役者は揃った
「シャインバレット!トリオ!」
声が響き、三つの光弾がクオンの目の前から影を弾き飛ばす。
弾き飛んだ影はそのままゴロゴロと転がり、溶けるように消え失せた。
「間に合ったようですわね。……倒れかけているのは、予想外でしたけれど。」
ジャリジャリと砂の上に響く足音。
女性の言葉にハッとして、クオンが目を開けた先には、ふわりと靡くプラチナブロンド。
アイスブルーの鋭い眼光を、闇の人影に向けた人物。
「冷淡の王女」が、そこに立っていた。
右手を前に出し、中指にはめた指輪に光が灯る。
「シャインバレット!セプテット!カノン!」
「冷淡の王女」の掌から射出された七つの光弾。
それぞれが独立して影に向かう。
全てがリナたち三人に近寄る影の頭を、正確に射抜くように着弾した。
闇の影が消え去ったのち、そのまま「冷淡の王女」は三人の元へと歩み寄る。
さらに別の方向から、もう一人。
桜色をした絹糸のような髪を靡かせ、その手には一対のシミター。
「フレイムドレープ!デュエット!」
女性が手に持つ一対のシミターに激しく炎が灯る。
その表情は、少し口元が上がり、ニヤリと笑うようだ。
「……ちょっとは楽しめそうね。行くわよ!」
少し歓喜したような声を放ったチェリンは、グラウンドの中央目掛けて駆けぬける。
チェリンの道を阻むように、闇の人影が寄りくる。しかしチェリンには一切の躊躇いもない。
チェリンの前に踊り出た人影が腕を振り上げた、瞬間。
既にチェリンはシミターを振り抜いていた。
崩れ去る影を他所に、チェリンは右足を軸にくるりと回る。
勢いをそのままに、影を胴から真っ二つに切り裂くはもう一方のシミター。
「あらあら、アタシの踊りに耐えられないのね。……クロウなら、耐えてくれるのに。うふふふっ。」
チェリンの顔は、愉しそうに笑っていた。
近付いた闇の人影の首を刎ね、時には身を翻して誘い込み、刃を閃かせる。
どれだけ影が集まろうと、その足を止めることはない。
纏わりつく影を、まるで踊るように次から次へと切り払いながら、リナたちのいる中央へ近づいていく。
そんなチェリンのスキルは「踊り子」。
「踊りが上手くなる」という戦いには一見関係なさそうなスキル。だが、チェリンのポテンシャルが、そのスキルと剣技を組み合わせ、「剣舞」として昇華させていた。
チェリン自体が「伝説の傭兵・ヴィオナの孫娘」であり、「クロウの妻」であるのだ。
戦闘狂の血は争えないのか、レクスも模擬戦では勝ったことのない、「化け物」レベルの一人だった。
その舞踏は足を止めることなく、優雅にステップを踏みながら。
愉しそうに二対のシミターを振り回し、舞い踊っていた。
踊った後には、面白いようにコロコロと魔核が転がり落ちる。
獰猛な笑みで舞い踊るその姿は、何時もの受付嬢には全く見えなかった。
◆
一方、そんなチェリンの活躍の最中で、リナは額からぽたりと汗を垂らす。
リナの剣筋が、だんだんと鈍く、不安定なものに変わっていたのだ。
多くの人を守りながらの戦闘、リュウジという精神的な支柱の欠損、そして多くの闇の人影との戦闘による肉体的・精神的な疲労がリナを絡め取る。
「聖剣士」といえど、限界があった。
しかし、それでも歯を食いしばった苦しい顔で、リナは大剣を振るい続ける。
「フレイムドレープ!……え!?」
リナが魔術を唱えた途端、それは起こった。
大剣が一瞬だけ紅く燃えたぎったかと思うと、その炎はすぐに搔き消える。
「そんな……魔力切れ!?」
リナはいくら伝説のスキル持ちといえど、魔力量は並。
一般人と遜色ない程度だ。
リナは魔術を、連続で使いすぎていた。
焦燥した表情で汗を落とすリナに、闇の人影がぞろぞろと迫る。
「こぉ……のぉ……!みんなに、手出しは、させないんだから……!」
剣を持つリナは、既に限界だった。
それでも振るおうとしているのは、リナの意地。
リナの後ろには、戦う力のない女生徒が、かけがえのない幼馴染がいて、勇者のリュウジが後ろに倒れているのだ。
退くわけには、いかなかった。
そんなリナを嘲笑うかのごとく、闇の人影は進行してきている。
リナは息も絶え絶えに、闇の人影の軍勢を睨みつけながら、剣を振り上げようとしていた。
「ふっざ……けんなぁ……!あたしは……みんなを……!」
「疲れてんだろ。休んどけ。」
「…うん。…休憩は大事。」
「……え?」
リナに、届いた声。
その瞬間、リナは信じられないとばかりに目を丸くして、その姿に魅入る。
突如としてリナの前に現れたのは、手を繋いだ二人組。
一瞬のうちに現れた二人。
手を離した女生徒は、瞬時に両の手で《《クナイ》》を構える。
そして《《襤褸切れのようなローブを纏った男子生徒》》が、背中から剣を抜き、左手で魔導拳銃をくるりと回す。
ローブからは、橙色の髪がちらりとはみ出していた。
「あ……あんた……。」
「選手交代だ。何時も頑張りすぎじゃねぇか。リナはよ。」
震える声に帰ってくるのは、何処か陽気な、されど力強い声。
聞こえてきたのは、リナの《《大嫌いな声》》。
目に映るは、《《大嫌いな姿》》。
それでも、リナはその後ろ姿に、何故か安心感を覚えて。
ぽたりと一筋、雫が頬を伝った。
「なに……しに……きたのよ。無能……。」
弱々しい罵倒に、ローブの男はにぃと口元を上げる。
「無能だからこそ、助けに来たんじゃねぇか。いいから黙って休んどけ。……こっからは、俺たちの時間だ。」
その燃えたぎるような闘志を持った紅い眼が、闇の人影の軍勢を睨み見据える。
中央にいる女生徒たちも、クオンも、カレンも、リナも。
誰もが予想しなかった増援に、目を見開いている。
レクスが。
カルティアが。
アオイが。
チェリンが。
この場に揃い、影の軍勢と対峙していた。
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