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それからシアン王子は、忙しいスケジュールの合間をぬって、毎日クロの元で和菓子づくりの練習をしている。和葉というと、一石二鳥計画はイリスに内緒で驚かそうということになったため、イリスにばれないようシアンがクロの元へ菓子を作りにいく時間は、和葉がイリスの部屋でお茶をすることになった。毎日、お茶を重ねるごとに二人はカズハとイリスとよぶほど仲が深まっていった。
~イリスの部屋~
「今日のお茶は、これにしてみたの」といつもの抹茶茶碗ではなく、ティーカップに淹れられた薄い緑のお茶をイリスの前においた。
「これは?」
「まずは飲んでみて」と、ニコニコと微笑む和葉。
イリスは一口飲んで、顔が驚きと美味しさで笑顔になる。
「おいしい!これは抹茶にミルクかしら?」
「そうミルクとお砂糖がはいっているの」
「抹茶にはこのような飲み方もあるのね。ミルクのまろやかさが、抹茶を包み込んで、やさしい、ほっとする味」
ふーっと一息つきながら、抹茶ラテを飲むイリス。
「そうなの。私も元いた世界で忙しく働いていた時に、この抹茶ラテを飲んでよく一息ついてたんだ」
「カズハの世界は、職業や結婚の選択も自由な世界って話していたわよね?」
「そうなの。でも私はずっとやりたいことが分からなくて、なんとなくでついた仕事なんだけどね」
(そのうえ、ブラックだったし・・・)とため息をつく和葉。
「本当にその世界がうらやましいです」とポツリとイリスが答える。
そして、抹茶ラテを一口飲んでイリスがまっすぐな瞳で和葉を見つめる。
「イリス?」
「カズハに私の夢を聞いてもらっても良いかな?誰にも話さないって約束してくれる?」
「もちろん」
「私は、本当は父のように賢く、皆を導く強い王になってこの国を守りたかったの」と少し照れながらイリスが話す。
「えーかっこいい!素敵な夢!」
「でも、この国では男の子しか王の後を継げないし、女の子はお嫁にいって世継ぎを産むことが仕事なの」と悲しい顔するイリス。
「だから、本当の気持ちを誰にもいえなくて、苦しかった。だからカズハ、聞いてくれてありがとう!これで心おきなくお嫁にいけそう」と少し目に涙をためながら、笑顔でイリスが答える。
リシェルからきいたイリスが馬や武術もやめて普通の姫らしくなった話を思い出していた和葉。
(きっとシアン王子のことやこの国のことを考えて、自分の思いを誰にも話すことなく今日まで生きてきたんだろうな)
「イリスはほんとすごいよ。私の世界でも昔はそうだったみたいだけれど、今は女性の指導者もいるし、恋愛も自由な国が多くなったから、イリスの国も」といいかけて、笑顔でイリスが首をふる。
和葉に話して、すっきりしたのか、あきらめがついたのか、イリスがいつもの笑顔になり話題を変える。
「カズハのいた世界は素敵な世界だね。いつかいってみたいな。それで、カズハは好きな人とかいるの?」
突然の恋バナにブハっとふきだして、真っ赤になるカズハ。
「いっいないよ!!!そそそそんな人!!!!」といいながら、頭になぜかシアンの笑顔が浮かぶ和葉。
「その反応はあやしいな・・・」とニヤニヤするイリス。
「イ、イリスこそ、好きな人はいるの?」
「私は・・・」と言いかけてイリスが口ごもる。
「きっと知らないよその国のよく知らない王子と結婚するんだと思う」と話すイリスの笑顔が、つくられたものだと気づいたけれど、何も言えない和葉だった。話題をかえようと、イリスに大茶会の話題をふってみる。
「イリス、大茶会のその、菓子職人のめぼしい人はいた?」
「それが、ケーキやクッキーといったここの世界にある菓子を作ったことのある職人たちは、王家にも優秀なもの達がいるのだけれど、和菓子となると・・・その者たちを率いてくれる誰かリーダーになるような職人がいればよいのだけれど・・・」
(シアン王子・・・あとはシアン王子次第ね・・・)と力をこめるとともに、シアンのことを想って、また胸がざわつく和葉であった。




