第二話 惨劇
間違えたのでいったん削除して投稿しなおしました。ご迷惑をお掛けしてすみません。
走る。ひたすらに、前だけを見て、必死に走り続ける。
「はっ、はっ、はっ。あそこの通りを真っすぐ抜けて――!?」
思わず、足を止める。
「は……?いま、おれ、道路走って??」
いつの間にか、景色が変わった。さっきまで、住宅街を走っていた筈だ。なのに、何故、どうして――
「なんで、目の前に駅があるんだよ……。」
忽然と現れた建物。上の方には暁天市駅と書かれた看板。間違いなく、此処は駅前だと分かる。
「それに、なんか鉄臭いな。」
僕は臭いが何処からしているのか周りを見回そうとする。しかし、臭いの発生源は直ぐに見つかった。それと同時に、僕は見なければ良かったと後悔することになった。
「うあああああああああああああああああああ!!!!!!!」
死屍累々。死体だけで道を埋め尽くさんばかりにその光景は広がっていた。中には、内臓が飛び出て――
認識した途端、僕は、胸の中から込み上げてくるモノを堪えきれずに吐き出した。
「うぇ……げほっ、ごほっ!」
そうして、胃の中のものを全て吐き出して、少し冷静になれた。
「一体、何があったんだ?」
ブー!ブー!ブー!
「うわぁ!!?」
思わず肩が跳ねる。しかし、自分のポケットから発せられた音だと分かり、急いで携帯を取り出す。その画面に表示された名前は、僕に僅かな希望を与えてくれた。
「じいちゃん……。」
何も分からない中、それは地獄に垂らされた蜘蛛の糸の様に思えた。
僕は、携帯の着信に出る。すると、いつも聞いている声が聞こえた。
「よお、人志……無事か?」
「無事だよ、じいちゃん……!」
涙があふれてくる。こんな状況なのに……いや、だからこそ、だろうか。変わらず聞こえてくる声があるだけで、こんなにも心強い。
「人志。お前、今どこにいる。」
「街を出て、助けを呼びに行こうとしたんだ。そしたら急に、目の前の景色が変わって、今、駅前広場にいる。」
「なるほどな。」
そういうと、じいちゃんは咳払いをして、再び話だす。
「よく聞け。そこはいま、巨大なドーム状に区切られた空間になっている。電話とかの通信は問題ないんだが……陸、空、地下……物理的な手段であらゆる侵入方法を試したが、ダメだった。だから、お前は今、生き延びる事だけを考えろ。その間に、俺たちは外から結界を突破出来ないか試みる。それと、夜星にもこのことを伝えてくれ。」
「待って、今、俺は一人なんだ。」
「何?」
「夜星は爆発があった時に、走り出して行っちゃったんだ」
電話の向こうから、「あの馬鹿娘……」と悪態を吐くのが聞こえた。
「夜星については、伝えられたらで良い。こんな事を言っても慰めにもならんが――」
じいちゃんの声色が、優しさを帯びる。
「耐えろ。耐えていれば、必ず俺たちが何とかする。だから、絶対に死ぬなよ。」
「わかった。待ってるよ。じいちゃん。」
そう言って、通話は切れた。
僕は、死体を見ない様に、走り出した。早く夜星を見つける為に。
夜星 藍は、目の前にいる男たちを睨む。手に銃を持った、全身真っ黒な服に身を包んでいる。
「おい、嬢ちゃん一人だけだぞ?」
「ああ、さっさと殺っちまうか。」
男たちは夜星に銃を向けると、躊躇なくその引き金を引いた。そこから放たれた凶弾は、真っすぐに進み、夜星を貫くだろうと、誰もが考えるまでもなく確信していた。
――夜星以外は。
夜星の前に白い光球が現れる。それに吸い込まれる様に、銃弾はその軌道を変えたのだ。
男たちは、その姿を見て騒然とする。
「あいつ、現意能力者だ!」
「注意しろ。恐らく、あの光球に何らかの能力が付与されている筈だ。」
コツ、コツ、コツ、コツ、
嫌に足音が響く。まるで男たちに自身の存在を誇示するように、悠然と歩を進める。
「私の現意能力は、『星』。」
ゆっくりと、手を前に翳す。
「生み出せる星は、岩石惑星、ガス惑星、そして――恒星。」
手の先に生み出された『星』は、岩石で構成されていた。夜星はそれを数十個生み出すと、ゆっくりと手を上にあげた。
「そして、生み出した星は、私が自由に操る事が出来る。形を変える事だって、複数生み出すこともできる。そして、この星の重力の影響は受けない。」
手を前に下すと、その岩石群は、男たちに殺到した。
「ぎゃあああああああああ!!!」
「やべぇ、逃げ――ごふぁ!!?」
「ひい、お助け!?」
阿鼻叫喚。色とりどりの星が宙を舞う様は、一見すると幻想的なモノに見えるが……男たちをバッタバッタと薙ぎ倒していなければ、の話である。土埃が舞い上がり、視界が悪くなる。
数秒すると、男たちの叫び声も止んだ。土埃が晴れた先に現れた光景は、呻き声を上げて倒れるボロボロになった男たちだった。
気絶し、積み重なった男たちを、夜星は巨大な岩石を生み出し、真ん中に穴をあけて放り込む。
「殺しはしない。軍に身柄を引き渡すまで、そこで大人しくしてて。」
穴は、再生するように塞がっていく。
その岩石を地面にドスンと置くと、夜星は空に浮かびあがり、移動する。その先には、暁天市中央公園があった。
そして、その中心部にある噴水の前に立っていた男の前に降りる。タキシードを着て、指揮棒を持った、細身の男だった。
「おやぁ?どちら様でしょうか。」
「あなたが、この事件の首謀者?」
男は、その言葉にニヤリと笑う。
「……だとしたら?」
夜星は周囲に岩石群を生み出す。
「あなたを拘束します。抵抗はしないように。」
「くっくっくっく……やってみろ、この私——アニオ・セルエルを倒せるものなら!」
男は指揮棒を振りかざし、赤い閃光が夜星に迫る。
夜星はそれを、岩石だけで防ぐが、赤い閃光が当たった瞬間砕け散ってしまった。
「……強いね。」
「今まで、私の血槍を打ち破った者など、居なかったのですが……強いですねぇ。流石は天陽輪国の創星姫。」
その言葉に、僅かに目を細める夜星に、アニオはくつくつと笑う。
「下っ端には情報を渡していませんが、我々幹部クラスにもなると、様々な情報が入ってくるのですよ。あなたの様に将来有望なプネウマホルダーの事は特に、ね。」
「ふぅん。」と興味なさげに夜星は返事をする。夜星の周りの岩石が、次々と地面に落下する。そして、夜星の左右に光球が二つ現れる。それは、夜星の周りを周回する。
「『衛星』展開。」
「さて、我々の仲間になる気はありませんか?あなたほどの能力者ならばすぐにでも幹部になれるでしょう。」
「悪いけど、断らせてもらう。私が守りたい物は、何でもない日常………あなた達の様に、平和を壊す連中の事なんて信用できない。」
「ふむ……それは残念。それではここで死んでください。」
夜星は自身の周りを周回する恒星……『衛星』とは別に、再び恒星を生成する。
「出来るなら、やってみなさい!」
夜星は星を、アニオは赤黒い球体を周囲に浮かべ、そこから血槍を放った。
二人の現意能力者が、此処で激突した。
此処まで読んでくれてありがとうございました。