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第1話 神話

1.

何時もと同じ黄昏色の空。

陽の光が沈み行き、暗黒が訪れ始める境には、何時もとは異なる景色があった。

黄昏色の空で、対峙するは二色の閃光。

片方は眩いほどに純粋な白い光。もう片方は混沌を全て混ぜ合わせたような黒い光。

二色の光がバチバチと激突しては離れを繰り返す。

ぶつかるたびに、激しくも高い音が周囲に響く。

互いに死闘を演じているようだが、主に動いているのは白い閃光。


「あなたはこの世界を闇の中に沈めようというのですか!!?」


白い光の中から、玉のような透き通った声がする。

女性の声だ。


「如何にも。この世を我が手中に収め、闇の支配下に置くのだ。この世界はわらわの拠点とし、いずれは全ての次元を支配下にするのだ。」


黒い光の中から昏く、低い声がする。

こちらも女性のようだ。

両者の声が響く間も光が激突する回数は増え、白い光はどんどん加速していく。


「そのようなことはさせません!!私の世界は、私が護ります!!あなたは私が!ここで止めます!」


黒い光から離れた白い光が、一層輝きを増した。

一気に加速して、黒い光に向かい突き進んでいく。


「神の力があるだけの小娘がよく言うわ!丁度良い!お前の力もわらわの計画に利用させて貰うぞ!」


輝きを増した白い光に対抗するように、黒い光も増大して白い光を受け止める。

その激突はしばらく拮抗しているように見えた。

そこから先に動き出したのは、黒い光の方だった。


黒い光から細い光が複数に分かれて広がり、触手のように動き出す。

黒い光から枝分かれした触手のような光は白い光に、鋭く鞭のように撓りながら向かっていく。

白い光は黒い光から一瞬で離れると、向かって来る細い光の触手を次々と叩き落とす。

しかし、黒く細い光は徐々にその本数を二本、三本と増やし、動きを鋭くしていく。

本数が増えるごとに、鞭のような黒い光の攻撃は激しさを増す一方で、白い光の動きはどんどん鈍くなっていった。


「うぅ…これでは…。押し切られてなるものですか…!」


白い光から呻くような声が漏れる。

その間にも黒い光の攻撃は激しさを増していった。

白い光も触手を一本一本叩き落としていく。

しかし数が多すぎて埒が明かない。


「どうした小娘?わらわから世界を守るのじゃろう?この程度とは笑わせおるわ!」


黒い光はカッカッカと笑い声を漏らしつつ、嘲るように黒い光の触手を振るう。

白い光はそれでも俊敏に光の触手を消しつつ、黒い光に近づこうとしていた。

そして、白い光が光の触手の一本を消そうとした瞬間。


”キィン”と一際高い音が鳴った。

白い光から”何か”が弾き出される。


きらりと光を反射するそれは、白く輝く一本の剣。


「あっ…」


白い光からか細い声が聞こえたかと思うと、光の触手が一斉に白い光へと向かう。


「ふはは。獲ったぞ小娘!」


黒い光の触手は白い光を次々と貫いていく。

白い光は光の触手に貫かれるごとに輝きを失っていった。

そして白い光が消えた後。

残っていたのは、触手に腹部を貫かれた白銀の長い髪をした美しい女性だった。

腹部からはおびただしいほどの赤い液体が、白いワンピースドレスを赤く染め、触手を伝い流れでている。

女性の表情は虚ろで、口の端からも赤い液体が流れ落ちていた。

黒い光が触手を消す。

支えをなくした女性は力なく地面に落下していく。

落ちていった女性を探すように、黒い光はゆっくりと音もなく降下し、地上に降り立つと落下した女性に向かい、近づいていった。

落下した女性はうつぶせに倒れていたが、黒い光の方に手を伸ばし、虚ろながらも視線を向けている。


「やら…せま…せん…」


女性の搾りだすような声に、黒い光はまたカッカッカと笑う。


「まだ息があるか。神の力を持っただけの小娘であろうに。なかなかしぶといのう。」


黒い光は女性のもとへ近づき、手前で止まる。

すると黒い光が弾け、胸元の大きく開いた黒いドレスを着た、美しい女性が現れた。

髪は静脈血のように赤黒く、肌は少し浅黒い。

女性は深淵まで見通したかのような昏い瞳を白いドレスの女性に向ける。

その女性は目下の女性を嘲るようにニヤリと口元を上げた。


「わらわには遠く及ばぬのにようやった。しかしここで終わりじゃ小娘。安心するが良い。せっかくの世界じゃ。この世界はわらわが有効に活用してやろう。」


赤黒い髪の女性は倒れている女性に語りかけると、右腕を前に出す。

掌の中には黒い闇と混沌を凝縮したような球体。

倒れている女性はそれでも赤黒い髪の女性を見つめている。


「今度こそ終わりじゃ。ちぃとばかし楽しかったぞ。」


赤黒い髪の女性がとどめを刺そうと黒い球体を放とうとした。

その時。

ジャラジャラと金属が地面と擦れる音が鳴り響き、金色の鎖が赤黒い髪の女性の腕に巻き付いたのだ。


「…!?何じゃ!?」


動揺したのも束の間、次々に金色の鎖が地面から出現し、手足に巻き付き、絡め取っていく。

掌の中の球体は消え去っていた。


「おぬし!一体何をしおった!?」


赤黒い髪の女性は、倒れ込む女性を睨みつける。

倒れ込む女性は虚ろながらも、睨み返していた。


「いった…でしょ…。やら…せないって…。」


話している間にも金色の鎖は赤黒い髪の女性に次々と巻き付いていく。

赤黒い髪の女性はそれに加え、自身の異変も感じ取っていた。


(だんだんとわらわの魔力が抜けていく…じゃと…こやつ…)


赤黒い髪の女性は倒れている女性を睨みつける。

倒れている女性は力なき眼で、ただ虚ろに見つめ返すのみだった。


「おぬし…謀りおったな!!」


苦々しく叫ぶが、もうすでに手遅れだった。

いくら赤黒い髪の女性がもがこうと、鎖は一向に緩まない。

巻き付いた金色の鎖が輝きだし、魔力を急激に吸収していくのが女性には感じられた。


「おのれおのれおのれぇ!このようなものに引っかかるなど思いもせんだったわ!わらわは必ず!100年経とうと!1000年経とうと!この世界を我が物にする!覚えておくが良い!!」


女性が捨て台詞を吐き、光の鎖が眩く輝いた次の瞬間、鎖と共に赤黒い髪の女性は消え去る。

後に残ったのは、赤い液体の中に倒れ込む女性だけだった。


「後は…頼み…ましたよ…。」


倒れた女性がそう呟くと、その女性も赤い液体と共に消えた。

先ほどまでの戦いが嘘のようにそこで何もなかったかのように静けさが満ちる。

するとしばらくして、何処からか人々がわらわらと出てくる。

みな一様に、何かを探しているようだった。


「おい!あれ!」


誰かが声を上げる。

そこに多くの人が集まり、声の主が指差す方を見上げる。

そこにはあの女性が持っていた、白く輝く剣が地面に突き立っていた。


これが、女神「ファノア」と魔王「インフェジア」の戦いの幕引きだった。


…………………


これは、何処かの国の創世記。


そして、おとぎ話の前日譚。


そこから先は…まだ、誰にもわからない。


そしてこれはとある少年のお話。

少年は女神の遺した聖剣を手に取り、共に立つ少女たちと力を合わせ、魔王を討伐する物語。


さあ、語ろうか。

勇者の少年の物語?

否。

或る一人の《《傭兵》》の少年の物語を。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ご拝読いただき、ありがとうございます。

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