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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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空席

「うわああああああん!ああんまりッスよぉ〜!」


 学園の襲撃から数日ほど経った、学園の生徒会室。


 昼下がりで、窓から眩しく射し込む陽は桜色のカーテンによって遮られている。


 そこでヴァレッタが頭を抱え、悲鳴にも近い泣き声を上げていた。


 ヴァレッタは机に伏し、その両脇には大量の書類。


 その様子を生徒会室の自分の席で見ていたマリエナは「あはは」と苦笑していた。


 その手元にはやはり厚く積み上がった書類。


 書類の隣ではマリエナがレクスに買ってもらった万華鏡を覗き込み、喜んでいるビッくんが座っている。


 そんなヴァレッタを目の当たりにして、クリスはふぅとため息をつきながらじろっとヴァレッタを見る。


「……泣き言を言うなら、ヴァレッタ先輩もしっかり仕事をしてください。マリエナちゃんやルーガ君も頑張っているんですから。」


「そうですよ。ヴァレッタ先輩。俺もクリスもマリエナ会長も、必死になって終わらせてるんですから……。」


 ルーガも苦い表情を浮かべながら、ヴァレッタをため息混じりに見やる。


 ルーガの手元にも、クリスの手元にも、分厚くたんまりと書類が積み上がっていた。


「だって……だってこんないっぱいの書類仕事終わる訳無いじゃないッスかぁー!いつもならもっと余裕あるのにぃ!夏休みも書類仕事で生徒会出なきゃいけないやつじゃないッスかぁ!」


 ヴァレッタが泣き言を言うのにも訳があった。


 それは。


「何で夏休みが早まるッスかぁ……!?」


 生徒会の仕事を大急ぎで片付けないと、いつもより早まった夏休みが始まってしまうからであった。


 ◆

 事件の後、学園にはマルクスら憲兵が到着し、事件の対応を行なった。


 空がピンクに覆われている間は、結界のようになっており、外部からの侵入ができなかったらしい。


 通報があって駆けつけ、結界が晴れてようやく学園に入れた憲兵たちが見たものは、倒れ伏す学生たちと教員の山。


 少しづつながら生徒や教員が起き始めた状況だった。


 そんな中で、チェリンとレクスが傭兵として、眠ったままの犯人のメギドナを憲兵に引き渡したのだ。


 参考人としてレインも憲兵に連れて行かれ、さらにはその時無事であったレクスやチェリン、マリエナやクリスなど、さまざまな人物から聞き取りが行われた。


 被害状況は死人はなかったものの、多くの生徒や教師が怪我を負い、学園の至るところに戦闘痕跡が残ってしまったのだ。


 しかも起きた男子生徒は倒れた当時のことを何処か曖昧にしか覚えておらず、憲兵の聞き取りはほぼ女子からの聞き取りが行われていたのだ。


 心的外傷を負った生徒も一定数おり、施設への被害もあることから学園としての講座運営が難しくなった。


 そこで早めに夏季休業に入り、心的外傷や外傷を癒す期間を設け、学園の修繕を図ろうというのが学園の狙いだった。


 だからこそ、早めの夏季休業が決まるということは、その分生徒会の仕事に一気にしわ寄せが来た。


 いつもなら計画通りに進めていけばいい仕事を、かなりペースを早め、終わらせてしまわねばならなくなったのだから。


 ◆


「あの事件で唯一、あっちだけが倒れて、『お前、男じゃないか?』って言われたッスからね!?」


 ヴァレッタはあの事件で、唯一倒れた女子生徒だった。


 それが原因で「倒れた男子生徒の中で唯一の女子」と揶揄され、非常にショックを受けていたのだ。


 それに加えてこの仕事量だ。


 ヴァレッタは気が狂いそうになっていた。


「本当に勘弁してほしいッスよぉ!ただでさえ人が足りないッスのにぃ…!」


 ヴァレッタはちろりと空いている書紀の席に眼を移す。


 誰も座っていないがらんと空いた席。


 ヴァレッタははぁと大きくため息をつきながらジトッとした眼で空席を見つめる。


 もともとレインが座っていた場所だ。


 今、そこに座る彼女はいない。


 憲兵からの重要参考人としての事情聴取、そしてレイン自身の処遇がいまだ決まっていないこともあり、学園に復帰していなかった。


 ぽつんと誰もいないそこに、物悲しいような、寂しいような表情を浮かべ、ヴァレッタはぽつりと呟く。


「……レイン、帰ってくるっすかね。」


 その言葉に、一気に生徒会室の空気が鉛のように重くなる。


 事実、レインはメギドナのメイドであり、事件の首謀者を招き入れたことは事情聴取でも語られたと、生徒会の役員は聞いていたのだ。


「レインちゃん……戻ってこないのかな。」


「レインがいないと、締まらないよなぁ…。」


「……また、新しく生徒会の役員を募集すべきですかね。……レインさんくらいできる人は、そうそういませんけれど。」


 マリエナは心配そうな顔を浮かべて、クリスはどことなく寂しそうに、ルーガも沈んだ顔で。

 三人共に、深く大きなため息を吐く。


 生徒会にとって、レインは居なくてはならない存在なのだから。


 仕事をしてくれることもそうだが、結局は皆、レインのことが好きなのだ。


 メギドナのメイドだったことなど、生徒会のメンバーにとっては些細なことであり、その程度でレインを追放するという選択肢など、生徒会には存在しなかった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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