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深夜の情報交換 2

『――こえる? 聞こえたなら返事をしなさい、リリー』

「えっ、だ、誰?」


 ぎょっとしながらもロザリオに向かって恐る恐る返事をすると、ほっとしたような呆れ声が返ってきた。


『ああ、繋がった。コーネリアよ』

「こ、コーネリア様!? なっ、なんで、えええっ? っていうか、無事? ご無事なんですね? よかったぁぁ!」

『騒がしいわね、お黙り』

「失礼しましたっ」


 すかさず叱られて、しゅんと肩をすぼめる。そんなリリーが見えているかのようなコーネリアの溜息が、ロザリオから伝わってきた。


『……相変わらずだこと。時間がないから大事なことだけ伝えるわ。リリー、あなたとわたくしの体が入れ替わっているわ』

「や、やっぱりそうなんですね! ど、どどどどうしたらっ」

『質問は許していなくてよ』

「ハイ、すみません!」


 食い気味に尋ねたら、また叱られた。さすが生粋のご令嬢である、人に命令し慣れている感がすごくてロザリオに向かって謝ってしまう。


(ああでも、よかった! コーネリア様、声もお元気そう……!)


 ひとまずほっとした。コーネリアとはほんの少し関わっただけなのに、まるで修道院仲間に会ったような安心感が込み上げて涙ぐんでしまう。


『リリー、魔法の知識はないのよね』

「ええ、まったく」

『では、分かるように話すから一度で理解なさい』

「は、はい!」


 そう言われて居住まいを正す。聞き逃したらいけない気がする。


『襲われたことは覚えているわね。あの時、奴らを撃退するのに魔法を使ったわ。この入れ替わりはその魔法によるものだけど、わたくしが意図したことではなかったの。いくつかの偶然が重なった結果で、前例もないことよ』

「前例がない? じゃ、じゃあ、戻る方法は」

『確証はないけれど、かけられた魔法を解除するには、かけた時と同じ状態で魔法を反転させれば理論的には可能なはずよ』


 入れ替わりを解消する可能性があると知って救われた気持ちになったが、続くコーネリアの言葉に不穏が滲む。


『けれど、すぐには無理ね。魔法を解除するには、かけた時と同じに――つまり、わたくしたちが直接触れ合わなくてはならないから』

「直接……はっ、コーネリア様、今どちらに?」

『聖ギルベリア修道院』

「えっ?」

『わたくしも意識を失っていたから。外見で判断されたのね』


 コーネリアは同行してきた馭者により、リリーは辺境軍にいるロイによって、身元はそれぞれ確認された。

 雪が本降りになってきて、このままでは修道院へ戻れなくなる心配があることから、一通りの治療を終えた段階で連れ帰られたのだという。


(そ、そんな! でも……)


 二人の中身が入れ替わっているなどという、前代未聞な事態を誰が思いつくだろう。だとすれば、順当な判断だ。

 続く言葉に、リリーはさらに驚く。


『天候に関しては正しかったと言えるわね。実際に、今の修道院一帯は完全に雪に埋もれているわ』

「ええー!」


 翌朝、コーネリアが目覚めた時には、すっかり雪景色だったそうだ。さらに現在も雪がやむ気配はない。

 つまり、修道院までの道は閉ざされてしまった。もう、行き来は不可能である。


(うそ……)


『わたくしもどうにかフォークナーへ戻ろうとしたのだけれど、春までは無理だとシスターたちに総出で止められたの。 今すぐ入れ替わりを解消するのは諦めるしかないわ』

「春まで……」


 冬の山道の怖さはよく知っている。死にたくないなら春まで待つしかない。

 頭では理解はできるが心が追いつかなくて、リリーは言葉をなくした。


『ああ、そういえば。こちらのシスターたちには、入れ替わりを見抜かれたわ』

「そ、そうでしょうね。コーネリア様と私じゃ違いすぎますし、もう五日も経っているそうですし……私はついさっきようやく目が覚めて、まだコーネリア様だと思われています」


 短時間のディランとの対面では、誤解を解く暇というか、隙がなかった。

 リリーは困り切っているのに、逆に好都合だとコーネリアは言う。


『そう、よかったわ。いいこと、リリー。あなたは入れ替わっていることを決して周囲に気付かれては駄目よ』

「どっ、どうしてですかっ?」


 ティナやディランにこれから説明しようと思っていたリリーは、真っ向否定されてたじろいだ。


『山中で襲ってきた賊よ。どうやら、わたくしは命を狙われているわね』

「ええっ」

『心当たりはいくつかあるけれど』

「複数!?」

『高位貴族にはよくあることでしょう』

「淑女の嗜みみたいに言わないでください!」

『黙って聞きなさい。わたくしを狙う者の正体がはっきりと掴めない今、抑止力はわたくしの魔力だけ』


 コーネリアは、王都貴族の中でも有数の魔力保持者なのだという。

 攻撃魔法にも長けており、なまなかな襲撃は通用しない。たとえば先日のように完全に不意を突かれたとしても、賊を撃退するほどの腕がある。


 魔力は体に宿り、肉体と切り離せない。今も、リリーが入っているこのコーネリアの体には魔力が詰まっている。

 だから暗殺犯たちも慎重に行動するし、おいそれとは近寄ってこないはずだ、とリリーに言い聞かせるようにコーネリアは語る。


 だが、コーネリアの中身が、一平民であるリリーと入れ替わっていて、魔法をうまく操れないと知られたら――。


『意気揚々と殺しに来るでしょうね』


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