表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/226

おかえりなさい


 重苦しい雰囲気の中に、コツコツと誰かが廊下を歩く音が生徒会室に響く。


 聞こえてくる足音は二つ。


 その足音は二つとも、ぴたりと生徒会室の前で止まった。


 コンコンと響く乾いたノックの音。


「……レクスだ。生徒会の皆は居るか?」


 聞こえてきたのはレクスの声。


「あ、レクスくん?みんないるよー。」


「……わかった。じゃ、お邪魔するぞ。」


 マリエナの声を聞いたレクスが生徒会室の引き戸を開く。


 そこに立っていたのは。


「み……皆さん。お久しぶり……です。」


 学園の制服を着た、レインが気恥ずかしそうに立っていた。


 瞬間。


 その姿に、生徒会の面々は全員、眼を丸くして口を開いた。


「レインちゃん!?」

「レインさん!?」

「レイン!?」

「レインッスか!?」


「ひゃあっ!?」


 一斉に上がった声に、レインは驚き僅かにのけぞる。


 それぐらいに、生徒会の全員は驚いたのだ。


「レインが復学するのは厳しい」と、皆がそう思っていたから。


「な……なんでレインちゃんが……。」


「……俺が説明する。」


 レインの後ろから、レクスが生徒会室にゆっくりと入って来た。


「レ……レクスくん?どういうことかな?」


「レインは『あいつの言う事を聞いただけの被害者』ってな。憲兵隊でそう結論が出た。……どのみち「嫌疑不十分」だってな。ようは何の罪もねぇ。お咎めもなしだ。」


「そ、そうなんだ……なんでレクスくんが知ってるの!?」


「さっき傭兵ギルドで憲兵隊のマルクスさんと会ってよ。……連れられたレインを引き取ってきただけだ。」


「憲兵隊のマルクスさんって隊長じゃないッスか……。」


 何の気なしに言われたレクスの言葉に、ヴァレッタは絶句する。


 すると、おずおずとレインが前に一歩踏み出した。


 その瞳は、不安そうに揺らめいている。


「み、皆さん。……ごめんなさいです!」


 深々と頭を下げるレイン。


「あちしのせいで……皆さんに迷惑をかけたです!退学しようとも思ったです。でも……あちしは、また皆とこの生徒会に居たいです。だから、お願いするです!あちしを……もう一度生徒会に……。」


「何、言ってるッスか?」


「……え?」


 ヴァレッタの呟きに、レインは顔を上げる。


 そこには。


 嬉しそうに微笑む生徒会役員の姿が、レインの瞳に映った。


 ヴァレッタは口元を上げくしゃっと笑い、ルーガは少し困ったように苦笑を浮かべる。


 クリスは眼鏡をくいっと上げたが、その口元はほころんでおり、マリエナはニコニコと明るい笑みを浮かべていた。


「もう一度も何も、レインは今でも生徒会役員じゃないッスか。」


「そうだ。生徒会の条項では、役員の解任は会長しかできないことになってる。まだ、レインはマリエナ会長が解任の手続きすらしてないからな。」


「レインさんに辞められると、私たちが困ります。誰がマリエナちゃんのミスを咎めるんですか?」


「ちょ……ちょっと!?クリスちゃん!?ひどいこと言ってるよね?私に!……全く。」


 ぷんぷんと怒ったように非難するマリエナだが、コホンと咳払いし、真っ直ぐレインを見つめる。


「生徒会には、レインちゃんが必要なんだよ?それに……レインちゃんが望むなら、ここにいていいの。だから……おかえり、レインちゃん。」


 その言葉に、レインの目元から、雫が溢れた。


 受け入れられた。


 そのことが何より嬉しかったのだ。


 そして、このときにレインは気がついていた。


 マリエナは、お飾りの生徒会長ではないと。


 他の役員が優秀で気が付かないが、マリエナは生徒会を纏め上げる「器」であり、マリエナがいなければ、そもそも生徒会は纏まっていないことを。


「……ただいまです…。皆。」


 ぽたぽたと涙をこぼすレインを、生徒会の皆も、レクスも優しげな表情で、安堵しながら見守っていた。


 そして、しんみりとした雰囲気は、ヴァレッタの一声で打ち破られる。


「……さて、レインも戻って来たし、仕事するッスよ!……レインがいれば、もっと早く終わるッスからね!」


「そうだな。戻って早々で悪いけど、すごく仕事が溜まってるんだ。レインにも、早速仕事をしてもらわないとな!」


「レインさんがいれば、夏休みまでには絶対に終わるでしょう。」


「うん。レインちゃんは頼りになるからね。お願い。」


 マリエナの優しい笑顔に、レインは腕でぐっと涙を拭う。


「全く……皆あちしに頼りきりです!もっとしっかりしてほしいです!」


 そう言った表情は、満面の笑顔で。


 すぐに自分の席へと歩みよっていった。


 レクスはそれを見て、安堵したように微笑む。


(……良かったじゃねぇか。レイン。)


 見送って、踵を返し生徒会から立ち去ろうとした。


 その時だった。


「……待つッスよ。」


「……ん?何だ……!?」


 レクスが振り返ると、ニヤついた笑みをしたヴァレッタがレクスを見ていた。


「……今、生徒会は猫の手も借りたい時ッス。だから……手伝ってほしいッスよ…。夏休みの為に。」


「お、おう?って事は……まさか!?」


「大丈夫ッス。簡単な仕事だけッスから。」


「レクスさんに手伝っていただければ、だいぶ楽になるかと。」


「悪いけど、頼ませてくれ。……本当に、死活問題なんだ。」


「そうです。レクスも手伝うです。……その方が、あちしも嬉しいです。」


「レクスくん……ごめんね。お願いできるかな?」


 生徒会役員の重圧に、レクスは苦笑いを浮かべる。


 生徒会室の扉が、ピシャリと閉まった。


 その後、慣れない仕事にレクスが悲鳴を上げた事は、言うまでもない。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ