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コワード達は光に集う  作者: てんじん
1/1

何を言い出すんだ!!!

僕が今読んでいる本のタイトルを教えて欲しいだって?


「ラピスラズリの標本」って本だけど…


……………


 え?


 どんな本なのか、って?


 僕もまだ読み終わってないので詳しくは言えないんだけど、、


 あ、


「この小説がすごいで賞」で、1位を取った本らしいよ。


……………


……………


……………


 ねぇ。


 今、


「あ、こいつつまんねぇやつだな」って思ったでしょ?


 いや、いいんだ。自分でもわかっていることさ。


 しかし、改めて留意しなくてはならない。    


 人間のつまらなさなんてものは、読む本にまで滲み出るということを。


「本屋大賞1位」「平積み」「TikTokで○○万回再生!という帯」。


 こんなものにつられる時点で、人として終わっている。男に生まれたなら、人生で一度くらいはパケ買いのひとつでもしてみなさいよと、内なる自分はいつも僕に叱咤する。


 にもかかわらず、気が付いてレジ袋の中を見るとそこにはいつも、本屋に行く前から見た事のある本ばかりが入っている。


 ならネットで良い。ほんとに。


 これは本に限った話では無い。


 これを見ている皆も努努気をつけて欲しい。


 人間のつまらなさというのは、至る所に滲み出る。


 例えば、学校の通学路。僕は大通りを使ったルートしか知らない。我が家から学校までは、入り組んだ住宅街や、寂れた商店街など、探検しがいのあるラインナップが揃えられているらしいが、僕はそのどれも知らない。玄関を出て、往来に出て、あとは人の波に混ざりスーッである。


 これは、内向的と言い替えてもいい。


 自分で色々考えても、それが行動に移る結果になることが無い。外へ矢印が向かないのだ。外界を生きる自分と、精神世界との交渉関係が絶たれている。脳と四肢が繋がっていないような感覚。故に体は、周囲の風向きの赴くままに動くことになり、結果、このつまらなさである。


 しかし、今更どうも思わない。


 思考からつまらないわけじゃないのだ。


 世の中には、脳と体が繋がっているにもかかわらず、どうしようもない奴らが山ほどいる。そいつらに比べたら、僕はまだ救いようがあろう。


 いるかも分からない自分より下の誰かを引き合いに出し、つまらない自分を教室の隅で密かに肯定する姿もまた、ありきたりな「陰キャラ像」という感じがして嫌気がさす。




ガラガラ!!




 教室の扉が勢いよく開かれた。いい音が鳴るものだな、全く。


 僕とて、一度でいいから、あんなふうに豪快に扉を開いてみたいものである。皆の視線が怖くてそんな目立つようなことは出来ないが、、




「弱腰くんいるーーーーー!?!?!?!?」


 


 竹を割ったような爆音が、鼓膜にビリビリと響いてくる。


 な、なんだ。一体。


 クラスメイト達が何やら僕を見つめている。


 弱腰とは僕の苗字であるが、まさか僕のことを呼んでいるわけではあるまい。このクラスの人間ではないようだし、クラスメイト以外の知り合いは僕にはいない。委員会や部活にも所属していないので、完全な人違いだ。


 よし、無視しておこう。


「いないのー!?んんんん………でもなー!このクラスから匂うんだよな!」


 教室に足を踏み入れ、ずんずんと向かってくる。頼むからこちらには来ないでくれ。


 というか、臭うってなんだ。これでも風呂には入っている。教室の外にまで漏れ出る臭いなど出る道理は無い。


「内向的な臭いがするぞ!!!」


 どんな臭いだ。


 そう思ったのと同時に、右肩に凄まじい衝撃が走る。


 ガクッ


 肩をぶっ叩かれた。右肩が沈む。


 体に触れられること自体が久しぶりで、醜く悶える。


 な、なんなんだ一体、、。


 伏せた顔を上げるとそこには、屈託のない笑みを浮かべ、僕を見下げる女生徒の姿があった。蛍光灯と重なって逆光になり影の落ちた顔は、より威圧感を増している。


「君か!!君だろ!!一目でわかったよー!!臭いが違うよ臭いが!」


 ガハハと豪快に笑っている。


 鼻なのか目なのかどっちだ。


「あれってさ…活発部の、、」


「えー!もしかしてあの有名な!?」


「波風先輩だよ、校内一の有名人…」


 クラスメイト達はなにやらゴソゴソ話している。


 活発部…?


 なんだそれは。


 い、いや、なんという部であろうと関係は無い。僕はなんの部活にも所属していない。先輩に喧嘩を売るような事件も起こしていない。絶対に人違いだ。


「あ、あの…人違いだと思うんですが…」


「んー???君、弱腰くんでしょー???あってるよー!!!そんな変な苗字の子他にいないもん!!!」


 キチガイかと思ったが、変なところは常識的なようだ。そこは普通突っ込まないものでは無いのか。


 では、尚更一体なんの用なのだ。いいカモがいることを人づてに聞いて、パシリにでもしようと言うのではあるまいな。小学校中学校と、上手くパシリにはならずに生きてきた。高校とて上手く切り抜けてやる。


「あれ!!もしかして、先生とかに聞いてない???うそ!!!まだ聞いてないの???」


「な、なんのことでしょう…」


「そかそか!!ごめんねー!!わかってないなら一から話すから聞いといてね!!」


 なんだ、なんなんだほんとに。


 鳥肌が立つ。


 こんな目立つ人と人目のつくところでこんなに話すなど、僕には耐えられない。周りの目線全てが、「お前何者?」と語りかけてくる。嫌だ、これ以上目立ちたくない。


「あ、あの…ひとまずここ出ませんか…その、人の目がありますので…」


「なんで?私はここでいいよ?」


「ぼ、僕が嫌なんです…」


「おー!!嫌なことは嫌って言えたね!!偉いぞー!!これはもしかして意外と早く終わるかもな…」


「え、今なんて…」


「ううん!よし!!じゃあ出よっか!!!」


 周囲の目線に後ろ髪を引かれるように、僕らは、もとい僕は、教室を後にした。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 廊下の暗がりで、僕と波風先輩が向かい合う。


 先輩は僕の目を見ているようだが、僕は先輩の足元を見ているので、目は合わない。


 よく見ると、校則ギリギリに着崩している。人目見ただけでは気付かないが、かなりいじくっている。なかなかに攻めたものだが、モデル顔負けのスタイルが、それすら自然に見せているのだ。ユニセックスな顔立ちは、小麦色のボブカットによく似合っている。その容姿の全てに、人を惹きつける要素が詰まっている。


 などと、先輩について色々考えているうち、先輩は話し始める。


「この学校さ!入る時、色々数字測られたでしょ?」


「あ、あぁ、はい。」


「その時にね!『活発度指数』ってのを測るんだよ」


「活発度指数…?」


「そ!!社交性、想像力と、色んな項目があるんだけどね…それを諸々計算して割り出すのが活発部指数!!まあ、簡単に言うと、どれだけ人生に対して活発に取り組んでるか分かる数値のことだね!」


「は、はあ」


「入学する時に全員分計測されるんだけどねー。なんと!!君の活発部指数は学年で最下位だったんだよー!!」


 な、なんだと。そんな無粋な数値を勝手に計られていた上、最下位だと。


「今までも色んな子を見てきたけどね、こんな数値見たことないもん。かなりのシャイボーイだなー?」


 とりあえず、褒められてはいないと言うことしか分からない。そうか、そこまでなのか…僕は…


 しかしだ。百歩譲って学年一のシャイボーイだったとして、だからどうしたと言うのだ。今更どうこう言われて治るものでもない。どんな指導を受けたとしても、僕は変わらない。今まで通りつまらない人生を歩む。こんな人生でも、上手く折り合いをつけてやってきたのだ。たとえつまらなくとも、僕はこんな自分に誇りを持っている。そう易々と変えられてたまるものか。


「そんな君のためにいるのが!私達、活発部であります!!」


「活発部…」


「そう!君を活発な人生へ導く手助けをするの!!」


「い、いいですよ…別に…」


「え!良くないよ!ほんとに何も聞かされてないんだね…」


「ど、どういうことですか?」


 嫌な予感がしつつも、思わず聞き返す。


「この学校はね?学期ごとに通知表と一緒に、活発部指数も返却されるんだよ!それが入学時を下回っているか、学年順位が10以上下がると、退学になっちゃうんだよー??」


 は?


 そんなこと初耳だ。


 入学式の時も、そんな説明はなかった。


 というか、そんなことを知っていたらこんな学校には入らなかった。


 くそ。


 どうしてこんなことになった。


「活発度ってのはね?そもそも高い人は高くなっていくし、低い人は学校が始まるにつれて低くなってくもんなんだよ、期待がある分、初めが1番高いんだ。」


 1歩、こちらに踏み込んでくる。


 いい匂いがする。


 女の子の匂いだ。


「だから、私達が協力するの。君に活発になってもらうためにね。」


 あ、あぁ。


 今だろ、抗うなら。


 こんな面倒事に巻き込まれるわけにはいかない。


 脳みそよ、体とつながり給え。つながり、断りの旨を彼女に伝えたまえ。


 言え、お構いなく、と。結構です、と。


 言え、きっと面倒なことになる。


 ちくしょう、脳は拒絶一色なのに。


 何故、


「ってことだから!これからよろしくね!!弱腰君!!!!」


「…はい、よろしくお願いします…」


 最悪だ。


 何をしてるんだ。


「その子が今年の最下位??」


 後ろから別の声が聞こえてくる。気だるげな、低い声だ。


「そう!!歴代でも最大の数値だよ!」


「やっぱね、臭いが違うわ。」


 この人も活発部なのか。


 そして皆判断基準は臭いなのか。


「その小僧との最初の取り組みは何にするかね…?」


 さらに後ろから聞こえてくる。高校生とは思えない。やけに幼い声だ。しかし、口調はじじいのようだ。早速キャラが濃くて胃もたれする。


「う…ん。そうだね…あ!君さ!この学校、レクリエーションを兼ねて、4月中に体育祭あるの知ってる?」


「は、はい、それは聞いてます。」


「よし!!じゃあ決まり!!!」


「な、何がですか…?」


「その体育祭で、君をヒーローにして見せよう!!!」


 


 僕の平穏な学生生活は、以上のやり取りを以て、終わりを告げた。


 活発な少女たちは、僕を日向を引きずり出そうと、手招きしている。内なる自分などという幻想とはおさらばし、現実を見なければならない時が来たのだ。


 そう思うことにしよう。


 


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