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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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膨らんだ女


「あ……があああああああああっっ!」


まるで断末魔のような叫び。


メギドナの手から、ポロリと空のアンプル瓶が滑り落ちる。


眼は裏返り、身体の至る箇所から混沌とした黒い液体が溢れ出す。


むせ返るような、泥を煮詰めたような異臭。


地面に広がる黒い染みは、”ゴポリ”と泡がたち、異様な光景をレクスの瞳に映し出していた。


溢れ出るドロリとした液体がメギドナとレインを包みこむ。


「レイン!」


レクスの声にレインは全く身動ぎすらしない。


その立ちつくした姿は、意思を持たぬ人形のように、虚ろに前を向いているだけだ。


何も言わず、メギドナと共に黒い濁流に飲み込まれていった。


レクスは眼を釣り上げ、唇をかみしめる。


レインの瞳は、何も映していないように見えたから。


しかし、レクスには惑う暇はない。


異様な光景に潜む、あることに気が付いた。


(何だ……!?修練場の外からも集まってる……?)


修練場の入り口からも次々に黒い闇の液体が侵入してきていた。


(もしかして、そういう事か!?)


レクスは黒い液体が修練場の外からも集まっていることで、脳裏によぎったことがある。


それは。


(こいつら……ダークネスサーヴァントか!)


修練場の外から続々と集まる影と、膨れあがる巨大な闇の塊。


それは、意思を持って一つになっていく。


まるで、母親の元へ集まりゆく赤子のように。



「これは一体……、どういうことですの?」


カルティアが訝しみながら呟く。


レクスがメギドナの異変を目の当たりにしている頃、グラウンドの中でも「それ」は起こっていた。


「…何……?…これ……?」


アオイも眼を見開き、戸惑ったように呟く。


クナイを構えたまま、起こっている現実に眼を瞬かせていた。


先程まで戦っていた闇の影。


それらが一斉に、溶け出すように崩壊していったのだ。


崩壊した闇の影は、液体となって、蛞蝓のように”ズズッ”音を立て、何処かへと去っていく。


「……ただ事じゃないわね。一体何が……?」


チェリンもシミターを構えたまま、困惑しながらも辺りを見渡す。


影が黒い液体となり、次から次へと崩壊していく光景は明らかに異様だ。


魔核すらも残らずに這いずり動く闇の液体は、何処か一方向へと向かっているように見えた。


「何これ……どうなってんのよ……?」


「一体何が……起こっているんですか……?」


「き、気持ち悪いのです…。な……何なのですか……?」


リナも、カレンも、クオンも。


崩れ去る人影を眺めていることしか出来ない。


守られていた女子生徒すらも、怯えて困惑し、泣き出す生徒すらいるほどだ。


ピンクの空は開けぬままに、ただ闇の人影が崩れ去る光景は、異様でしかなかった。


這いずり行く人影が向かう方向。


それはレクスが向かって行った方向。


「レクス……。」


無意識に呟かれたリナの声。


その声は、何処か心配しているようだが、這いずり去りゆく闇の音にかき消された。



背筋に鳥肌を立て、魔導拳銃を構えるレクスの目の前。


闇の液体が飛び込んでいくように集まり、大きな球体が卵のように形成されゆく光景がそこにあった。


メギドナも、レインも取り込んだ闇の塊。


修練場に聳え立つように形づくられたそれは徐々に大きく、異形と化すように変異していく。


(何だ……!?何が起こってやがる……!?)


レクスの頬を、つうと汗が滴る。


ぽたりと汗が地面に落ちた瞬間。


闇の卵に、ぴしりと亀裂が入った。


”パキパキ”と音を立てて割れゆく闇の殻。


そして、「それ」は目覚めた。


レクスは顔を引き攣らせ、目を見開く。


銃を持つ手が、カタカタと震えていた。


「なん……だ……?ありゃ……?」


レクスが不意に呟いた声すら、震えていた。


感じたものは、圧倒的な「恐怖」と「悍ましさ」。


目の前に映る「それ」を、レクスは理解したくなかった。


その見た目は、「醜悪」の一言。


大きさは、修練場の半分を覆い尽くすぐらいだろうか。


混沌をないまぜにしたかのような悪臭を放ち、体色は、昏く淀みきった黒。


脚のあるべき場所には、うねうねと蠢く絨毛をつけた触手の山。


胴体は膨れ上がり、贅肉の塊が幾重にも積み上がるよう。


腕は大木の如く太いが、ぬめっとしたようにテカりを放ち、その先端は獣の歯が生えた触手。


そして……頭部のあるべき場所。


そこには、顔のない、女性の上半身。


切れ込みが入るように、五つの口。


形容しがたき無貌の異形がレクスの目の前に聳え立っていた。


眼前の異形にゾクゾクと身体を震わせるレクス。


その思考には、恐怖が入り混じる。


(何だ…!?いったい何なんだあれはよ!?怖ぇ……怖ぇよ。)


しかし、レクスはギッと歯を食いしばり、腰を僅かに落とす。


”ジャリリ”と、砂と靴が擦れた。


恐怖を振り払うかのように、レクスは目の前の異形を見据える。


何故なら。


今、この場で逃げるわけにはいかないからだ。


マリエナは傷つき、レインは異形に取り込まれた。


例え今、マリエナを連れて逃げたとて、学園は壊滅するのは明白だ。


さらには、カルティアも、アオイも、リナも、カレンも、クオンも。加えて、レクスの大切な友人たちやチェリンも。


危険な目に会わせてしまう。


それだけは、許せなかった。


ーー立ち向かわなければならない。


ただ一つのその事実が、レクスと異形を対峙させていた。


「ーーーーー!ーーーー!」


声にすら聞こえない高周波のような音とともに、”ぐちゃり”と音を立てて、異形の背後から触手が現れる。


それを見たレクスも銃口の照準を頭部らしき部分に合わせる。


そしてそれはほぼ同時。


ビュンと風を切り裂き、触手の切っ先がレクスに向かう。


レクスも拳銃の引き金を引き、銃口から閃光が迸る。


今ここに、決戦の火蓋は切って落とされた。

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