桜の木の下で〜さくら貝の秘密〜
私の許婚だった人は、この部屋で一人暮らしをしていました。けれど、この部屋のテーブルにメモを残し、姿を消してしまいました。メモには、『櫻の木の下 手遊び 』と書かれていました。私はそのメモの内容を見ても、何のことかはわかりませんでした。
私は大学を卒業したあと、理化学研究所に勤めていました。許婚だった人は、私が勤める研究所で一緒に働いておりました。何故私達が許婚同士で同じ研究所にいるのかですが、私達のお互いの父が、元々ここに勤めており、家族ぐるみのお付き合いがありました。その時に親同士が勝手に許婚を決めてしまいました。そして私達は大学卒業後、お互い研究者の道に進み、お互い研究していたものがこの研究所にあったのです。ですので、たまたまですね。
今朝出勤しましたら、彼が出勤していないし、連絡もとれないので見に行ってもらえないかと彼の上司に言われ、私の上司に断りを入れ彼の部屋に向かったのです。
あのメモの内容、櫻の木の下とはどの木をさすのか。そして手遊びはどんな遊びをさすのか。しばらく考えてみましたが、見当もつきません。私は研究所に連絡し、メモを残して姿がないことを伝えました。
櫻の木の下、櫻の木の下、そう呟きながら何か手掛かりはないかと、彼の部屋を見てまわりました。ですが何もありません。ただ彼の机で貝について書かれた本がありました。ページを巡って行くと、あるページに記しがうってありました。内容を見ましたか、貝についてのことが書かれているだけで、特別なことは何もありませんでした。
取り敢えず私は、一旦研究所に戻ることにしました。そしてそのことを、彼の父に伝えました。それは何か知っていることがあるかもしれないと思ったからです。
ですが、彼の父も何のことかわからないようでした。
取り敢えず捜索願いをどうするか、彼の両親と話し、今日一日待って何も彼から連絡がなければ、捜索願いを出すことになりました。
研究所から帰ってからも、私はあのメモのことを考えていました。櫻の木の下、櫻の木の下、んっ?どうして彼は桜ではなく、櫻の文字を使ったんだろう。ふとこの事に引っかかりました。私達は日頃彼のメモに残した櫻の字の方ではなく、この桜という字を使っています。櫻、そして彼の部屋の貝について書かれた本、手遊び。そして私はもしかして、櫻とはさくら貝のことをさすのではないか、そして、手遊びとはさくら貝の絵合わせのことではないかと考えました。ただもう一つ木の下とあります。これは解くことができませんでした。そしてこの日はそのままベッドに入り眠ることにしました。
次の日、父にさくら貝の絵合わせはどこに行けば手に入るのか聞いてみることにしました。櫻貝はいろんなところで取れると思うけど、彼のところにあった本に書かれてなかったのか?そう言われると、私が見落としているのかもしれない。ただあの時、ある貝のページを開いていた。その貝って…あっ、さくら貝の一つだ。そうか、その貝の取れる場所を調べればいいんだ。そして私は研究所のパソコンで調べていました。その後、自分の仕事をこなし、明日有給をもらい調べに行くことになりました。
私はその貝が取れる町に電車で向かっていました。駅前の土産物店でさくら貝の絵合わせを売っているところはないか聞いてみました。ですが知らないようでした。そしてあと何件かも同じように聞いてみましたが、結果は同じでした。私は歩き疲れてしまい、駅近くにある喫茶店へ立ち寄りました。そしてカウンターでコーヒーを頼みました。コーヒーがきたので一息ついていると、喫茶店のマスターが声をかけてきました。
「お姉さん見ない顔だね。」
「あっ、はい。」
「何か疲れた顔してるけど、大丈夫かい?」
「えっ、あー、そうですね。」
そして私はマスターにも聞いてみることにした。
「あのー、この辺でさくら貝の絵合わせを売っているところをご存じないですか?」
「さくら貝の絵合わせねぇ、売っているところはないかな、けど、作っている人なら知っているよ。」
私はまさか、たまたま入った喫茶店で情報が聞けるとは思いませんでした。そして、その方を紹介して頂けるようにお願いしました。
さくら貝の絵合わせを作っている方は、木下さんという方でした。一瞬えっ、木の下の謎が解けてる?と思ったのですが、彼の残したメモには木下の間にのが入っているのでただの偶然だろうと思います。
木下さんにお会いし、二枚貝の絵合わせを見せて頂きました。そして彼がメモを残して姿を消したこと、そのメモに絵合わせのことか書かれていた事をお伝えしました。
「木下さんは、もしかしてあなたは、椎名美代さんですか?」
「はい、そうです。でもどうして。」
「あなたの彼の櫻木渉さんから、彼女がきたらこの手紙を渡してくれと言われました。」そういうと、奥から封筒を持ってこられました。どうやら、彼もここに来ていたようでした。そして私は手紙を開くと、こう書かれていました。
『君がこの手紙を受け取っているということは、謎をといてきたということだね。ただし木の下がわからない、そうじゃない?
僕らの思い出の場所だよ。行ってごらん。それじゃまた。』
私達の思い出の場所、それは、小さい頃行ったキャンプ場かな。その時確か、木の下に何か埋めたような。そして今度は日を改めてキャンプ場へ向かうことにしました。
今日は、彼の父の車でと私の父と三人であの手紙のキャンプ場へ向かいました。駐車場へつくと、私は思い出を辿りながら、ある木へ向かいました。そしてその木の下に埋めたはずの物を探しました。ですが見つかりません。埋めたのは子供の頃なので、彼が掘り返してなければここにあるはずと探していると、彼の父が、美代ちゃん、もしかして探しているものなんだけど、僕が持っているかも知れないと言い出しました。私が驚いていると、ここは自然が多い場所だから、埋めたりするのはあまり良くないからね。あいつから聞いて、僕が掘り返したんだよ。と言われました。そしてそれはどこにあるのか聞くと、そう言えば今日車で来る時、家に置いてきたと言われました。せっかくここまで来たのにと思いましたが、再度車に乗り込み、家へ戻りました。
そして家に着くと、おじさんがこれだよと小さい缶の入れ物を渡してくれました。そしてその中にも手紙がありました。そしてその手紙には、僕の部屋の鍵のついた引き出しと書かれ、鍵も入っていました。そして彼の部屋に案内され鍵のついた引き出しを探しました。そして、子供の頃の勉強机に鍵が差し込むところがあり、差し込んでみると鍵が回りました。そしてカチャっと音がしたので開けて見ると、さくら貝の絵合わせが入っていました。同じ絵が二枚ずつあり、一枚一枚確かめて行くと、ある一枚だけ片方がありませんでした。その絵には桜の花と、米と言う文字が書かれていました。他の何枚かの絵合わせを見てみると、それぞれ小舟の絵には丁、山の絵には諾、建物の絵には瑞、時計の絵には英、そして私は気付きました。
「おじさま、何か隠されていませんか?」
「美代どういうことだ?」
「お父さん、これはね、国名なの。おじさん知っていましたよね。彼のこと。何故認めようとしなかったのですか?」
「美代、私にもわかるように説明してくれないか?」
「実はね、彼には私の他に好きな人がいたの。そうですよね?気付かれたのは小さい頃ではないですか?そして今後の将来おこりうることを考えて、私を許婚としたのですよね。」
「すまない。」
「そんなお前、俺の娘を」そう言って父がおじさんの胸倉を掴みましたが、私が止めました。
「待って。相手はアンダーソンさんですよね?」
「アンダーソンって、あのアンダーソン?彼は男…。」
「お父さん、アンダーソンさんに連絡して、彼が無事か確認して。」そして父が連絡を入れましたが、来る予定だったけど、連絡がつかなくなってるとのことでした。
そして、もう一度おじさんに向き直り問い詰めると、美代ちゃんと言い口籠もりましたが、話してくれました。
小さい頃彼はよく男の子と遊んでいたのですが、その彼の視線がある男の子を追っていて、その視線がどうも違っていたようです。そして、奥さんと相談し、小さい内なら矯正できるのではないかと、許婚のことを思い付き、私の父に話を持っていったらしいです。父はそんなことがあるとは思わず、母と相談し本人達も仲が良かったので、許婚となったようです。ですが彼も成人した頃、アメリカの研究者で私達の勤める研究所とも交流があるアンダーソンさんに出会いました。お互いを見たときに惹かれあったようです。私も彼がよく連絡をとりあっているのは知っていました。
ある日、彼は許婚を解消したいとおじさんに言ったそうです。そして、自分はゲイで男性が好きであること。そして、アメリカにいるアンダーソンのところに行き、彼と結婚したいと。けれど、彼の両親は受け入れられませんでした。そして、彼は黙って旅立とうとしましたが、その時、おじさんたちがそれに気づいたそうで、彼を桜の木の下へ閉じ込めたと言っていました。私の父は息子を殺したのか?そう言いましたが、私はそうじゃないと思いました。埋めたと言わなかったからです。そして桜の木の下あたりに、隠し部屋があるのではないですか?そう言うと、美代ちゃんには敵わないなぁと言い、隠し部屋に案内されました。
隠し部屋の扉を開けると、憔悴した彼がいました。そして私の顔を見ると泣き出してしまいました。そして彼にここを出ましょうと声をかけました。そして私は彼を支えるようにして部屋を出ました。
取り敢えず彼を病院に連れていった方がいいのではないかと言っていた時、彼の母が現れました。
「どうして、どうして出したの。」そういうと泣き崩れました。そして私はおばさんに近づき言いました。
彼を認めてあげてくれませんか。彼がゲイであっても、おばさんの息子であることは変わらない。もしこのまま認めてあげなければ、彼を失うことになりかねません。彼を解放してあげてください。そして、おばさんを抱きしめました。
そして彼を今度は父の知り合いのクリニックに電話を入れ、おじさんの車を借りて、私が連れて行きました。
その車の中で彼が話をしてくれました。
自分は許婚だけど、どうしても自分の気持ちを伝えられずにいた。けれど私には旅立つ前にメッセージを残したい。なので、遠回しに自分のことを伝えることにしたようです。そして許婚を解消することになって申し訳ないとも言われました。
私は何となく、彼が私への気持ちがないことには気づいていましたし、私も結婚は考えられなかったので、すんなり、許婚解消を受け入れました。
彼がクリニックで診察を受け点滴を打たれている間、警察への捜索願いのことを思い出し、父に電話を入れました。そして彼の両親に訪ねたところ、捜索願いは出していませんでした。そしてそれを聞いてホッとしました。
そして、その後彼は職場に顔を出し、退職届を出しました。もちろんアメリカに旅立つためです。彼の両親も少しずつ受け入れると言っていました。私の両親は事情が事情なので仕方ないと、まぁ当の本人があっさりしていましたから納得してくれました。
ちなみにさくら貝の絵合わせの謎、皆さんは分かりましたか?絵はその国の景色、漢字は国名です。これは同棲婚が認められている国なんです。でも何故桜が米なのか、それはアンダーソンがいる大学内にある研究所の敷地内に、沢山の桜の木が植えられているんです。だからある意味アンダーソンのことを指しているんですよ。
さあて、今日も研究頑張らないと、そして私は今日も研究所で働いています。
謎ときを書くのは難しいですね、ちゃんとできてるかなぁ。