4
学園でもエリクはなんだかんだとマリリーズを構ってきた。学年が違うので同じ授業になることはほとんどないが、例えばランチタイムの食堂とか、放課後の図書室とか、マリリーズを見つけると彼はやってくるのだ。
「マリー、勉強はついていけているか? 俺が見てやろうか。なにせ俺は学年七位だからな。なんでも教えてやろう」
七位ってまた、いやすごいんだけど、たしかにすごいんだけど、ドヤっていうことじゃないような気もする。だけどマリリーズにとって七位は雲の上くらいの順位なので黙っておく。
「マリーは辺境拍家の娘だから、騎士科系統の科目は得意だろうが、座学は苦手だろう? そういうの何て言うんだっけか……脳筋?」
「脳筋……ほぉぉ、なるほど。エリク様が辺境伯家をそのように思っていたと、お母様によろしく伝えておきますね?」
「んんっ、それは、ちょっと、よろしく伝えなくてよろしい」
急に慌て出した。エリクは母の怖さを知っている。
ちなみにエリクが言う通り、マリリーズは騎士科系統の科目は得意らしい。先日の試験で同学年女子生徒の中でだんとつの首位だった。とても驚いた。マリリーズは姉にも母にも勝てたためしがなかったから。
余談だが、マリリーズの上の姉は、抱きしめられたくなるかっこいい上腕二頭筋を持っている。マリリーズもほしかった。だから姉に教わりながら一緒に腕立て伏せを頑張ったが、腕は細いままだった。
下の姉は憧れの腹筋を持っている。あの割れ方ときたら、最高に美しいのだ。マリリーズもほしかった。だから姉に教わりながら一緒に腹筋を頑張ったが、割れてくれることはなかった。
マリリーズはどうにも他領出身の母に体型が似てしまったらしく、華奢で筋肉が付きにくい。妹にさえ負けることが増えてきて、劣等感を拗らせていたところのだんとつ首位だったのだ。驚いたどころではない。詐欺か何かかと思った。
もしかしたら非力でか弱い女性アピールなのか? と本気で疑った。強さに重きを置く辺境伯領ではか弱さに憧れなどないので、マリリーズには理解できない。だけど庇護欲をそそられるような女性が好まれる風潮にある、ということを学園に来て学んだところだ。もしかしたら力を出さずにわざとそう見せているのかもしれないと思った。
だけど男子生徒を合わせてもかなり上位だったので、「もしかして辺境伯家の基準がずれています?」とおそるおそるエリクに聞いたら爆笑された。王子が大口開けて笑うんじゃない。
「じゃあ、この問題、教えてもらえますか?」
教科書を指差して、わからなかった問題をエリクに見せる。脳筋は言い過ぎだと思うが、マリリーズが座学が苦手なのは間違いない。
エリクは一度顎に手を当てて考える素振りを見せ、すぐに解き方を説明しながらノートにスラスラと書き始めた。解説もとてもわかりやすく、マリリーズは素直に尊敬した。
「わかったか?」
「よくわかりました。エリク様、本当にすごいんですね」
「まあな! だけどいくらすごいからって、俺に惚れるなよ!」
そこでドヤ顔をするから全てが台無しなのである。
「あははははははっ、どうぞそこはご安心くださいませ」