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色とりどりの花が咲き乱れ、見事な庭園が広がっている。
「きれい」和葉がみごとな庭園にみとれていると、
「こちらへ」と案内するリシェルの後をついていく。
花の庭園を抜けると、その奥は森のように木々に囲まれ、木の香り心地よい。
「あの、リシェルさま。魔法のことはよく分らないのですが、光の魔法!とか風の魔法!とかで、その霧を吹き飛ばすことはできないのでしょうか?」
「えぇ。私も試してみたのですが何も変化はありませんでした」
「リシェルさまの魔力は、その大丈夫なんですか?」
「残念ながら威力はいつもより弱く、魔力消費がいつもよい多い状況です。それでもまだ他の皆よりは攻撃魔法も使える状態にはありますが・・・ですが、あの霧は魔力の強弱は関係ないもののように感じます。魔法を吸収している黒い生き物のような」
「黒い生き物・・・」
ゾワァと何か嫌な予感がして身体が少し震えた。
「なので鍵をにぎる千利休さんをこの世界に呼び寄せることにしたのですね」
「はい」
少しだまって考えながら歩いているとリシェルが足を止めた。
どうやら行きどまりのようだ。
「ここがその場所ですか??」
あたりをキョロキョロと見回してみるが、周りには木しかない。
「和葉さま、こちらにきてこの器をお持ちいただけますか?」
リシェルはそう言って、白い器を和葉に手渡した。和葉は言われた通り、白い抹茶茶碗を両手で持つと、リシェルは呪文を唱えだした。
「この器って私が月茶堂で選んだ抹茶茶碗ですよね?」リシェルがにっこり微笑えむとカズハの持つ器から光があふれ出した。
「え?」
光がおさまると、行き止まりだった場所が開け、奥に石畳の道が続いている。
「わぁ、すごい!」
「カズハさま、どうぞこちらへ」
そういって、石畳の道をどんどんと進んで歩いていくと、いつのまにか辺りの木が竹に変わっていた。
「これって、竹じゃ」と言いかけたところで、辺りが急に明るくなった。
「リシェル様、ここは一体??」
そこはピンク色の桜が咲き誇り、小さな池のほとりにある日本式の小さな庵。
まるで京都にある日本庭園のような風景が広がっていた。
「ここは、センノリキュウさまがこの世界で住まわれていた場所です。リキュウさまが亡くなられてからこの場所は封印され、この場所へ導く言葉が代々王宮筆頭魔道士に受け継がれておりました。そして、その鍵となるのが異世界の選ばれし者が選んだ光の器であると・・・」
「和葉さま、どうかされましたか?」
「ここは、私の住んでいた世界によく似ています」
「和葉様は、このような美しい世界で暮らしておられたのですね」
「はい。遠く離れてみて、平和で美しい国だったんだなと思います」
少し故郷を思ってセンチメンタルな思いにふけっていると、
「本当になんて美しいのでしょう!カズハ様は、千利休さまをご存じなのですか?」とイリスが尋ねてきた。
「え?イリスさま?」
「まだ聞きたいことがありますのに、リシェルがカズハさまを連れていくので、やっぱりダンスのレッスンをさぼってきちゃいました」と、下をだしておどけてみせるイリスの顔は、王宮で凛とした雰囲気とは違ってみえる。
(これが、イリスさまの素なのかな?)そんな彼女の素顔を知っているのか、リシェルはしょうがないと行った表情でイリスをみている。
「私の知っている千利休さんというのは、何百年もの昔に私の国にいた方です。その頃は今と違って、同じ国の者同士が争い、戦国時代とよばれる乱世でした。当時の有名な戦国武将。。。えっとこの世界でいう騎士のよな方にに仕えた茶人なのですが、最後は、豊臣秀吉という王様のような天下人の逆鱗にふれ切腹されたと学びました。切腹というのは、処刑されたということなのですが、もしやその時、千利休は死なずに異世界に転生していたということですか?」
「私どもの伝え聞いているセンノリキュウさまは、王家に仕え、精霊とともにお茶でこの世界をお救いになられたと伝えられています」
「お茶で世界を救う??」
「そのお茶を淹れられていたのが、あちらの庵になります。カズハ様、イリスさま。どうぞ、こちらに」
そう言って、リシェルは日本庭園の中の桜の木の下にある小さな庵の前に、カズハとイリスを案内した。
「入口は、どこにあるの?」
「イリスさま、入口は、ここです。」と和葉が指さした方向をみて、イリスは驚いた。
「こんな小さな入り口から出入りするの??リキュウさまは小人でいらしゃったの?」
「いいえ。この小さな入口には理由があるのです。この庵の中にある茶室では、王族、貴族、平民であろうと身分関係なくお茶を味わう場所とされています。この入口から中に入るには、だれであろうと膝をついて、頭を下げなければなりません。そして、武器を持って中に入ることもできず、魔法も使用することもできません」
「リシェルさま、よくご存じですね。この入口は躙口というんですよね?私がいた世界でも大昔、刀という武器をもった武士達が刀を外し、身分が高い人でも頭をさげて中に入りお茶を飲んだと。この中ではすべての人が平等であるという千利休さんの考えの元作られたって」
「すべての人が平等・・・」イリスがつぶやいたと思ったその瞬間、
「お前、なかなか詳しいじゃないか」庵の中から声が聞こえた。
「リシェルさま、中に誰かいらしゃるんですか?」
「?」リシェルとイリスが不思議そうに和葉をみる。
「中から男の子の声のようなものが聞こえるんですが・・・」
「私にはきこえませんが、リシェルきこえました?」
「いえ。でも・・・、もしかしたら・・・」
「おい、お前。はやく中にきて、お茶を淹れてくれ!」
「お茶を?淹れる??」
「リシェルさま。中の男の子が中にきて、お茶を淹れるようにと」
リシェルは少し微笑んで、「では、さっそく中に入りましょう」
リシェルに続いて、庵の中に入ると日本の茶室の中に小さな狛犬?のような耳と尻尾のはえた男の子?が
ちょこんと座っていた。
「あなたは、いったい??」