第九話 お茶会
「取り敢えず自己紹介します。この方はクレイ家の令嬢、クロエお嬢様です」
「はあ」
「そして私がクロエお嬢様の専属メイドのスターチスと申します。以後お見知り置きを」
「ちーす」
拳の握り具合からスターチスさんの怒りが伝わってくる。だが相手の態度が舐め腐ってても表情筋すら動かさないスターチスさんは流石専属メイドだ。
「それじゃ、私も自己紹介しよ」
少女は席を立ち腕を組みながら名乗りを上げた。
「私はエイダ・クリスタル! いずれリアン王子と結ばれる者よ!」
リ、リアン王子? 結ばれる?
自己紹介にしては雑というかやっつけというか...。この適当具合はうちの姉を思い出す。
「エイダさん、あなた今リアン王子と言いましたか?」
「言ったけど…それがどうかしたの?」
「えっとエイダさ」
「クロエさーん! このセルリア・ユーフォリアがお迎えに参りました!」
ドアから飛び込んでくるセルリア。華麗に着地すると素早く立ち上がり俺の前に跪いた。
「こ、こんにちはセルリアさん。何でバク転しながら入ってき」
「クロエさん! 今から僕とカフェテリアでお茶会をしましょう!」
お茶会?
ハイネス学園のカフェテリアでは様々なスイーツや飲み物をタダで注文する事ができる。友達と女子会をするのも良し、お菓子を食べながら勉強するのもよし、スイーツを食べるだけ食べて帰るのもあり。正に貴族達の為に作られたレストランの様だ。
俺達はセルリア主催の入学祝いのお茶会に招待された。
「まあ招待と言っても知り合い同士で話すだけだ」
とセルリアは言っていたが、本心では俺とのワンチャンを狙ってるのだろう。
カフェテリアはかなり混んでいたが既にセルリアの執事らしき人物が席を取っていた。
「という訳でクロエさん。入学おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
お茶会が始まった。セルリアが上品に俺のティーカップに紅茶を注いでくれる。紅茶は湯気をたてながらこの場の雰囲気をオシャレにしてくれる。
そして隣の席のエイダさんにも紅茶を注いでくれたのだが、エイダさんの様子がどこかおかしい。何かを見て唇を震わせているのだ。
目線の先には紅茶を注ぐセルリア。なる程、セルリアに見惚れているのか。セルリアは見た目に関しては羨ましい程のイケメン面を持っている。今更言うことではないが前世はあんなイケメンが良かった。
エイダ・クリスタル、やはり「ファンタジーズ」のパッケージに載っていた女子と瓜二つだ。きっと彼女もスターチスさんと同じ「ファンタジーズ」のキャラだろう。同じ部屋の仲間だから彼女とは仲良くした方がいい。
しかしこの異世界に来てからずっと思っている事がある。
(なんで「ドラコミッション」のキャラが一人も出てこないんだ!)
ここまで出てきたキャラは皆「ファンタジーズ」の登場人物達だ。自分が令嬢に転生したのが原因かもしれないが、そろそろ冒険者ぐらい出てきても良くないか!? 俺その為に転生して来たんだけど!?
(せめて勇者ガイルには会いたいなぁ)
お茶会では特に話す事がなかったので俺は心の中である推測を立てた。
ズバリ時系列に関する推測だ。
まずこの世界について。この世界はおそらく「ドラコミッション」と「ファンタジーズ」が合体した世界なのだろう。だからドラコミッションの国バロウ王国の敷地内にファンタジーズの貴族クレイ家の屋敷があるのだ。
続いてそれぞれの世界の時間軸の話だ。俺はファンタジーズをプレイした事がないから詳しい時間軸はわからないがおそらく既にゲームのオープニングは迎えているのだろう。
理由としてはファンタジーズのストーリーだ。先ほど言った通り俺はファンタジーズをした事がない。だがどんなゲームかは大体パッケージで予想できる。
きっと「ファンタジーズ」は主人公のエイダ・クリスタルが沢山のイケメンとキャッキャうふふするゲームなのだ。
そうなると多分この学園がゲームの舞台で「ファンタジーズ」の物語はもう始まっているって事なんだろう。
そして大切なのは「ドラコミッション」の物語の方だ。ドラコミッションのキャラは一切登場していないのだが時系列はどうなっているのか分かる。
神父によると魔王はまだこの世界には存在していない。つまり俺は魔王が暴れるゲーム本編よりも前の時間軸にいるのだろう。
簡単に書くと
現在 未来
「ファンタジーズ」 ゲーム本編 本編より未来
「ドラコミッション」ゲーム本編より前 ゲーム本編
こうなるだろう。
つまりはドラコミッションの登場人物は本編よりも少し年齢が低いのだ。
まあ冒険者を始めなければ勇者ガイルどころか他の登場人物にも会えないだろう。しばらくは令嬢学園生活を満喫するしかない。
と考えていたらお花を摘みたくなってきた。
「ちょっと失礼します」
前聞いた事があるのだけれど、女性は男性に比べて我慢できる時間が短いらしい。早くトイレに行かなくては。
少し焦っていた。急いで角を曲がると、同じく角を曲がってきた子どもを蹴り飛ばしてしまった。
吹っ飛ぶ子ども。しばらく動かない。
「ぼくごめん! 焦ってたから見えてなかったんだ。本当にごめんね!」
「だ、大丈夫です。大した怪我もしてないですよ」
なんて立派な子どもなのだろう。蹴られて泣くこともしないなんて。見た感じ小学4年生程の身長だ。
「今のは完全に急いでたお兄……お姉さんが悪かったから。
私はクロエって言うの。ぼく、名前は?」
「ガイルです!」
評価といいね、ブックマーク宜しくお願いします!