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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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選び取った禁忌


その女は、求めていた。


自身が命を紡いだ証を。


その女は、紡げなかった。


自身が命を紡いだ証を。


だからこそ、欲した。


自身が命を紡いだ証を。


その女は、許せなかった。


自身より劣るはずの妹が、家督を継ぐことを。


その女は、許せなかった。


自身より劣るはずの妹が、命の証を紡いだことが。


その女は、許せなかった。


自身が激しく求めても、手に入らないものを、妹が容易く掴みとってしまうその姿が。


その女は、許せなかった。


自身が持たぬ、妹が命を紡いだ証を。


だからこそ、見せつけた。


妹が命を紡いだ証に、自身の種族が持ちうる宿命を。


その女は、植え付けた。


命の証を紡がせないように、徹底的に。


その女は、事故を起こした。


もちろん、それはわざとではない。偶然だった。


その女は、生き残った相手方の命の証を雇った。


自身の紡いだ、命の証の代わりとして。


その女は、自身の世話を任せた。


喜ばしかった。自身の命の証の代わりは人形のように可愛らしかったから。


その命の証の気持ちもわからぬままに。


その女は、妹の紡いだ命の証が、命の証を紡ぐ相手を見つけた事に、腹を立てた。


そして、或る少女と出会い、身の丈に合わぬ強大な力を手にして、嫉妬に狂った。


どうしても自身の紡いだ命の証が欲しかった。


ただ、「自身の子供」が欲しかった。


それが、マリエナとレインを苦しめた女。


悲しき淫魔メギドナ・クライツベルンの正体。


妖しくも重い空の下。


奔る光弾と触手は、ほぼ同時だった。


光弾で弾け跳ぶ触手。


しかし弾けた触手の代わりに、次の触手も襲いかかる。


「くそっ!」


顔を顰め、吐き捨てるように呟く。


鞭のように撓る触手を、レクスは横に跳び躱す。


風切音。


レクスの周りは、ざわめき、ひしめき合うように、触手が迫っていた。


恐怖を押し殺し、拳銃のダイヤルを撫でる。


トリガーを引き、二十連射。


銃口を薙ぎ払い、向かって来る触手を光の弾で叩き落とす。


だが、それでも次から次へと触手はレクスに襲い来る。


名状しがたき異形は、常にレクスを集中的に狙っているようだった。


”ビュンビュン”と風を引き裂き襲い来る触手。


レクスはそれを撃ち落とす。躱す。切り払う。


それでも、しのぎ切るのが精一杯だった。


本丸に近づけないことに、レクスは歯がゆさを感じ、焦っていた。


(……あの中には、レインがいる。下手に手出しできねぇ……!)


無貌の異形には、レインが取り込まれている。


その事実が、魔導拳銃での攻撃を、レクスに躊躇させていた。


思考の合間にも、触手はレクスを貫かんと伸びる。


「ちぃっ!」


触手が迫るのに合わせ、発砲。


破裂した触手。


しかし、また新たにヌラリと触手が現れる。


撃っても、切っても。


きりがなかった。


銃で狙おうにも、レインが気がかりになり、かといって狙える隙も僅かしかない。


本体に攻撃を当てようにも、触手で防がれてしまう。


剣を振ろうにも、近づくことさえ怪しい。


そんな現状に、レクスは打つ手がないと言わんばかりに唇を噛みしめた。


(こんなとき……クロウ師匠ならどうする……?考えろ……!)


弄ぶ気すらないように、執拗にレクスの命を狙い来る触手。


絶え間なく降りしきる触手の雨。


身体を滑り込ませ、避けると同時に切り払った。


”ビチャリ”と落ちる触手の先は、生々しく動き続ける。


レクスが気にする暇もないように、触手の集団が襲い来る。


”ビチョリ”と粘つく触手の群れ。


レクスはぐるりとバック宙で避ける。


ストンと着地したその瞬間にも、ネトリとした触手はレクスに迫りくる。


咄嗟にレクスは左手を前に出し、拳銃を構えた。


トリガーを引こうとした瞬間。



”バキリ”と音が響いた。



「なっ……!?」


魔導拳銃を、触手が貫いていた。


そのままバチンと、レクスに重い衝撃が走る。


触手に打ち据えられ、レクスは吹き飛んだ。


「がぁ……っ……!」


地面に叩き付けられ、呻く。


少し離れた場所で力なく銃の落ちる音がした。


背に鈍い痛みと腕に鋭い痛みを感じながらも、レクスは異形から眼を逸らさない。


何故なら苦しくも見据えたその先に、太い腕の触手が迫っていたのだから。



「レクス……くん……。」


修練場の陰に運び込まれたマリエナは、レクスとその異形との戦いを見ていることしかできなかった。


本当は、見ていたくなかった。


自分を助けにきた王子様レクスが、傷ついていく様を。


そんな自分が、情けなくて。


マリエナは、這いつくばりながらただ見ることしかできなかった。


ボロボロに傷ついた身体で、無茶など出来ない。


既に、マリエナは立ち上がることさえ難しいのだ。


空中から支援しようにも、上手く飛べるのかすらわからない。


それほどに、「ダークネスバレット」の集中攻撃はマリエナを傷付けていた。


そんなマリエナの側で、ビッくんが心配そうに自身の主人を見つめていた。


「ビィ……。」


力無くうなだれるビッくん。


しかし、何かあることに気付いたように、マリエナの腕を引く。


「ビッ!ビッ!ビッ!」


腕を引かれる感触と、ビッくんの必死な声に、マリエナは顔を向ける。


「……どうしたの?ビッくん……?」


マリエナを見つめるビッくんの眼は、真剣だった。


『……つかわないの?』


「……え?」


マリエナの頭の中に、突如響いた声。


それは、幼い頃の自分自身の声。


マリエナに訴えかけるように、ビッくんはじっとマリエナの顔を見つめていた。


「……ビッくん……?」


『こたえはでてる。あのひとしかいないよ。』


「……それって、まさか。」


眼を見開いたマリエナの脳裏に浮かんだもの。

それに同意するように、ビッくんはコクリと深く頷いた。


ーーーサキュバスの禁忌。


それは、サキュバスにとっては諸刃の剣。


吸精とは全く逆の性質を持ち、使えば誓約が課される。


そして、それを使ったら。


レクスを殺してしまう危険すらあるもの。


マリエナの今後を決めつけてしまうもの。


デメリットが重すぎる代物だ。


それも、使ったとてあの「異形」を倒せるかはわからない。


しかし、レクスを助ける意味でも使う価値は十分にある。いわば、分の悪いギャンブル。


その提案に、マリエナは躊躇うように視線を彷徨わせた。


「だ、駄目だよ!使ったら……!」


『……だいじょうぶ。しんじて。』


ビッくんは、マリエナを優しい眼で見つめる。


小さな突起のような手を、マリエナの頭に乗せ、ポンポンとつついた。


そんなビッくんに、マリエナは首を傾げる。


「なんで……?」


『わたしは、あなただから』


その言葉に、マリエナはハッとして顔をあげる。


ダークネスサーヴァント。


それは使用者の願望を叶える使役魔獣を、自身の魔力で創り出す魔術。


幼いマリエナが願ったのは、「話し相手が欲しい」。


つまり、マリエナは「理解者」を求めたのだ。


そして、自身の最大の理解者は。


マリエナ自身でしかないのだ。


だからこそ、ビッくんは、「幼いマリエナ」そのもの。


それを理解したとき、マリエナの目元から一筋の涙が溢れ落ちる。


「……なんだ、そうだったんだね。……ビッくん。」


マリエナの言葉に、ビッくんは何も言わずコクっと頷いた。


「があああああああぁぁっっ!」


その瞬間、レクスの激しい呻きが響く。


「レクスくん!」


マリエナが顔を上げる。


目に飛び込んできたのは、触手に打ち据えられ、ゴロゴロと転がるレクスの姿。


何度も打ち据えられたのか、ぽたぽたと赤い血が滴り落ち、地面に吸われていく。


苦しそうに顔を歪めるも、ゆっくりとふらつきながらも起き上がった。


既に顔からも血を垂らし、満身創痍だ。


それでも、剣を構え異形を見据えている。


「やらせるかよ……!俺の大切なもんがここにはあんだ……!」


レクスの力強い声は、しっかりマリエナに届いていた。


しかし、そんなレクスの前には、大木のような触手が振り上げられていた。


(……わたし……は……!)


受け止められて、レクスの姿を見た時から。


否、それこそ魔眼を発動した時から。


否、始めてレクスを見た時から。


否、絵本を始めて手にした時から。


決められていたことだったのかもしれない。


しかし、マリエナはその運命に感謝した。


マリエナは、背中の翼を再び大きく拡げる。


「……行くよ!」


今度は、レクスから勇気を貰うのではない。


《《与える為に》》。


風を引きちぎり巨木のような触手が振り下ろされる。


当たれば、ひとたまりもないだろう。


同時に、マリエナは羽ばたいた。


立てぬ身体を無理やり動かし、宙を駆ける。


ぶわりとレクスの眼前に迫る絶望。


レクスが眼を見開いたその時。


マリエナは、ぎゅっとレクスを抱きしめた。


そのまま加速し、急上昇。


遅れて”ズドン”と。


土煙が舞い上がり、地が響く。


そんな中で、マリエナは風を切り裂き、異形を見下ろす場所まで上昇していた。


「マリエナ……!?大丈夫なのか!?」


一瞬、呆気に取られた表情から、慌てるように顔を振り向かせるレクス。


そんなレクスに対し、マリエナは優しく、微笑むように見つめ返した。


「……ごめんね。レクスくん。」


一言。


そして。


「……ちゅっ」


唇を、重ねた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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