7
「そうだ。そんなことよりも、お前・・・おい、お前の名は?」
「和葉大谷です。」
「和葉かよい名だな。和葉のおかげで久しぶりにおいしい茶がのめた。礼をいう。」といって、クロが頭を下げた。
和葉は誰かの役にたてたことがうれしくて、胸がぽっとあたたかくなった。
「さぁ、そこの2人にも茶を淹れてあげてくれ。そうだな、茶菓子でもだしてやろう」と言うと、イリスとリシェルの前に桜の形をした薄ピンク色の和菓子がお皿にのってあらわれた。
「これは!?なんて美しい。和葉様、これはなんですか?」
「和菓子といって、私の国のお菓子です」
「お菓子!!??」めずらしそうに、和菓子をみつめるイリス。
「クロからお二人にと。お二人のお茶もお出ししますので、そちらにお座りになって、お菓子を先に召し上がって下さい」
「私は」とリシェルが遠慮がちに声をだすと、イリスがリシェルの前に手をかざすと、リシェルもイリスとともに腰をおろした。
「切るのがもったいない。どこから切れば」といいながらイリスはフォークではなく、はじめて使う黒文字を器用に使いながら、そっと桜の和菓子を一口分切って、口に運ぶ。
「まぁ、なんておいしいのでしょう!」イリスが目を輝かせる。
「この中に入っている茶色のものはなんですの??クリームでもチョコレートでもない・・・」
「それは、あんこですね。小豆という豆とお砂糖からできているんです」
「豆!!!こんな美味しい豆料理ははじめて、口にしました。」
リシェルもうなずきなから、和菓子を堪能している。
その間に和葉は、二人の茶を淹れる準備にとりかかる。さきほどは、クロがあまりにお茶が飲みたいと急ぐので、手順をとばして急いでお茶を淹れたが、今度は二人がお菓子を堪能している間、茶道部で習った手順を一つずつ思い出しながら、お茶を淹れてみた。すると、お茶を点てるごとに目にみえない小さな光がまた一つ、一つあふれ出している。
(ん?何か光ったような。気のせいかな)
その光をクロとリシェルがじっとみつめている。
「それでは、お茶をどうぞ」と、お二人の前にお茶をだした。
「きれいな器ですね。これは、外にある木に咲いているお花ですか?」とイリスが器をみながら、和葉に尋ねる。
「そうです。桜といって、私の国では春になると桜が咲き、あたり一面薄いピンク色に染まります。私が一番好きな季節なのです」
「それは、美しい景色でしょうね。一度みてみたいです」といいながら、お茶を口に運ぶ。
「おいしい。凛とした味で背筋がのびるとともに、なぜかほっとします」
和葉は、笑顔のイリスの顔に満足しながら、リシェルの前に器を置いた。
「リシェル様もどうぞ。リシェルさまの器は、リシェルさまの瞳のお色と一緒の美しい紫色のものを選びました」
「ありがとうございます。カズハさま。では、いただきます」
「これは!!!先ほどの豆のお菓子とこの深みのあるお茶の共演は素晴らしい!」
リシェルは食レポまで完璧のようだ。
二人ともお茶を飲み終わると、器をおいて満足そうに顔をあげた瞬間、目を見開いてクロの方をじっとみつめている。
「カズハさま、そこに耳と尻尾のはえた男の子が・・・」
「イリスさまにもみえますか!?そうです。この子がクロです」
「かわいいー!!!」
「かわいい??かわいいとはなんじゃ?我はそなたより年上ぞ」
「カズハさま、イリスさま。そのお方は、リキュウさまと国を救いし、精霊クロさまでございます」
「え~~~~~!!!???」
「クロが言い伝えにある精霊!!??」
「えっへん!」
クロがどや顔で尻尾を振っている。