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ディランの事情 2

 塔に運び込まれたコーネリアが目を覚ます前の晩、溢れ出る魔力の気配を感じて様子を見に行った。

 一度枯渇した反動がきたらしく、コーネリアの体内では膨れ上がった魔力が暴走を始めていた。


 本来、ディランやコーネリアほど多くの魔力を持つ者であれば、幼少期からの訓練により無意識下でも魔力操作ができるようになっている。というか、できなければとっくに自分の魔力に呑み込まれて命を落としている。

 だというのに、コーネリアはただ苦しんでいるだけで、一向に魔力の暴走を抑えようとしないのだ。


(あのままでは死ぬと分かっているだろうに。どうしてだ?)


 そもそもが望んでいない花嫁で、むしろ敵の刺客である。放置してもよかったはずが、どうしてか手が伸びた。

 危険水域に達しそうな分の魔力を吸い取って循環を促せば、たどたどしくも魔力が巡り始める。どうにか呼吸ができるようになったコーネリアは、なにか言おうとして、眠りに落ちた。


 ――魔力操作を誘導したのは、意識を取り戻したコーネリアからこの結婚に関する王宮の思惑を聞き出さねばならないと思い直したからだ。


(……ありがとう、と聞こえた気がしたが。まさかな)


 空耳に違いないその声が、ほっとして緩んだ表情が、あまりにも無防備で。

 自分が予想していた「コーネリア」ではないように感じられて、ディランは戸惑った。


 なんとなく言いにくくてアーサーにもカイルにも話せそうにないが、あの晩のことも確かめたくて見張り兵に扮してまで行ったのに、余計に分からなくなった。


「それで、ディラン。結局、尋問はどうする?」

「……もうしばらく泳がせて様子を見たい。なにか裏があるはずだ」

「分かった。監視は継続だな」

「ああ」

「じゃあ、コーネリア嬢のほうはひとまず保留ってことで、こっち。またステットソン伯爵領から無心が来てるけど」


 さらりと話を変えると、アーサーは机から手紙を一枚取り上げてひらりと振る。


「金か?」

「それと食糧も。なあ、ディラン。さすがに頻繁すぎないか」


 フォークナー辺境領と、隣のステットソン伯爵領は長い付き合いだ。

 領地の広さ自体はこちらのほうが数倍以上だが、その大部分は隣国との国境である森林地帯であり、実際に領民が暮らしたり耕作できる面積はそこまで差がない。


 厳しい北の地の領地としてお互いに持ちつ持たれつの関係でいたのだが、今の当主であるマイルズ・ステットソン伯爵の代になってから、こうして援助を要請してくることが多くなった。

 フォークナーが先代領主の圧政から解かれて後は、その回数も量も増える一方だ。


「お隣の経済状態はなかなか改善されないなあ」

「領主が留守にしている時間が長いしな」

「王都での折衝が大事なのは分かるけど、肝心の領地を放ったらかしはどうなんだか」

「できる範囲で支援を送ってやれ。行き詰まった領民がフォークナー(こっち)に流れ込んできても厄介だ」


 ディランたちが進めている改革は軌道に乗ってきたところだが、養える領民の人数には限度がある。

 しかもこれから春までは耐えるばかりの季節。冬越しの支度は城館でもしているが、不測の事態に備える必要があるため、本来ならば減らしたくはない。


(とはいえ、ステットソンの領民が悪いわけではない)


 作付けなどは領主の采配で決められ、領民は自由にできない。

 領主の能力が問われる点だが、ステットソン伯爵はその手腕に不足がある。

 それを補うべく、宮廷で便宜を図ってもらおうとしているのだろう。伯爵は王都にばかりいて、老齢の家令と一人娘の令嬢でどうにか領地を回しているありさまだ。


 領主としての教育など受けていない使用人と、まだ若い令嬢には重責に違いない。

 いつも向こうから助けを請われてばかりで、フォークナーがステットソンを頼ることはまずない。不公平な関係は健全とはいえないが、要請が届くだろうと予測して備蓄は余分にしてある。

 ディランには隣領を気にかける理由があったし、もう一人の幼なじみであるアーサーもその事情を知っていた。


「ははっ、ディランが心配なのは領民じゃなくて、ステットソン伯爵領にいる()()だろ」


 あからさまに当て擦られて、ディランはふいと横を向く。


「それなのにコーネリア嬢と結婚する羽目になって、同情するよ」

「アーサー、うるさい」


 ディランには、長年想っている相手がいる。

 だから王命といえどコーネリアと結婚するつもりなどなかったし、相手がコーネリアでなくともお断りだ。


 だが、真っ向反対するのは分が悪いとアーサーやカイルに宥められてしまった。

 自領のこれからを考えれば王宮側との余計な軋轢は避けたほうがいいという、側近たちの言い分はもっともだ。

 それならば形ばかりの結婚をし、向こうの思惑を把握した後に離縁するなり処分するなりがよかろうと説得され、渋々頷いたのだった。


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