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娼館の主

「なっ!?」


 アーミアの言葉に、レクスは目を見開いた。


 それはマリエナも同じで、ビクリと身体を震わせて反応する。


 しかしアーミアの態度は変わらず、妖しげに微笑みを浮かべたままだった。


 レクスの目の前に立つと、アーミアはそのままレクスの眼を覗き込む。


 屈んだ際のドレスから覗く立派な谷間は、男を落とすには十分すぎる破壊力だろう。


 優しげな微笑みは、男を虜にするのに特化していた。


 そんな女性に近寄られたレクスは、ゴクリと息を呑む。


「お、おかあさん駄目ぇっ!」


 マリエナの声が、ホールに響き渡る。


 レクスの右腕をぎゅっと抱き締めた。


 マリエナの豊満で柔らかい感触がレクスには伝わるが、レクスは気にして居られない。


 するとアーミアはクスリと微笑み、レクスから顔を離した。


 にこやかに微笑みながら、ゆっくりとマリエナに顔を向ける。


「心配しなくても良いわよ。……レクスさんに魔眼を使う必要はないもの。」


「……えぇ?おかあさん、どういうこと?」


「だって、さっきからアナタ、ずっと魔眼を使いっぱなしになっているわよ?そんなにマリエナが見つめていたら、レクスさんは今頃盛ったお猿さんのようになっているはずだもの。……無意識に魔眼を使うなんて、相当惚れ込んでいる証ね。うふふ。」


「え……えぇ!?」


「お、おい、マリエナ!?」


 アーミアの発言に、マリエナは唖然とした。


 レクスも慌ててマリエナに声をかける。


 先程、絵本の王子様とレクスを重ね合わせたときから、マリエナの魔眼は垂れ流しになっていたのだ。


 それに気がついて居ないマリエナは、おろおろとレクスとアーミアを交互に見ていた。


 その姿を目の当たりにしても、アーミアは微笑んだままだ。


「でも、レクスさんは本当に面白い方ね。サキュバスの魔眼が効かない男性なんて、知らないもの。あと……もう砕けた話し方で良いわよ。」


「そ、そんな事は……。」


「いいえ。使い慣れていない事はバレバレよ。ワタシが何人の殿方を相手にしてきたと思っているのかしら?付け焼き刃なんて、直ぐに分かるわよ?……まあ、マリエナには効果覿面だったようだけれど。」


「ふ……ふぇぇ……おかあさん……。」


 アーミアはマリエナにぱちんとウィンクを落とす。


 レクスはアーミアの全て見通したような眼に、ふぅと溜め息をついた。


「悪ぃな。付け焼き刃なのはバレてたのかよ。慣れねぇ事はするもんじゃねぇな。」


「うふふ。そっちのほうが自然ね。マリエナも隅に置けないわねぇ。こんな素敵な男性を捕まえて来るなんて。ワタシも10年若かったら迷わず誘惑してるわね。本当、不思議で素敵な男性じゃないの。」


「お、おかあさん!?」


「誰も取らないわよ。安心なさい、マリエナ。それにアナタの魔眼が効かないなら、ワタシにも無理よ。サキュバスの魔眼には強弱はあれど、男性はすべからく皆かかってしまうものなの。対抗出来る男性は居ないわ。……そこのレクスさんを除いてね。」


「そ、そうなのかよ。」


「ええ。だからマリエナが求めたアナタは、アナタ以外代わりが居ないわね。……貴族なのも嘘かしら?ヴェルサーレ家も家名を勝手に使われると、黙って居ないわよ?」


 本当に全てを見通しているようなアーミアに、レクスは面食らった。


 レクスは渋るように口を開く。


「……一応、ヴェルサーレ家の血筋ってのは本当だ。俺は平民だけどな。学園に行ってるってのも本当だし、そこでマリエナと出会った事は嘘じゃねぇよ。」


「あらあら、運命じゃない。良かったわね、マリエナ。……ところで、レクスさんはご存知なのかしら?マリエナの男性不信を。」


 マリエナはレクスの腕を抱き締めたまま、赤くなって俯いてしまう。


 一方のアーミアは、僅かに眼を細くして、全てを見透かすようにレクスの眼を見つめていた。


「副会長から聞いた。本来なら本人から聞きゃ良かっただろうけどよ。……アーミアさんは知ってたのか?」


「クリスちゃんね……。娘のことよ。当たり前じゃない。知らない訳がないわよ。……もちろん、姉の行為も全て。到底、姉をワタシが許す気はさらさらないわよ。」


 アーミアは吐き捨てるようにその言葉を呟いた。


「じゃあ、なんでお見合いなんかさせようとしてんだよ。受け入れねぇってことは、わかってたはずじゃねぇか。」


「もちろんマリエナのためを思ってのことよ。クライツベルン家の跡取りとして、そしてサキュバスとして吸精相手を見つける事は絶対の命題なの。確率がほんの僅かにでもあるのなら、お見合いでも何でもさせるわ。……もう、その必要はなくなったみたいだけど。」


 アーミアが再びにこやかに微笑む。


 それはマリエナの恋人を祝うように本心からのようなものに見えた。


 到底、恋人の”フリ”なんて言い出せる雰囲気でもない。


 するとアーミアはクルリと踵を返し、レクスに背を向け、頭のみ振り返った。


「せっかくだもの。一緒にお食事を取りましょう?ワタシもレクスさんのこと、よく知りたいもの。」


 アーミアは機嫌良く微笑んでいた。


 娘の恋人が本当に嬉しいらしい。


 マリエナもレクスを離す気はなさそうだ。


 レクスはふぅと溜め息をつくと、コクリと頷いた。


「ああ。マリエナも離してくれなそうなんでな。ご相伴に預からせて頂くぜ。」


「あらあら。それは楽しみね。マリエナったら学校でのことは全然話してくれないんだもの。」


 レクスが歯を出してニヤリと口元を上げると、アーミアも何処か可笑しそうにクスリと笑った。


 そんな様子に僅かに嫉妬したのか、マリエナは少し不機嫌そうに頬を膨らませる。


 そのままレクスとマリエナ、アーミアと男たちは、アーミアに連れられるがままに、屋敷の奥の食堂へと歩いていった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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