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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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淫魔と雨の憂鬱

レクスが剣を突き込んだ先。


それはメギドナの顔のすぐ傍ら。


そこには、混沌が混ざりあったような色をした、巨大な魔核がそこにあった。


突き込んだ剣先から、硬い石の割れる感覚がレクスにひしひしと伝わる。


直後。


幾多もの亀裂が魔核を走り抜き、巨大な魔核は一瞬でバラバラに砕け散った。


レクスは剣を下ろす。


みるみるうちに異形の肉体は砂となり、風に流され舞い散っていった。


黒い異形の後に残ったのは、うつ伏せに倒れたメギドナだけだ。


(……最後まで、不気味だったな。)


異形のえもしれぬ恐怖感を思い出し、レクスはふぅとため息をつきながら、背中に剣をしまう。


レインを抱え、そのまま下に柔らかく着地するのと同時に、レクスの翼は消えた。


瞳も角も、元に戻っている。


レクスはレインを優しく地面に立たせると、地に伏したメギドナを見つめる。


メギドナはいまだに、レインに向けて手を伸ばし続けていた。


そんなレインは、ただ真っ直ぐと主人を心配するように、メギドナを見つめている。


やつれきって出血した顔から出ているのは普通の人と変わらない赤い血。


黒い血液など何処にもなかったように、赤い血だけがたらたらと流れ落ちていた。


レクスはメギドナを見据え、ゆっくりと歩きだした。


レインもレクスに続くように、いそいそと動き出す。


「……レイン……アタシの……むす……め……。」


弱々しく呻くメギドナを厳しく見つめ、レクスは口を開いた。


「……レイン。治療してやってくれ。」


「レクス……さん?どうして……?」


「レインが悲しそうな顔してんじゃねぇか。俺も傷ついた女性を嬲る趣味はねぇっての。……それに、泣いてんじゃねぇか。あいつ。」


レクスの視線の先には、つうと一筋の涙を、潰れていない片目から流すメギドナの姿があった。


レクスは、どうあがいても泣いている人物を見過ごすことはできないのだから。


「……わかったです。レクスさん……ありがとうです。」


ペコっと頭を下げたレインはメギドナにゆっくりと近づく。かがみ込み、メギドナの腕に手を向けて「ヒーリング」と優しげに呟いた。


レインの手から、黄緑色の光が溢れ、メギドナを薄く包んだ。


レクスはメギドナの顔の前でゆっくりと腰を落とす。


「……なぁ、あんた。子供が欲しかったのかよ。」


その表情は、何処か哀れんだように、悲しげに目元を下げていた。


憐れみか、同情か。


レクスは声をかけなければならない気がしていたのだ。


一方のメギドナは驚きと悲しさがないまぜとなったような複雑な表情が浮かび上がっている。


「……なぁ、あんた。これだけのことをしたんだ。泣いたって許される訳もねぇ。憲兵にしょっぴかれんだろ。……でもな。」


レクスはちらと修練場の入り口から歩いてくる人物たちを見やる。


マリエナがクリスに肩を貸され、カルティア、アオイ、チェリンと共にレクスたちの元に歩み寄ろうとしている姿が見えた。


視線をメギドナに戻し、レクスは再度口を開く。


「俺は泣いてる奴を放っちゃおけねぇんだ。だから、一つだけ言わせて貰うぞ。……あんたが壊そうとしたもんを見て、しっかり罪を償え。あんたが壊そうとしたもんは、みんな誰かの子供だ。何年かかるかはわからねぇけどよ。……そのあともし、贖罪の意思があるなら謝って回る他ねぇ。俺を頼ってもいい。一緒に頭下げるくらいはするからよ。」


メギドナに向け、大きくため息をつきつつも、レクスは真っ直ぐメギドナの眼を見ていた。


「アナ……タ……。名前は……?」


「……レクス。アルス村のレクスだ。」


「……そう。」


メギドナは涙を流したままに俯き、歯を噛み締めた。


その間もレインの聖魔術がメギドナの身体を包み込み、傷を癒している。


ほぼほぼ出血も止まっているようだった。


レクスが腰を上げると同時に、クリスに肩を貸して貰っているマリエナがレクスの側に立った。


「……レクスくん!大丈夫だった……?」


「ああ。俺は無事だよ。レインもな。」


レクスの言葉にほっとしたように、マリエナは安堵した表情を浮かべながらため息をついていた。


その姿は角と羽が生え揃い、元に戻っている。


しかしどことなく、その角と羽は以前よりも小さくなっているように見えた。


マリエナの隣に立つクリスは、やれやれといった表情で肩を竦めているが、何処か安堵したように笑っていた。


マリエナとレイン。


二人共にクリスの大切な友人だからだ。


すると、レクスにカルティアとアオイが歩み寄り、側に立った。


どちらもレクスが無事であることに安堵しているように微笑んでいる。


「…レクス、大丈夫だったの?」


「ああ。一時はどうなることかとは思ったけどよ。……ごめんな。心配かけさせてよ。」


「全くですわね。レクスさんはもう少しご自分を大切にして欲しいですわ。」


「悪かった。カティ……。」


「あんた、カルティア様にも、アオイちゃんにも謝っときなさい。二人とも、すごく心配してたんだから。」


「ああ。分かってるよ。チェリンさん。」


バツの悪そうに肩を小さくするレクスに、カルティアは仕方なさげに微笑む。


「…レクス、さっきのは何だったの?…今はなんにもない。」


アオイはレクスの頭や背中をキョロキョロと見渡し、不思議そうに首を傾げていた。


「それは……マリエナに力を貸して貰ったんだ。」


「…ふぅん。…どうやって?」


「それは……その……な。」


ジトッとしたアオイの眼に、レクスは顔を染めて逸らした。


その様子を見てか、カルティアの額にぴきりと僅かに青筋が浮き立つ。


その表情はころころと微笑んでいるが、何処か逆らえそうもない威圧感があった。


「……また、お話をお伺いしますわね?レクスさん。」


「…しっかり話してね?…レクス。」


「……はい。」


観念したようなレクス。


やはり、レクスは二人には非常に弱くなっているのだ。


そんなレクスを見て、マリエナも頬を紅く染めている。


無意識に下腹部を触る。


「サキュバスベーゼ」の代償のことをまたレクスたちに話しておかなければならないと思ったからだ。


「マリエナちゃん?どこか痛むのですか?」


「う……ううん。大丈夫。クリスちゃんが気にする事でも無いから。」


少し首を傾げていたクリスに、マリエナはなんともないように誤魔化していた。


そんな中、レインがふぅとため息を着いてメギドナの側から立ち上がる。


「……終わりましたです。」


レインの言葉に、レクスたちは改めてメギドナを見る。


痛々しい様子は変わらなかったが、出血は止まっていた。


メギドナはいまだ、顔を伏せて俯いたままだ。


「終わったわね?じゃあ、後始末はうちで……。」


「待って欲しいです。一つだけ……させて欲しいです。」


捕縛しようとしたチェリンの言葉を遮り、レインが前に出る。


「……何よ?」


「……あちしの歌、まだ全部聞いて貰ってないです。だから……良いです?」


その言葉を聞いたチェリンは深くため息をつきながらも仕方がなさそうにレインをその瞳に映した。


「……やったげなさい。あんたがそうしたいなら。」


「……ありがとうです。」


レインはペコリと頭を下げると、メギドナに近寄り、頭の側に座り込んだ。


いわゆる正座だ。


そのまま、メギドナの頭を膝に載せる。


「……え……?」


「メギドナ様。もう一度聞いてください。あちしの歌を。」


突然の膝枕に戸惑うようなメギドナに、レインはすぅと息を吸う。


口を開き、美しい旋律を奏でる。


「〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜♪」


それは、異変の前に中断された歌姫の独唱。


透き通る声に、揺りかごに包むようなリズム。


その曲を耳にしたメギドナは、無意識に涙を再びつうと垂らす。


レインの「子守唄」。それはどんな感情であろうと、相手を「想う」ことで発動するもの。


レインは、メギドナの吸精の「処理」が嫌であって、メギドナ自体を嫌っている訳では無いのだ。


事故を起こしたのはメギドナのせいかもしれない。


しかし、行く当ての無い自分を雇ってくれたことには感謝しているのだから。


メギドナの瞼は、ゆっくりと落ちていく。


「……いい、歌……ね。レイン……。」


それだけ言って、メギドナは安らかな表情で眼を閉じた。


すぅすぅと規則正しい寝息。


そして、メギドナが眠った瞬間。


妖しき桃色の空が裂け、晴れ間の見える曇り空が顔を出す。


メギドナの「ダークネスアイズ」が切れた証拠だ。


雨はすでに上がっていた。


修練場に響く天に届くような歌声。


ここに、学園の異変は終幕を迎えたのであった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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