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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第四章・淫魔と雨の憂鬱・いざなうもの編

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とどけるもの


 いまだ混沌としたピンクの空が広がる下。


 闇の人影が乱雑にひしめき合い、戦場となったグラウンドに突如として現れた丸い影。


 てちてちと走る影はリナの援護を受け、レクスの元にたどり着く。


 レクスはいまだに魔導拳銃の引き金を引いており、ビッくんに気がついていない。


 レクスの元にたどり着いたビッくんは、その突起のような短い腕で、レクスの裾をくいくいと引っ張った。


「び……ビッくん!?何しにきたんだ!?」


 足元を見たレクスは、驚きで目を見開く。


 ビッくんの眼は真剣そうにレクスを真っ直ぐ見つめていた。


 その表情に、レクスは目の色を変える。


 ビッくんが真剣な眼で裾を引く意味。


 それは。


「……マリエナが危ねぇってか?」


 レクスの言葉に、ビッくんはブンブンと頷く。


 レクスは顔を上げ、瞬時に辺りを見渡す。


 カルティアやアオイ、チェリンが動き回っていることもあり、優勢ではあるが、いまだに闇の人影は数多くのさばっている。


 顔を顰めつつ、ちらと足元で服を引くビッくんを見る。


 やはりその目はレクスをじっと見ていた。


(……俺に、来て欲しいってことかよ。)


 レクスは先程、生徒会室でクリスに言われたことを思い出していた。

 ◆


 生徒会室に入った直後、クリスはレクスとアオイに真っ直ぐな眼差しを向けた。


 レクスとアオイの周りには、ルーガとヴァレッタが眼を開いたまま、倒れ伏している。


 ルーガならまだしも、ヴァレッタは女子生徒だ。


 レインもいない。


 何かがあったことは明白だった。


 レクスは怪訝な表情を浮かべ、クリスに問う。


「何があったんだ?」


「…会長、いないの?」


 二人に向け、クリスは静かに頷く。


 冷静そうだが、何処か焦っているようにも、二人からは見えた。


「……マリエナちゃんは、この異変の元凶……メギドナ様の元に飛んでいきました。そこにレインさんも居るはずです。」


「なんでレインまでそこにいんだよ?」


「レインさんは、メギドナ様に乗り移られたようでした。何故かはわかりません。ですが、間違いなくレインさんはメギドナ様の手に落ちています。」


「「メギドナ様」ってアイツか!」


 レクスの脳裏に、マリエナとのデートで出会い、因縁を付けられた女性が思い浮かんだ。


 怯えた表情のマリエナを思い、レクスはギリと歯を食いしばる。


 その表情を見ていたアオイも、レクスに「魔眼」を掛けようとした女性と思い出したようで、ムスッと不機嫌そうな表情を浮かべた。


「……なんでそんな奴がここにいんだ?何が目的でこんなこと起こしやがった!?」


 レクスの声が、無意識に荒ぶる。


 その言葉にクリスは力なく首を振った。


「メギドナ様の目的は……マリエナちゃんの殺害です。いえ、それだけではないのかもしれません。ですが、明確な目的はそれだけです。」


 クリスの言葉に、レクスの目元が少しつり上がった。


 怒りの炎が、その眼には宿っていた。


「……マリエナは……いや、メギドナはどこにいやがる?」


 怒気のこもった声に、クリスは暗く顔を伏せた。


「……わかりません。ただ、マリエナちゃんをメギドナ様は呼び出しました。「一人で来れば、事態の収束を考える」と、その一言だけで。」


「くそっ……!」


 ”バン”と。


 レクスは側の机を殴りつける。


(何も……出来やしねぇじゃねぇか…!アーミアさんにも頼まれたってのによ……!)


 悔しかったのだ。


 頼まれても、どうすることも出来ない自分自身が。

 そんなレクスを、アオイは心配そうに見つめている。


 クリスは、しめやかに言葉を続けた。


「……どのみち、マリエナちゃんは行ったでしょう。嘘だとわかっていても。皆を、守るために。」


「マリエナは、何とか出来るのかよ……!」


「……マリエナちゃんは、吸精もしていないサキュバスです。一方のメギドナ様は吸精をしているでしょう。勝てたなら……奇跡でしょうね。」


 クリスは、唇を千切れんばかりに噛んでいた。


 一瞬の静寂が教室を包み込む。


 レクスがギリリと拳を握りしめた、その時。


 ”ドォン”と地が揺れた。地響きだ。


 その揺れに、レクスもアオイも、クリスも顔をあげる。


「今の音はなんだ……!?」


「近くですね。……レクスさん、アオイさん。行ってください。」


 クリスの眼は、二人を真っ直ぐ見つめていた。


「副会長はどうすんだ!?」


「私は、ヴァレッタ先輩とルーガ君を何処かへ寝かせ、無事な生徒を探しに行きます。……それが、生徒会の役目ですから。」


「……わかった。アオイ!」


「…うん。…行くよ、レクス。」


 レクスの呼びかけに、アオイはコクリと頷いた。


 身体を翻し、生徒会室から出ようとする時。


 クリスの言葉が、レクスたちに届く。


「もし、出来るのであれば……マリエナちゃんを……レインを……助けて。」


 友達を想う、涙混じりの声。


 レクスは振り向かず頷いた。


「言われなくても、そのつもりだ!」


 レクスはアオイと手を繋ぎ、生徒会室を駆け出た。


 ◆

 ビッくんは必死にレクスの裾を引いている。


 こっちに来て欲しいと、必死に訴えかけているようだ。


(……こっちも手が離せねぇ。……どうする?)


 レクスは一瞬、逡巡する。


 マリエナも救いたい。しかし今、この場を離れて大丈夫かと。


 その時だった。


「行きなさいよ!無能!そいつはアンタを求めてるんでしょ!?」


「リナ……?」


 レクスが声のする方に眼を向ける。


 纏わりつく闇の人影に、身の丈ほどの大剣を”ブン”と振り抜いたリナ。


 レクスを横目でちらと見ていた。


「アンタみたいな無能は!ここにいてほしくないの!だからとっととそいつとどっか行きなさいよ!」


 明らかな拒絶のようにも聞こえる声。


 しかしその目は、レクスを後押しするように訴えかけているようだった。


 すると、レクスの隣にアオイがすたっと舞い降りる。


「…行って、レクス。…多分、会長が待ってる。」


「アオイ……すまねぇ!ここは任せた!」


 アオイの囁きに、レクスは覚悟を決めた。


 レクスは拳銃と剣をすぐさましまい込み、ビッくんを抱え上げる。


 ちらりとカルティアとチェリンを見ると、二人ともすっと、わかっているような表情で頷く。


 既に憂いは断っていた。


「ビッくん!マリエナはどこだ!?」


「ビッ!」


 ビッくんがグイッと突起のような手をいっぱいに伸ばす。


 その腕が指し示す方向は北。


 その方向へ、すぐさまレクスは足を繰り出し、駆けた。


「すまねぇ皆!ここは頼んだ!」


 レクスが叫び、グラウンドから離れていく。


 その最中で、カルティアとアオイ、チェリンはニヤリと口元を上げていた。


「レクスさんのおっしゃる事ですもの。任されましてよ!」


「…うち、頑張る。…絶対、守り通す。」


「アタシの後輩だもの。露払いくらいはやったげないとね!」


 三人の気合に、火花が放たれ点火する。


 その一方で、リナもまた、嬉しそうに口元を上げていた。


 頼られたその想いに応えるように。


 グラウンドでの戦いは、激しさを増していく。

お読みいただき、ありがとうございます。

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