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第7話

7

ぼんやりとした明かりが照らす坑道のような通路の中、レクスは通路の角から曲がった先を覗き見ている。

レクスが見つめる通路の先には、二匹の小鬼の影があった。

ただ、小鬼は今までレクスが見てきた小鬼たちとは風貌が異なっている。

知能を持ったかのような魔獣だった。

片方は木の杖のようなものを持ち、黒いフード付きローブを被り魔術師のようだ

もう一体の小鬼は背中に矢の筒を持ち、左手に弓を持っており狩人に見えなくもない。

二匹の小鬼は辺りをキョロキョロと見回し、獲物を探しているようだ。

小鬼は二匹とも、幸いにもレクスには気がついていなかった。

レクスはその二匹の小鬼に焦っていた。


(何だありゃ…弓持ってる小鬼は見たことあるけど、魔獣が魔法使って来るのかよ…。どう戦えば良いんだ…?)


レクスは攻めあぐねていた。

片方の小鬼を攻め落とすことは簡単に出来るが、そうしている間にもう片方の小鬼から狙われるのは自明の理だ。

少し考えたレクスは背負っていた背嚢を下ろすと、その中から薬品類と金貨類、食品を取り出す。

壊したりしまいとレクスは必要最低限のものを取り出していた。

そしてほぼ衣類のみになった背嚢を片手に持つ。


(チャンスを見逃すと不味いかも知れないけど、やってみるか…)


レクスは剣を抜き、姿勢を低く保つ。

背嚢を正面に構えた。

そしてそのまま、レクスは二匹の小鬼の前に躍り出る。


「ギャッ!?」

「ギャ?」


小鬼がレクスに気が付くのを厭わず、レクスは全速力でローブを着た小鬼へ駆ける。

ヒュンと音がしてレクスの僅か隣を矢が抜ける。

放たれた矢に構わずレクスが走ると、ローブを着た小鬼が火球を杖の先端に形作っている姿が確認できた。

炎属性の魔術「フレイムバレット」だ。

しかしレクスはすでに小鬼の眼前まで駆け寄っていた。

右手に持った背嚢を弓矢を持った小鬼に向けて投げ出す。

その小鬼がひるんだその隙に乗じ、左手に素早く剣を構える。

そして左手に持った剣をそのままローブを着た小鬼の眉間に突き立てる。


「ギャァ!?」


小鬼の声が聞こえるが、剣を抜かずそのまま弓を持った小鬼へ向き直るレクス。

そしてそのまま小鬼が手に持っていた弓を脚で蹴飛ばした。

こうなってしまえばただの小鬼と全く同じだ。

レクスはそのまま小鬼に近づくと、小鬼を殴る。

体勢が崩れた小鬼に対して脚を払いレクスは小鬼を転ばせた。

レクスはその場からバック宙を行い、すぐさま落ちている自身の剣を拾う。

剣を突き刺した小鬼はもう消滅しているようで、ローブと杖、魔核だけがその場に落ちていた。

そして小鬼が体勢を立て直そうとした瞬間に、レクスは右手で剣を構え飛びかかる。


「せぇいっ!」


そのまま剣先を定め、一気に小鬼の喉元を突き刺した。


「ガッ…ア…。」


小鬼は断末魔と共に、その場にだらりと崩れ落ちる。

血が滴ったかと思えば、それらは一瞬で消え、魔核と矢の入った筒だけがその場に残った。

レクスにはもうかなり見慣れた光景だ。

レクスはふぅと息をつき、コキコキと首を鳴らす。

一通り周囲を見回すと、自身が持っていた背嚢を回収する。

そして先程まで自身がいた場所まで戻ると、取り出した荷物を再び背嚢の中へ詰めた。

ささっと背嚢に荷物を詰め終わったのち、背嚢を背負ってレクスは歩き出す。

こういった戦闘を、レクスは洞窟に入ってから幾度となく経験してきていた。

そのおかげか、レクスは少しの異変も見逃さないほどの警戒心で魔獣と渡り合うことが出来ていたのだ。

レクスは先程まで戦闘していた場所まで戻る。

未だそこには魔核やローブが落ちたままだ。

レクスはまず魔核を2つ回収する。

そして、先程まで魔獣が着ていたローブも回収していた。


(とりあえずまた今回も上手く行ったけど、こういったことがいつまで続くんだ…?)


レクスは不安に思っていた。

悩みのタネはこのまま戦い続けていてもいつかやられるのではないかということ、そしていつになったらでられるのかの2つであった。

レクスは一旦荷物を下ろすと、回収したローブを被る。サイズが小鬼に合っていたのか、レクスには少し小さかったがそれでもレクスにはないよりマシだった。

ローブを着た後に荷物を背負い直したレクスは弓や杖はそのままにして歩き出した。

あとのものは持っていてもレクスが使えず、邪魔になるだけだったのだ。


(本当、いつになったら出られるんだここは…?というか俺自身も何かおかしいよなぁ。間違いなく。)


レクスが感じていた違和感。

それはいくら動いたり、移動したとしても汗をかいていない事だった。

汗どころか空腹感や尿意すらもない。

生理的な事象が全て起こっていないのはレクスにとって不可解だった。

レクスの体感ではかなりの時間が経っているはずなのだが、自身の身体の違和感によりそれすらも曖昧だ。


(一体ここに入ってからどれほど時間が経ったんだ…?それすら分からねぇ。早く王都へ行かなきゃならないってのに…)


レクスの心には焦りが少しずつ積もっていく。

その焦りが何処となくレクスの歩む速度を上げていたのは間違いないだろう。

コツコツと床から響くレクスの足音が通路に反響していた。

行けども行けども全く同じ光景がひたすら続いている。

自身は今、一体何処を歩いているのか。

この道はまだ通っていない道か。

最初来たときからどのくらい進んだのか。

全く何も分からない状況がレクスの精神を確実に蝕んでいく。

しかしレクスは先へ進むしかなかった。

ただただ前へ進むことしか、出口に向かう方法はないとレクスは知っていたからだ。


その後もレクスは魔獣と出会っては戦いを繰り返して歩みを止めなかった。

ただ動けば魔獣が襲いかかってくる。

それをレクスは何とか掻い潜りながら魔獣を葬り去っていく。

そんな繰り返しが幾度となく続いていた。


「ハァ…ハァ…。今度の魔獣は…危なかったな…。」


レクスは肩で息をしながら、そう呟いていた。

レクスの眼前には魔獣の一瞬である「犬人」の死骸が3つと、「小鬼」の魔核がいくつか散らばっていた。

犬人とは犬が立ち上がり二足歩行になったような魔獣だ。

素早く動き、爪による猛攻を仕掛けてくる魔獣で、気を抜けば一瞬で皮膚を切り裂かれるのは間違いないだろう。また、喉元目掛けて噛みついてくるという攻撃も当たれば致命傷になりかねない。

そんな魔獣と出くわしたレクスはどうにか全ての攻撃を躱し、凌いで何とか勝利していた。

攻撃の激しさはレクスの着ていたローブがところどころ引き裂かれボロボロになっていることが物語っていた。

レクスにはもうすでに魔獣の核すら拾い集めることが億劫になっていた。

全部拾い集めていたらきりが無いからだ。

レクスはふらふらになりながらも近くに置いておいた背嚢にゆっくり歩み寄る。

背嚢は魔獣と出くわす前に置いておいたレクスの判断は正しかったらしい。

レクスは少し休もうと背嚢の傍にドサっと腰を落とす。

その時だった。

レクスの背後の壁が突然消えたのだ。

壁にもたれようとしたレクスはゴンという音とともに勢いよく床に頭をぶつけてしまう。


「痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


フード付きローブを着ていたとはいえ、その痛みは頭に響いた。

その場でゴロゴロと悶えたのち、レクスは頭を押さえてガバっと起き上がる。

そして若干涙目になりながらも頭をさすり、レクスは後ろを振り向く。


「何だよ…はぁ!?どうなってんだ?」


そこには壁は無く、また新しい通路が伸びていた。

その通路自体はいままでレクスが通ってきた通路と何ら変わりないものだ。

通路の明かりも点々と等間隔に灯っている。

そしてその通路の先に、今までとは異なる光景があった。


「何だあれ…?箱?」


通路の先は部屋のようになっており、その中央に箱らしきものが見えていた。

箱の左右には燭台が灯り、その箱を照らしている。

いままでと異なる光景にレクスは一瞬訝しむ。


(いままでなかった通路に部屋…怪しいけど、もしかしたら出口に繋がっているかもしれねぇな。行ってみるか…。)


「よし。行くかぁ!」


そう思ったレクスは掛け声と共に背嚢を片手に立ち上がった。

くるりと身体の向きを変え、コツコツ音を響かせながら部屋へと向かって歩いていく。

そして通路を抜けたその先は、10m四方はあろうかと思わせる石の部屋であった。

部屋は石積みでできており、部屋全体を照らすように上に明かりを放つ球体がプカプカと浮いている。

そしてその部屋の一番奥に、レクスが見た箱が鎮座していた。


(何だあの箱?まるで取って下さいと言わんばかりだけど何かあんのか…?)


そう思い、部屋に踏み入った瞬間だった。

ガシャンと音が鳴り、通路と部屋の境が壁で閉ざされてしまったのだ。


「おいおい!またかよ!?」


レクスは驚きながらも、その壁に向かって身体を当ててみるが、びくともしなかった。

まさにレクスは閉じ込められてしまっていた。


(またかよ…本当にどうやったら出られるんだこれ…?)


そう思ったレクスは、宝箱の方に振り向く。

すると、部屋の中央にキラキラとした粒子が部屋の四方から集まっていく様子がレクスには見えた。

その粒子は人のような形になると、パンッと弾ける。

そこにいたのは、無骨で無機質な鉄の鎧を纏った騎士がレクスの前に悠然と立っている姿だった。

頭、胸、手足をフルプレートの鎧で固め、左腰に剣をさしている。

全身のシルエットが鎧で隠れているため何者かは分からず、女性か男性かすら分からない有様だ。

ただ、レクスにはある予感があった。


(ここでこんな風に出てくるもんって来たらよぉ…)


騎士はレクスの方をみるように身体を向けると、手慣れたような動きで、腰から剣を抜く。

明らかな戦闘体勢だ。

それを見たレクスはすぐさま背嚢を投げ出すと、背中から剣を引き抜き、正面に構えた。

鎧騎士はガシャガシャと音を立て、レクスに詰め寄る。

レクスは息を浅く吸うと、眼を大きく開き鎧騎士へと駆け出した。


「見逃してくれるやつじゃねぇよな!」


言葉と共に、鎧騎士に向けて剣を振り下ろすレクス。

鎧騎士はレクスの剣に合わせるように剣を差し出す。

”ギィン”という剣のぶつかり合う高い音が部屋に響き渡った。


(くっそ、ダメか!)


レクスの剣が音を立てて弾かれる。

力負けしていた。

鎧騎士の方がレクスの剣を押し返したのだ。

そのままレクスに剣を振るう鎧騎士だが、レクスはその剣筋に合わせるように剣を合わせ、騎士の剣を何とか逸らす。

しかし鎧騎士はそれを構うことなく、横に薙ぐように剣を振るった。

レクスはふらつきながらも剣を構え、騎士の剣を受け止める。

受け止めた拍子に”キンッ”というかん高い音が響く。

剣を受け止めたレクスはそのまま鎧騎士の腹部を蹴り、自身は後ろへ跳び退いた。

鎧騎士は若干よろめいたがすぐに体勢を立て直してレクスに剣先を向ける。

隙がなかった。

レクスも着地し、剣を中段に構え直す。


(まずいなこりゃ…、剣が速くて、重い…。)


レクスはギリリと奥歯を噛み締める。

先程、剣を受け止めた際の痺れが手にじぃんと残っていた。

力負けしているのは明らかだ。

しかし、今は目の前の鎧騎士にどうにか勝たなければレクスはジリジリと削られ、命を落とすことは明白だった。

レクスの剣が構えられると同時に鎧騎士はレクスに向かって走る。


「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」


レクスも掛け声を出し、鎧騎士に向けて剣を振るう。

鎧騎士はその剣筋を読んでいたかのように、剣を構えてそれを防ぐ。

さらにレクスの剣を弾くと、そのままレクスの顔目掛けて剣を振るう。

レクスは反射的に顔を後ろに逸らす。

眼の前をブゥンと剣が薙いだ。


「うおっ…!?」


レクスの前髪が数本切れて宙に舞う。

あとワンテンポ遅れていたら顔面ごと頭を持っていかれたことだろう。

レクスは一瞬肝を冷やす。

それに構わず鎧騎士はヒュンと剣を振るうが、その剣は何とかレクスが剣で受け止めていた。

それでも剣を受け止められようと構わないとばかりに、鎧騎士は剣撃のラッシュをレクスに叩き込む。

レクスは防戦一方になるも何とか剣撃のラッシュを一回一回捌いていた。

レクスが剣を受け止めるたび、レクスに痺れが蓄積されていく。


(このままじゃ…本当にまずい…何かないか…?)


レクスがそう思うも、ラッシュは止まらない。

”キンッ””キンッ”という剣と剣の金属音が部屋中に響いていた。

レクスは何度もギリギリで剣を捌いていた。

なかなか剣を離さないレクスに業を煮やしたのか、鎧騎士が剣を上段に振りかぶった時。

レクスはその一瞬を見逃さなかった。


「らぁっ!!!」


掛け声と共に、すかさず鎧騎士の胸部を蹴り抜く。

レクス独自の喧嘩殺法だ。

胸部を蹴られた鎧騎士はたちどころによろめく。


(…今だ!)


そう直感したレクスはすぐに剣を構え直すと鎧騎士の喉元へ向けて剣先を定める。


「せぇぇぇぇぇぇい!」


そしてそのまま、剣先を鎧の隙間に刺しこんだ。


(やったか…?いや、違う!?)


レクスはとどめを刺したかと思ったが、すぐに違うと思いかえす。

なぜなら、その剣に一切手応えがなかったのだ。

すると鎧騎士の兜がコロリと首ごと外れ、カランという音とともに地面に落ちる。

レクスはすぐに剣を引き抜き、バック宙で跳び退く。

一瞬の最中、転がっている兜の中がちらりとレクスに見えた。


(兜の中が空…!?この魔獣…普通じゃねぇ!?)


兜の中は空洞で、何も無かった。

それはこの鎧騎士は魔核を破壊しなければ動き続けるということを意味している。

その間にも、鎧騎士は頭の無いまま剣を構え直した。

レクスもさっと剣を構え直す他無かった。

鎧騎士はまたガシャガシャという音とともにレクスに向かって走る。

そうして鎧騎士がレクスに向かい、剣を振り抜いた瞬間、レクスはさらに後ろへ飛び退き剣を躱した。

その時、レクスに一つの考えが浮かぶ。

レクスの口角がつり上がった。


(剣は速くて重いが、何とかなるかもな!)


さらに近づいて剣を振るう鎧騎士に対し、紙一重の差でレクスは剣を躱していく。

レクスは剣を振らず、ただただ後ろに下がるだけだ。


(剣で勝てないなら…とことん躱せばいい。)


それがレクス出した結論だった。

鎧騎士はレクスに次から次へと剣を振るう。

しかしレクスはその剣に対し、抗うことなく見極めてギリギリで後退しながら躱し続けていった。

ブウンと風を切る勢いの剣を紙一重で躱していくレクスに恐怖感は全く無かった。

今までの迷宮での戦闘がレクスの感性を研ぎ澄ましたように、剣筋を見極めることが出来るようになっていたのだ。


(これだけ避けているんだ。次は…)


そう思ったレクスをよそに、鎧騎士はさらに踏み込みを深くして切りつける。

その剣を、レクスは自身の剣を当てて逸らした。

”ギィン”という剣の擦れ合わさる音が響く。

レクスを切るはずの剣は僅かに前髪を掠めたのみに留まった。

レクスはまたその間に少しだけ後退する。


(そろそろか…?いや、もう少しか。)


レクスに翻弄されている鎧騎士はレクスの方に踏み込んでは剣を振るう。

レクスは目を見開き、目尻を上げた。

剣を躱し、逸らし、切り払う。

攻めているはずの鎧騎士が、攻めきれていない。

一瞬のゾーン状態と言っていいだろう。

己の身体と剣を巧みに操り、ただ傷つかないことのみに徹する。

鎧騎士の動きが、レクスにはスローモーションのように見えていた。


(今か!)


そして、鎧騎士が大きく横に剣を振ったその瞬間。

レクスは大きく跳び上がり、鎧騎士に手をついてくるりと回ると位置を入れ替えた。

もちろん鎧騎士はそのまま剣を振るうしかないが、その先は石の壁だ。

”ガキィン”と剣と壁がぶつかる音が部屋に響く。

その瞬間を逃すレクスではなかった。

鎧騎士の背後を取ったレクスは剣を構え、鎧騎士に突撃する。

さらにレクスは鎧騎士の手前で跳躍し、鎧騎士の上を取った。

その空洞の鎧の真ん中に紅く光る魔核があるのをレクスは捉える。

弱点は、そこだ。


「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」


渾身の勢いで、自身の持っていた剣を兜のなくなった首から突き込む。

剣先は吸い込まれるように魔核を捉えた。

”パキリ”というガラスの砕けるような感覚が剣からレクスに伝わる。

紅い核は真っ二つに割れた。

核が壊れた鎧騎士は剣も含めてサラサラと灰のように一瞬で崩れ去る。

あとに残ったのは、真紅の真っ二つになった魔核のみだ。

鎧騎士が崩れ落ちた瞬間、レクスも床に膝を着く。


「ハァ…ハァ…ハァ…勝った…のか?」


レクスは自身の剣を杖のようにして地面に立て、気の抜けた身体を支えた。

そのままレクスは床に大の字で転がる。

息はまだ上がっており、胸も激しく上下していた。

しかし、レクスは口角を上げニヤリと笑っていた。


(勝った…勝ったぞ…何だろうな。すげぇ気持ちがいい!)


それは極限の精神状態から来るものか、あるいは闘争本能から来るものか。

レクスは、達成感を覚えていたのだ。

そして呼吸が落ち着くまで、レクスは大の字のままだったが、やはりその顔は楽しそうに笑っていた。


一呼吸ついたレクスは立ち上がり、剣を拾うと、先ほど見えていた箱の方へ向かう。

単純にその箱に何が入っているのかが気になったのだ。

箱に近づくと、全貌が見えてきた。

豪華な金色の装飾が施された、赤い木箱だ。

木箱はレクスの膝までの高さで、鍵などは見当たらない。

レクスは箱の前で屈み込み、蓋に手をかける。


「さぁて、何が入ってんだこれ?…なんか売れるものなら後々困らないんだけどな…と。」


レクスの頭の中には、レッドの「今持ってるお金じゃ生活していくには足りないだろう」という言葉があった。

何かお金になりそうなものが出てくれば売り払って生活費にできればいいとその程度に考えていた。

そして、箱の蓋をゆっくりと開けるレクス。

そこには。


「…何だ、これ?」


レクスには見慣れない物体が、箱の中に鎮座していた。

黒光りするそれは無骨な鉄塊。

長さはレクスの手首から肘までといったところだろうか。

くの字に折れ曲がったようなそれは、全体的に四角い。

長い鉄の角柱に短い鉄の角柱が接合しているような形状だ。

そして折れ曲がった部分の内側には半円状に囲まれた囲いの中に、また金属の出っ張りのようなものが飛び出している。

レクスはそれを取り出し、両手で持って全体を眺める。

やはり無骨な金属で割と重い。

長い鉄柱の先端には指先ほどの穴。

その反対側には歯車が飛び出てついている。

レクスはこの物体が何なのかがさっぱりわからなかった。

箱の中にはもう一つ、この物体を収めるのに使うであろう革製の容器が収められていた。


「本当に何だこれ?何するもんだ?魔道具っぽいような気もするけどよ…?」


レクスはよくわからないその物体をジロジロ見て観察する。

短い鉄柱の方に左手をかけると、ちょうど半円状の囲いに人差し指が入った。


(ん?こうやって持つもんか。するとこのツマミみたいなもんを引けばいいのか。)


そう思ったレクスは何気なく人差し指でツマミを引いた。

その瞬間。


「うおッ!?」


”ドン”と炸裂音がしたかと思えば、上空に光弾が飛び出し、当たった天井の石壁にはクレーターが出来た。

光弾を撃った瞬間の衝撃で、レクスはそれを手放してしまう。

その魔道具はカチャンと音を立て、床に落ちた。

先端の穴からは僅かに煙のようなものが上がっている。


「光弾を放つ魔道具…?そんなもんがあるのか。しっかし、あの穴自分に向けてなくてよかったな…」


そう呟き、レクスはその魔道具を拾う。

よく見ると持ち手に名前のようなものが彫り込んであるのが見えた。


「「くろはやて」か。なるほど。」


レクスはその魔道具の名前を読み上げる。

そしてその魔道具を持った瞬間に自身の魔力が少し吸われる感覚があった。

そして、レクスはその魔道具に何処となくしっくりときていた。

この魔導具は「魔導拳銃」という魔導具であるのだが、レクスは知る由もない。


「これは…イイな。役に立ちそうだ。…売るのは止めるか。この先まだ出れるとは限らないしな。」


そう言ってレクスは振り返る。

そこにはレクスが通ってきた通路が、また開放されていた。

それを見たレクスははぁと溜め息を漏らしながら、箱からこの魔道具の入れ物を取り出し、自身のズボンに装着させると、その中に魔道具「黒疾風」を入れた。

そして転がっていた自身の背嚢と割れた魔核を拾う。


「さて、早く出るか。こんなとこからはさっさと出て、王都へ行かなきゃな。」


そう呟きながら、レクスは背嚢を背負い直す。

そしてレクスは、部屋を後にして通路へと舞い戻っていった。


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