”バキィ”とガルダンの木剣が音を立てて壊れた。

 リナの攻撃そのものは弾くことができたが、弾いた剣の勢いまでは木剣が抑えきれなかったのだ。

 ガルダンは後ろに下がり肩を落とすと、参ったというように手を上げた。


「すまねぇ。舐めてたつもりは無かったんだが、思った以上にお前らが強かった。さすがに剣が折れちゃ続けようがねぇ。」


 そう言ってガルダンはニカリと笑う。

 リュウジとリナは持っていた武器を下ろした。

 リナはリュウジに向かい、ニコリと微笑む。


「やったわね。リュウジ。」


「ああ。僕たちの勝ちだ。」


 リナはリュウジとパチンとハイタッチをして、喜ぶ。

 リナは純粋に喜んでいたが、リュウジは心の中でほくそ笑んでいた。


(ま、楽勝だったけどね。さすが勇者の力ってとこかな。これくらいは簡単に無双出来ないとね。)


 そう思いつつ、リュウジはうんうんひとりでに頷いていた。


「どうしたの?リュウジ?」


「あ、今回はリナと勝てたからいいけど、これから先はもっとコンビネーションも鍛えなくちゃって思ってさ。もっとリナと上手く連携できるようにしないとね。…もっと仲を育めば良いのかな?」


 そのリュウジの発言に、リナの顔が紅く染まる。


「も、もう、リュウジったら!」


 照れ隠しにリュウジの肩をバンバン叩いているリナをガルダンはガハハと笑っていた。

 リュウジはそんなリナを見て優越感に浸る。


(そうそう。これだよこれ。ハーレム主人公ってのはさぁ!二コポナデポでしっかり落としていかないとね。)


 そう思ってニヤつくリュウジにガルダンが声をかける。


「じゃ、今日の訓練はここま「いやぁ、凄かったね君たち。」誰だ!?」


 言葉を遮られたガルダンは声のした方にぐるりと身体を向ける。

 ガルダンの言葉に被せるように、パチパチと拍手をしながら、一人の青年がリュウジたちの元へ歩いてくる。

 身長はリュウジと同じくらいで金髪で短髪だった。

 顔立ちは整っており、その瞳は薄い灰色をしている。

 装飾された鎧を纏い、腰の左側に剣を下げていた。

 どこか優雅さを感じられる歩き振りな青年は満足げに笑っている。

 その姿に、ガルダンは目を見開く。


「こ…近衛隊長…!?どうしてこんな所に…?」


「ん?ああ。近くまで来たら、勇者くんが丁度訓練を始めたって聞いたからね。見に来たんだ。…君が噂の勇者くんだね?」


 そう言って青年はリュウジとリナをまっすぐに見る。

 リュウジとリナは急に現れた青年を警戒していた。

 そんな態度に気がついたのか、青年は苦笑しながらリュウジに右手を差し出した。


「ああ。驚かせちゃったね。僕はエヴィーク。エヴィーク・ガンザだ。一応、この国の近衛兵長をやらせてもらっているよ。勇者リュウジくんとリナちゃんだっけか。噂は聞いてるよ。よろしく。」


 差し出された手をリュウジは握る。

 エヴィークは手甲をしていた為、操心は発動出来ない。どのみちリュウジは男性に使うつもりもなかったが。

 リュウジが手を離すと、リナの方にその手を向けるエヴィーク。

 リナは「よ、よろしくお願いします…。」とおどおどしながらも握手する。

 そうしてリナから手を離すと、「そうだ」と何か思いついたように手を合わせた。


「せっかくの機会だ。二人共、僕と手合わせしないかい?」


「近衛隊長。それは…。」


「大丈夫だって。手加減はするから。僕も二人の実力が気になっちゃってね。二人とも、大丈夫かな?」


 ガルダンがエヴィークを止めようとするも、エヴィークはニヘラと笑い、リュウジとリナに問いかける。

 リナはムッとした顔をエヴィークに向けていた。

 どうやら「手加減」という言葉が癪に障ったらしい。


「近衛団長だか何だか知らないけど、あたしとリュウジ相手に手加減は怪我するわよ!…リュウジ、やれるわよね?」


 リナはやる気だった。先ほどのガルダンとの模擬戦で勝って、少々浮かれていた部分もあるだろう。

 しかして、それはリュウジも一緒だった。


(いきなり出てきて何だこいつ!?僕は勇者っていうチートを持ってるんだぞ!吠え面かかせてやる。…そして何より…。)


「いこうか、リナ。力を合わせれば勝てない相手じゃない。手加減を後悔させてやろう。」


 そう言ってリナを向き、頷く。


「ええ。いくわよリュウジ。」


「うん。エヴィークさんこそ怪我するかもね。」


 リュウジとリナは先ほどまで使っていた木剣をそれぞれ手に取る。


(あの余裕そうな態度が気に食わないんだよね!)


 女性の理想を体現したかのような風貌。

 醸し出される色男の雰囲気。

 グランドキングダムでの地位。

 そしてあの強者のような態度。

 エヴィークの全てがリュウジの理想でもあり。

 その全てがリュウジは気に入らなかった。

お読みいただきありがとうございます

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