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第6.5−2話

「勇者の皆様、少しお時間宜しいですかな?」


 男性の声が聞こえ、リュウジはこの空間を邪魔されたくないとは思いつつ、「どうぞ」と返答する。

 ドアがガチャリと開き、入って来たのは王都の役人ともう一人。

 頭がはげ上がり、髭を蓄えた壮年の男性だった。

 その男性の身なりはしっかりしており、黒いローブを羽織って、右手には分厚く黒い本を抱えていた。

 男性はリュウジたちに向かって一礼した後、口を開く。


「勇者の皆様。お時間を頂き申し訳ない。私は王立学園でスキルの研究をしているサマンという者です。皆様のスキルについて少し詳しく説明したいという思いで馳せ参じました。宜しく頼みます。」


 禿頭の男性、サマンの礼にリュウジたちも礼を返す。

 男性の話などどうでも良いと思っていたリュウジだが、スキルの話と聞くと少し興味深そうにサマンを見た。

 リナたちのスキル名称は知っていても、どういったスキルなのかはリュウジは知らなかったからだ。

 どんなスキルなのかはリュウジも気になっていた。

 リナたちもサマンを興味深く見つめている。


「うん、わかったよ。それでみんなのスキルはどういったものなのかな?」


 リュウジが椅子に軽く腰掛け、脚を組みながらサマンを見る。


「それでは勇者殿の時間をあまり頂くのも申し訳ないので、少し手短に。まずスキルの種類についてです。」


「スキルの種類?伝説級とかの?」


「いかにもです。スキルの種類は大きくわけて5つに分類されるのです。」


 リュウジの疑問にサマンはコクリと頷いた。

 サマンの話はこうだ。

 まず単純な能力を発揮するだけの「単純スキル」。

 次に2つの能力が複合した「複合スキル」。

 とある職業に能力を発揮する「職業スキル」。

 そして勇者たちが所持している「伝説級スキル」に分類されるという事だった。


「勇者の皆様が持っておられるのは伝説級スキルになります。例えば「勇者」というスキルは光属性の魔法の適正が上昇し、剣をまるで幾年も振り続けたように使用することが出来ます。そして女神様の剣である神聖剣「ファブニル」をただ一人、振るうことが許されているのです。」


「なるほど。僕はスキルのおかげで軽く剣が振れるってことか。」


「そういうことになります。もちろん学園に入学されてから勇者殿の鍛錬も始まると思いますので、さらに剣術の練度も上がっていくでしょう。」


 勇者殿の鍛錬という言葉にリュウジは引きつった笑みを浮かべる。

 リュウジは鍛錬や練習という言葉が嫌いだったのだ。

 サマンは言葉を続ける。


「リナ殿の「聖剣士」はリナ殿が望んだ剣を自身の元に召喚できるのです。そして勇者殿と同様にその剣をまるで幾年も振るったかのように扱うことができるのです。リナ殿も今後の訓練によって練度が上がっていくでしょう。」


「は…はい。がんばります…。」


 リナはおどおどしながらも返答する。

 リナはサマンにも緊張している様子だった。

 サマンの言葉が少し気になったリュウジは手を挙げ、口を開く。


「サマンさん。ちょっと良いかな?」


「ん?どうされました、勇者殿」


「リナは僕の神聖剣を振るうことは出来ないの?「聖剣士」って名前だから扱えそうだけど。」


 リュウジのその言葉にサマンは頷く。


「勇者殿の疑問ももっともです。ですが神聖剣「ファブニル」は勇者以外の人間が持つと、あまりの神力に常人の精神が耐えきれず廃人となってしまうのです。5秒でも持とうものなら確実ですな。しかし勇者様のスキルだけが女神様の許しを得て振るうことができるのです。」


「なるほど…。そうなんだね。ありがとう。」


「いえいえ。疑問を持つことは良いことです。気になったことはどんどんご質問ください。」


 リュウジはサマンの言葉に少し得意げな表情になる。

 リュウジ自身が「選ばれた者」という気がしていたのだ。

 続いてサマンはカレンを見る。


「カレン殿のスキルは「魔導賢者」でしたな。このスキルは聖属性以外の全属性の魔法適性を得た上で魔力の総量が多くなるというスキルになります。全ての魔法の適正があるので魔術の上達も格段に早いでしょう。」


「サマン様、ご説明ありがとうございます。」


 カレンはサマンに丁寧に座ったまま礼をする。

 サマンはカレンからクオンへ視線を変える。


「クオン殿のスキル「弓聖」は弓の扱いに特化したスキルとなります。弓の状態や風の状態、矢の軌道を無意識に捉え、放った矢は百発百中となるのです。もちろん、このスキルも少し鍛えるとさらに伸びると思われます。」


「が…頑張るのです…。」


 クオンはリュウジをちらりと見て呟いた。

 リュウジはそんなクオンを見て、自分の為に頑張ってくれるという愛らしい仕草に優越感を覚えていた。

 続けてサマンはノアを見据え、口を開く。


「ノア殿は「鑑定者」でしたな。このスキルは戦いにはあまり関与しないですが優秀なものですぞ。見た人のスキルだけでなく年齢や名前、魔法の適性などを瞬時に見通すことのできるスキルです。勇者殿にとっては有用なものとなるでしょう。」


 そのサマンの言葉にノアはにっこりと微笑み、リュウジの方を向く。


「頑張るからね。リュージ。期待してて?」


 ノアのその蠱惑的な笑みにリュウジは一瞬見惚れる。

 そんなリュウジに気がついていないサマンは話を続ける。


「勇者殿たちのスキルは皆、伝説級のスキルです。その力を鍛え、使いこなす事ができれば魔王といえど互角以上に渡りあえるはずです。その力を理解し、正しく使ってもらうことがスキル研究者としての私の願いです。…それでは、お時間を頂き、感謝致します。」


 そう言ったサマンは踵を返し、扉の方へ向う。

 その時、カレンはある事に気が付き、サマンを呼び止めた。


「あの…サマン様。スキルの種類は5つと言っていましたね。でも私たちは4つしか教えてもらっていません。何故なのでしょう?」


 その言葉に、サマンはハッと気が付くとリュウジたちの方へ向き直る。


「ああ、カレン殿。申し訳ない。伝説級スキルの説明だけで忘れておりました。そうなのです。もう一種類スキルの種類は存在します。…ですが、滅多にそのスキルを持った人物は現れません。」


 向き直ったサマンはコホンと一つ、咳払いをする。


「そのスキルは「固有スキル」という種類のスキルになります。その名に違わず、その人物しか持っていないというスキルとなります。」


「伝説級のスキルとは違うのですか?」


 カレンの質問にサマンはコクリと頷く。


「伝説級のスキルは滅多に所持者が現れません。ですが、「聖剣士」や「魔導賢者」というスキルは過去に所持者がいたという記録が残っています。「勇者」スキルは過去に所持者がいた記録はないのですが、伝説級スキルと固有スキルには明確に分かる差異があるのです。…その差異とはスキルにある名前とは別の読み方が有るのです。例えば「勇者」なら「ゆうしゃ」と読むのですがこの読みが全く別の読み方で鑑定に現れるのです。」


 その言葉にリュウジたちは頭に疑問符を浮かべる。

 ただ一人、ノアだけは気がついているようだった。


「最近現れた固有スキルといえば、グランドキングダムの隣国、アルカナ教国に現れたスキルがあります。その名も「絶対的な聖女」と書いて読み方は「ジャッジメント・ホーリー」と鑑定結果には出ていたそうです。」


 その言葉を聞いたリュウジは怪訝そうな顔をする。


(中二病じゃん…かっこいいけどさ。)


 そんなリュウジをよそにサマンは話を続ける。


「固有スキルの能力は伝説級スキルと比べても遜色ないものや、それすら超えるものがあると記録にはあります。ですが…効果が限定的であったり代償を支払うものがあったりとノーリスクで使えるものではないのです。実際、先程の「絶対的な聖女」は莫大な魔力で聖属性魔術を使え、たちどころにどんな怪我や病気すら治せるようになれます。しかし、聖魔法のコントロールを効きにくくしてしまい、僅かでも狂えばスキル使用者が消滅してしまうというリスクを孕むものでした。」


「そのスキル所持者の方は今どこにいるんだい?魔王討伐の為なら是非とも…。」


「…亡くなられました。行方不明とはなっていますが間違いはないでしょう。」


 リュウジの提案をかき消すように、サマンが声を被せる。

 サマンは悲しそうな表情を浮かべていた。


「「絶対的な聖女ジャッジメント・ホーリーは人間の四肢欠損やほぼ回復しようのない傷ですら治せるものです。扱いが難しくともそのスキル所持者を手に入れようという権力者は数多くいたのですよ。…3年前でしたかな。アルカナ教国で小さな政争が起こったのです。それに巻き込まれた少女はスキルを暴走させ、行方不明となったという出来事がありました。ほぼ間違いなく消滅したと見て良いでしょう。…つまり、固有スキルというものは人の人生を狂わせる呪われたスキルと言っても過言ではないものなのです。」


 サマンはゆっくりと、しかし強い口調でそう言い切る。

 サマンの言葉をリュウジとノア以外は真剣な表情で聞いていた。

 リュウジは半分寝ているようだった。


「おっと、話しすぎましたな。それでは勇者殿。私はこれにて。また学園でお会いすることもありましょう。では。」


 そう口にして、サマンが部屋を出ていく。

 するとそれに入れ替わるようにメイド服を着用した妙齢の女性が部屋に入ってきた。


「皆様のお部屋の御準備が出来ましたのでご案内致します。それでは私について来てくださいませ。」


 そうしてリュウジやリナ、カレンとクオン、ノアはそれぞれの部屋に案内される。

 しかしその時、すでにリュウジの頭の中には固有スキルの存在は消え去っていた。


 夜になり、リュウジはベッドの上で寝転んでいた。

 部屋はシンプルではあるが造りはしっかりとしており、豪華な部屋だ。

 リュウジの感覚で言えば高級ホテルのスイートルームがこんな感じなのだろうかとリュウジは感じていた。

 天蓋付きのふかふかのベッドはリュウジにとっては物語の中でしか見たことが無いもので、感動すら覚えている。

 そんなリュウジは部屋の天井をボーっとしながら見ており、これからのことを考えていた。


(…僕はこの勇者と操心のスキルで最強の力を手に入れることが出来る。周りには可愛い女の子たちもいる。1年経たないと彼女たちとムフフなことは出来ないけど、僕は相当ツイていて勝ち組だ。まあ挿入がダメってだけだけど。それに魔王って実際封印されてるならそんな危険なもんじゃないだろうし。楽勝だよな。)


 そう思い、リュウジはニヤけ顔を抑えきれなかった。

 自分が世界を掌握している感覚。

 自分の望んだように世界が動いている感覚。

 それらの感覚ががリュウジを陶酔させていた。

 リュウジがうっとりしていたその時。

 コンコンと部屋にノックの音が響く。


(誰だろ?こんな時間に?)


 そう思い、リュウジは起き上がるとドアの元へ行き、ガチャリとドアを開ける。

 そこには薄い布地のネグリジェを着たノアが立っていた。

 薄いネグリジェからはノアの下着が透けて見えている。


「こんばんは。リュージ。ちょっとお話ししよ?」


 そんなノアの様子にリュウジは興奮すると共に慌ててノアを部屋へ招き入れる。


「ど、どうしたんだよそんな格好で!?誰かに見られたらどうするんだ!?」


 ノアを部屋に入れたリュウジは慌てた様子でノアに問いかける。

 しかしノアの様子はそんなに慌てていないようだった。


「大丈夫だよ。リュージにしか見られないでしょ?」


「と…年頃の女の子がそんな格好なんて…」


 あっけらかんと答えたノアにリュウジは絶句していた。

 そんなリュウジをからかうように、ノアはリュウジのベッドにたたっと駆け寄るとぽふんと音を立てて腰掛ける。


「リュージもこっち来て座ろ?」


「はぁ…ノアってば気楽だなぁ。」


 ノアが自身の隣をポンポンと手で叩く。

 そんなノアを見たリュージは溜め息をつきながらもノアに応じるようにベッドへ向かった。

 リュウジはノアの隣に腰掛けると、ノアの姿を確認する。

 赤黒いサラサラとした髪にクリンとした昏い目。

 浅黒い肌に、まだ幼い肢体。それでいてはっきりと主張している胸の豊かな膨らみ。

 ぷるんとした唇は艷やかに光っている。

 リュウジはそんなノアに興奮し、ゴクリと息を呑んだ。


「そ、それで話って何かな?」


 興奮していることを隠し、ノアに問いかけるリュウジ。

 そんなリュウジにノアは妖しく微笑む。


「あのね…。私、リュージと出会って嬉しかったんだよ。あの村の中でひとりぼっちで暮らすなんてすごくイヤだったの。でもリュージが私を見つけてくれたんだよ?」


 ノアはリュウジがある村に訪問した際、忌み子として敬遠されている少女だった。

 そんなノアを見かけたリュウジがノアに声をかけた事でノアは今ここに居るのだった。


「ノア…。」


「村の中しか知らなかった私に、こんな景色を見せてくれたリュージにわたしは感謝してるの。これからも一緒に素敵な景色を見せてくれるんでしょ?」


 その言葉にリュウジは感極まっていた。

 そう言ったノアをリュウジは背中に手を回してガバっと抱きしめる。


「うん。僕がノアにこれからも素敵な風景を見せてあげる。約束するよ。」


 リュウジがそう言うと、ノアは蠱惑的な笑みを浮かべる。


「じゃあ、リュージにはセ・キ・二・ン取って貰わないとね…シよ?リュージ。」


 ノアのその言葉が分からないリュウジではなかった。

 一瞬でリュウジは興奮し、耳元でノアに問いかける。


「い…良いのかな?ノア?」


「うん。リュージだったら良いよ。…優しくしてね?」


 ノアの言葉にリュウジの理性は完全に壊れた。


「ノアっ!!!!!」


 リュウジは叫び、ノアをベッドに押し倒す。

 ノアは「ひゃんっ」と声をあげ、リュウジの下敷きになるように倒れ込んだ。

 そしてリュウジがノアの服に手をかけて脱がし始めた時、リュウジは興奮していてノアの表情に気がついていなかった。

 ノアは口角を吊り上げ、まるで獲物が罠にかかったことを確かめるように嗤っていたのだから。


 同じ時間、王都の一角のとある建物で、老婆と青年が窓から見える月を眺めながら窓の左右に佇んでいた。

 青年がポツリと口を開く。


「で?昼間に師匠から見た「勇者」ってのはどんなもんだったんだ?」


 青年は腕を組み、窓枠に背をもたれかけていた。

 黒髪で真紅の眼をした、顔つきの整った青年だ。


「ありゃダメだね。力や女に溺れるタイプさね。スキルがどんだけ強いかは知らんが、使いこなせるだけの器がない。取り巻きの娘も同じさね。アタシにとっちゃまだまだ赤子も良いところさ。」


 老婆は窓枠に手をかけ、背筋を伸ばしまっすぐ立っていた。

 若干ウェーブがかった薄桃色の髪が少しなびき、同色の瞳は力強い印象を与えている。


「手厳しいな。というか師匠から見りゃほぼ誰も赤子みたいなもんだろ。」


 青年が老婆にいつものことだろと言わんばかりの口調で返す。

 そんな青年に老婆は少し笑う。


「まぁ、弟子のお前さんみたいな人間がいれば間違いなくうちのギルドに引き込むさね。ま、いればの話だけどねぇ。…でお前さん、時間は良いのかい?」


 老婆に言われた青年は部屋の時計を見る。


「…やばいな。早く帰らないと。」


 そう言った青年に、老婆はククっと笑う。


「嫁が10人いる男は大変だねぇ。ま、頑張るんだよ。」


「うっせ。師匠のとこの孫娘もその中入ってるんだろうが!…じゃ、師匠。俺はさっさと帰るからな!」


 そう言って青年は駆け足で部屋から出ていく。

 その後ろ姿は青年がこれまで幾度となく死線を潜ってきたようには到底見えないだろう。

 青年の後ろ姿を見送った老婆は窓越しに夜空を見あげる。

 空には月が煌々と輝き、王都の夜を照らしている。


「どこかにあのバカ弟子みたいな奴がいないかねぇ。」


 老婆しかいない部屋でその言葉は暗闇に消えていった。


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