花火舟~第三者目線~
花火舟。
夕日が沈むころ、掘割に一隻の舟が桟橋に止められる。
船頭はしきりに天気を気にしており、立ち込める入道雲を見つめている。
スマホで雨雲レーダーを見れば19時に雨が降る予想になっている。
船頭は腕時計を見て、舟を清掃し絨毯を敷き、行灯、懐中電灯(ランタン風)、レインコートを用意、淡々と準備をはじめる。
ほどなくして、旅館のスタッフが涼し気な風鈴を舟の先頭デッキに置き、テーブルと涼し気な器、それから蚊取り線香、花火、水鉢、チャッカマン、ロウソクを持って来る。
お客様を待つ間、船頭は行灯の配置や物がズレていないかを確認、桟橋をホウキで掃く。
10分前、行灯、懐中電灯の明かりをつけ、バッテリーを舟周りに配置した電飾のコンセントに差し込む。
水面がちょっとだけ光る。
まだ陽は明るい。
出発の時刻。
お客様が舟へと乗り込む。
スタッフが説明を行い、器には氷が盛られ2本の地元の人気アイス。
舟は少しずつ闇が降りる掘割を進む。
船頭は柳川の歌や北原白秋の童謡などを歌い、御花邸をぐるり、出会い橋をくぐり、沖端の町を経由し、ゆっくりと南門へと着いた。
その頃には、辺りは真っ暗。
風は西風が吹いている。
船頭は舟を固定させると、東側より花火をするよう伝える。
それは煙や火花が風に乗って戻ってくるからだ。
8月の半ば。
静かな掘割で花火の音だけが聞こえる。
日本製の花火は、発火時間が長く、火花の勢いがある。
先日、海外製の大衆花火を楽しんだ船頭はふと思った。
ゆく夏かな。
やがて花火が終わり、船頭は静かに舟をだす。
「素敵な花火でしたね。では、一曲」
情緒はあるけどね~。