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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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答え合わせ

「……は?……バァさん、気でも狂ったか?」


「いいや、気なんか狂ってないさね。……アタシも、聞いた時にゃ耳を疑ったさ。」


 唖然とするマルクスに対し、ヴィオナの顔は真剣にマルクスを見据えていた。


「……おめぇがそう言うってことは、気が狂ってなけりゃほぼほぼ間違いねえってこった。……嘘だと思いてえがよ。」


 ため息混じりに顔を顰め、マルクスはヴィオナを見返す。


 マルクスは視線をヴィオナの目に合わせ、言葉を重ねた。


「何か証拠はあんのかよ?……まあ、疑うことすら出来ねえほどに確証があるから言ってんだろうけどよ。」


 ヴィオナはコクリと頷くとゆっくりと口を開く。


「お前さんが前に言ってた、冒険者のパーティ解散。あれに勇者が関わってるのはどうやら明白な事実さね。うちのに調べさせたけど、冒険者の女性たちが次々と「勇者」に肩入れしていたからねぇ。痴情の縺れでパーティの解散が多いのもそれさね」


「まあ、確かに女に振られた冒険者崩れの犯罪は増えてる。「パーティを解散した」ってな。……でも、それじゃただの色ボケなだけじゃねえか?」


「そうさね。それだけ見れば、ただの色ボケ勇者さ。……だけど、こうは捉えられないかい?「冒険者ギルドの内部崩壊」をさせているってねぇ。」


 鋭い視線と共に放たれた言葉に、マルクスは眼を見開き、顔を引き攣らせた。


「そ、そりゃ考えすぎだろおめぇ……。」


「二月ほど前の話になるさね。……カルティア第三王女が襲われた。それも、正体不明の魔獣によってね。その魔獣は核すら残さない奇妙な魔獣だったって話さ。」


「なぁっ……!?嘘だろおい!?そんな事件報告に上がってねえぞ!?」


「本当のことさね。その場にうちのレクスがいたからカルティア第三王女は助かった。公には秘密になっているけどね……。だが、こうは考えられないかい?「思い通りにならない王女を抹殺しようとした。」ってね。事実、王家の中ではカルティア第三王女だけが勇者に不信感を持っていたって調べはついてる。あとは……先日のこれさね。」


 ヴィオナは机の上に、コツンとあるものを置く。


 それは先日の学園襲撃の際に、異形となったメギドナから出てきた魔核の一部だ。


 レクスが砕いたその魔石だが、それをチェリンにヴィオナは回収させていたのだ。

 その欠片に、マルクスは忌々しいように顔を顰める。


「そいつは……!」


「チェリンがそこにいたからねぇ。少し回収させて貰ったよ。……ダークネスサーヴァントの魔核によく似てる魔核だが、闇の魔力に何かよく分からない魔力が混ざった、全くの別物。既存の魔獣とは異なる……そう出ていないかい?」


 マルクスが口元をピクリと引き攣らせる。


 その動きをヴィオナは肯定と受け取り、話を続けた。


「うちの鑑定結果も全く同じだったさね。だが……うちには詳しい奴がいてね。さらに細かいことがわかったのさ。」


「ミアか。……確かに、天使族ならわかるかもしれねえな。」


 ヴィオナはコクリと頭を縦に振った。


 天使族。


 それはこの世界で最も少ない種族であり、サキュバスよりも少ない、そもそも何処にいるかすらわからない希少種族。


 傭兵ギルドは一人、クロウの妻として抱えているのだ。


 マルクスは鋭い視線をヴィオナに向け、次の言葉を待った。


「ミアリエルの調べた結果は……「魔王」の魔力。そりゃ既存の魔獣には当てはまらない訳さね。」


「おい……待てよ。それじゃ、学園の事件の真犯人は……。」


 顔を大きく引き攣らせたマルクスに、ヴィオナは言い放った。


「「魔王」。間違いないだろうねぇ。……とんだ大物が釣れたもんさ。」


 鋭い眼をそのままに、ヴィオナは口角を上げた。


 何処か楽しむような雰囲気に、マルクスは気圧されるように僅かに退く。


 苦々しい表情を浮かべ、ゴクリと息を呑みながらも、マルクスはヴィオナに向けて首を振るう。


「……バカ言え。いくらその核に「魔王」の力が入ったところで、勇者とは関係ねえだろ。勇者も気を失ってたんだ。だったら逆にお前んとこのレクスが怪しくなるだろうが。唯一気絶してねえ男子だぞ。」


「ああ、そうさね。だからこそ泳がせたのさ。……結果、レクスには魔王に全く関わる理由すらないってことがわかったさね。」


「身内を疑うたぁ……おっかねえバァさんだこって。」


「ま、アタシもレクスを最初から疑っちゃいないさ。”一応”ぐらいにしか思ってないさね。……本命は「勇者」だったからねぇ。」


 そう口にしたヴィオナは、二枚の紙を机の引き出しから取り出し、机を滑らせる。


「……なんだこいつは?」


 マルクスが紙を指さし、訝しむように眉を潜める。

 紙に書かれたのは、王立学園生の名簿だ。


「王立学園の受験者の点数表と、学園の生徒名簿さね。事件のあった日に、レクスの活動報告のついでにチェリンに取りに行かせたさ。アタシの名前を使ってね。」


「いや……見りゃわかるが……?」


「受験者に、「ノア」という少女がいるはずさね。生徒名簿にもね。だが……おかしいのさ。実技試験の結果が無いのは、レクスとノアだけなのは変さね。レクスだけなら、納得出来るんだけどねぇ。……レクスだけは、うちの入団試験で実技試験が免除だからさね。問題は……「ノア」さ。」


「試験を……受けてねぇのか?……勇者の仲間だからじゃねえのかよ?」


 マルクスの反応は最もだとヴィオナは思っていた。


 勇者の仲間であるリナ、カレン、クオン、ノアの四人は、勇者の御付きとして広く名が知られているからだ。


 しかし、ヴィオナは「いいや」と首を横に振る。


「勇者の仲間は受けてるさね。例外なく勇者もね。だから、「ノア」だけ理由が無いのさ。……まるで、その時だけ不自然に試験官を納得させたようにねぇ。」


 その言葉に、マルクスははっとして二つの表を見比べた。


 ヴィオナは続ける。


「そこで、「勇者」の仲間っていう線が繋がるさね。明らかに怪しいのさ。……まあ、「怪しい」くらいだったさね。この前の事件が起きるまではね。」


 ヴィオナは顔を真っ直ぐマルクスに向ける。


 その顔はただの老獪ではない。


「伝説の傭兵」そのものだった。


「「ノア」が勇者の御付きでなかったなら、アタシもここまで疑っちゃいないさね。勇者の御付きで、尚且つ試験を受けて居ない。そして、学園で勇者と動けて違和感のない人間であり、勇者とともに行動している回数の多い人物。それが……「ノア」さね。」


 マルクスは冷や汗を垂らし、愕然としていた。


 それはつまり。


「魔王が……もう復活してて、勇者を捕まえてるってことかよ……はは、冗談きついぜ、バァさん……。そうすると……魔王を倒せる奴が、いねえじゃねえか……。」


 マルクスの乾ききった笑いが部屋に響く。


 しかし、その目は笑っていない。


 真実を、信じたくないように。


 魔王を倒す「神聖剣」を扱えるのは「勇者」のスキルを持った人物だけなのだから。


「……勇者を殺さないのは、殺せないか、利用してるだけってとこさね。ほぼ後者だろうね。復活しきってないから勇者に付いたと見ていいかもねぇ。勇者は王家の客人だから、下手なことは出来ない。勇者を捕らえようものなら、「ノア」は自由になる。「ノア」を捕らえようなら、勇者と王国が敵になる。……全く、上手く出来てるもんさ。」


 吐き捨てるように呟くヴィオナは、はぁと大きくため息を吐いた。


 この状況が、手詰まり(デッドロック)なのだ。


「……なんで、今回の事件を魔王が起こしてんだ?」


「そこまでは分からんさね。……ただ、うちも少し、万が一の対策だけは取っておこうと思っているさね。……憲兵隊も、他人事じゃないよ。」


「……ああ。本当にな。……聞くんじゃなかったぜ。畜生がよ。」


 ヴィオナの鋭い声に、唇を噛み締めるように呟くマルクス。


 すると、ふとヴィオナが呟いた。


「……レクスには、感謝しないといけないねぇ。」


「あぁん?どういうこったよ?」


「レクスが学園にいたからこそ、今ここまで繋がったさね。……被害が拡大した後じゃ、遅すぎたからね。」


「……ああ。そうかもな。」


 ヴィオナはちらりと窓の外を見る。


 強い陽射しに、大きな入道雲が掛かろうとしていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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