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負けヒロインが多すぎるIF

 いつも見慣れた文芸部室は、綺麗に着飾れ、デコレーションされたケーキも今は無くなり、クラッカーの飛び散った後や火薬の匂いがまだこびりついていた。ただ、八奈見杏奈は机を枕にしてぐったり。

「ていうか! シャンメリーで酔うなよ!」

「うるさいよぉ? かずくん」

「誰だよ! おこちゃまのお酒だから酔わないとかいったやつ!」

杏奈は机に突っ伏して寝ていた。白いニットが揺れ、黒いスカートは顰ませ、肉づきのいい足は延ばしたままだ。

……こいつ、このまま起きなかったらどうするんだ。

いやいや、その前にあの四人もひどすぎないか、俺ら二人を置いて、どこかいくなんて。

「これ、どうすんだ」

ぐだっとした杏奈の唇を見て、思わず頭を振る。

「いかんいかん」

一旦、頭を冷そう。

気がつけば旧校舎階段のドアに手をかけていた。

階段の手すりにきて、外を眺める。

冷たい空気がどこか心地よい。冬特有の冷たい匂いはどこからくるんだろう。

階段はいつもとは違い、薄暗くどこか寂しさがあった。どことなく遠くから赤鼻のトナカイのフレーズが聞こえる。

「風邪、ひくぞ」

その気遣いの言葉は微風に阻まれた。

「ひどくなーい? 女子一人寝てるのに、どっかいっちゃうなんて」

「静かに寝かしといてあげたほうがよくないか?」

「私に何かあったらどうするの」

「……だってここ、学校だし?」

「わかんないじゃん、最近物騒だし」

「サンタクロースが襲うのかよ」

「そんなのサンタじゃないじゃん。ところでなにくれるの」

「ぞの身体がら魂を解放じでやるぅ」

「ぷっ……ははは。ちょっとなにそれ、まさかゾンビの真似?」

杏奈は目に手をやり、涙を拭う。揶揄いは肩透かしだ。

「ゾンビっぽいだろ?」

「かずくんじゃ無理じゃない?」

「なんだよ、それ」

「なんでも」

「杏奈はそういうとこ変わらないよね」

「んー? かずくん、付き合う前のこと思い出してる?」

「うん」

「残念でした、杏奈ちゃんはかずくんの理想の女の子とはかけ離れていたのです」

「なんだよそれ」

「……べつに」

「って、いままでの俺ならいってた」

「ねえ! かずくんちょっと意地悪になった?

それいらないよ? ねえ!」

「いままでの経緯があるし」

屋上で友達になってほしいと告白したときに、早とちりして杏奈が愛の告白だと勘違いしたのは忘れようがない。

「むぅ」

不服な声をだしても杏奈の両手が僕に巻き付く。

気が付けば俺は杏奈に包まれていた。

「あ……」

僕は何か口にしようとしたが柔らかい身体を預けられて僕は少しぐらつきながら受け止めた。

「こうしたっていいよね」

冷たい旧校舎の階段の揺れと彼女の震えが僕に疑問を投げかける。このまま、思うがままに抱きしめて良いのだろうか。

二人の時間を過ごした、昼の約束から始まった、僕らの関係が頭に駆け巡る。

「……といいつつ振るんだろ」

「はぁ? このタイミングでそれはないでしょ」

杏奈は僕に怒りながらも少し涙を溜めてるのがわかった。

「嘘だよ、これで、あの時の誤解とおあいこだろ」

「結構傷ついてたんだね」

「そりゃ、友達になれて嬉しかったけど、男として後々、傷ついたし」

「……とちった私が悪いけどさ、それで」

「うん」

また、冷たい風が流れる。けど、今度は、杏奈の熱も運んできて少し暖かい気がした。

何も話さなくていいと風が僕らに伝えてきた。

「あ! ほらっ!」

杏奈は大きく瞳を輝かせて指を指す。

外は黒い闇に覆われていたのに、光がぽっと一つ二つ灯ったかとおもえば、イルミネーションが大量につき始める。

「綺麗だよね」

「なんでそんな月並みな感想なの」

「え? だって綺麗でしょ」

「かずくんさー、綺麗にしたってさ、なんかもっと他に言うことあるんじゃないの?」

「え、なんかさっきから怒ってない? 俺何かした?」

「べっつに」

 杏奈の不機嫌さは変わらない。

 ここでごめんって謝るのは多分違う。それはなんとなくわかる。考えろ、考えろ、温水和彦。

「こう、でいいのか」

俺は後ろからそっと杏奈を包む。

あまり強く抱きしめると壊れそうで、食べるのが好きとかいってるのに、細く柔らかく、甘い香りがした。

「杏奈って、いい匂いするんだな」

「やだ、かずくん忘れたの?」

きっとあの遊園地でのことだろう。

「いやいや覚えてるって。観覧車で、せ、接吻したことは」

「……言い方ちょっと古風すぎない? ……もしかして杏奈ちゃんの前で照れたりなんかしてたり?」

「うるさいなあ」

「あーやっぱりそうなんだ」

杏奈の顔が近いづいてくる。

「ちきしょー」

俺はやけくそになり、杏奈にキスをする。

その一瞬、僕はあの観覧車の時の幸せな時を思い出した。

柔らかく甘いさくらんぼを口に含む様に、舌を滑らせ、杏奈にキスする。

はあはあはあ、息が荒くなる。

「ちょっと、かずくん。やりすぎだよ」

「むごっ」

杏奈と再度交わす、今度は長く深く。

「変な声でたし」

「むごっ、頂きました」

「言わんでいい」

俺は軽く杏奈にチョップする。

「信じられない! この可憐な美少女にチョップする?」

「前、されたしなあ」

「いやいや、おかしいでしょ。そんな伏線回収しちゃだめだよ」

「懐かしいだろ」

「ほりかえすなー」

軽く蹴られたけど心地よい。

僕らは負けても前に進める。

「今度はかずくんが弁当作ってよ」

「無理無理、妹任せなので」

くだらない駄弁りをしながら

僕らは寒空の旧校舎で、夜を明かした。

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