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「我は、京の都のとある場所から湧き出る聖なる水の精霊でな、その泉を守りながらそこに住む人や動物と仲良く暮らしておった。しかし、時が経つにつれ、人は我の姿がみえなくなってしまったようでな・・・」
クロは少し寂しそうな顔で遠くをみている。
「それがある日、聖なる水が湧き出るそばにたった屋敷の清明という男が、我に話しかけてきた。久々に人と話しができることがうれしくてな、清明も話し好きの男で、我らはすぐ友となった。清明は気の良いいい奴だったたが、えらい調子者でな。我が嵐がくることや、病がはやることを教えてやるとそれを自分が予感したかのように、えらそうに人々に語っていたがな」っと、フフッと懐かしむようにクロが笑う。
「それって、もしかして平安時代の安部清明のことじゃ?」
「そうだ。そんな名だったかな」
「そしたら、伝説にある阿部清明と一緒にいる式神って・・・」
(本でみた絵では、鬼のようにかかれてたけど・・・)かわいらしい様子のクロをじっとみつめる和葉。
「阿部清明の不思議な力って、クロの力だったのね」
「そうだな。でも、清明が年老いて死んでしまってからは、また一人の日々だった。春夏秋冬、屋敷は新しくなり、人も新しくなるが我をみえるものはいなかった。そんな日々を何回くりかえしたか分からなくなったある日、リキュウのおやじがやってきてな、我の方をじっとみつめてこういったんだ。
「『その水を分けてくれまいか?お茶を飲んで一服しよう』と」
「その時はじめて飲んだ茶というものがすごくおいしくてな。それから毎日、リキュウのおやじは我に茶を淹れてくれてた」
クロは、嬉しそうに尻尾を振って、当時のことを思い出しているようだ。
「あたたかい日差しの中、庭を眺めながら縁側に座り、たわいもない話をしているだけだったが毎日楽しくてな。でも、ある日、リキュウのおやじが言ったんだ。今日が最後の茶になるって・・・今日、自分は死ぬと・・・」
「秀吉からの切腹の命・・・」
クロはうなずいて、話しを続けた。
「我は、リキュウのおやじに逃げるようにいったんだ。でも、おやじは逃げようともぜすに、いつも通り我に茶を淹れてくれてな・・・」
「我は大好きなおやじを死なせたくなかった。だから茶を飲みながら願ったんだ。我に力を。リキュウのおやじを守りたまえって」
「そうしたら二人で飲んでいた茶が光だして、あたり一面真っ白な光に包まれて・・・目を開けたらこの世界にいた」