第五話 かえして
「え……」
「もう一度言います、貴方は誰ですか?」
俺は口を閉じた。彼女も喋ろうとしない。今の二人はもう上司と部下の関係ではない、一人の男として彼女に話さないといけない。
だがいったいどう言えば彼女は納得してくれるだろうか。いや納得などしないはずだ。今の俺は主人を奪った悪人なのだから。沈黙が続く。
「……黙秘ですか。そうですか」
「……」
「では無理矢理聞くしかないようですね」
スターチスはドアに鍵を閉めて何かを取り出した。鋭く尖っているその何かを右手に強く握りしめている。
バッ
「ガハッ」
彼女は俺に飛びかかってきた。説得しようとするが首を絞められて話せない。上に乗られたせいで逃げることもできなくなった。右手に持つそれはナイフだった。少しずつナイフが近づいてくる。
「んぅぅ!」
「逃げようとしても無駄ですよ絶対に逃しませんから」
息が苦しくなる。必死に掴む腕を放そうとさせるが無意味だ。この人俺より何倍も力が強い。向けられたナイフが顔の数センチ前まで近づいてきた。
その時俺は恐怖を感じた。スターチスからは殺意を感じる。まるで今すぐナイフを刺してやりたいような、そんな表情だった。言うことを聞かなければ絶対に殺される。
(息が苦しい……もう無理……)
サッ
「はあゔぁ!……はあゔぁ!」
手を離してくれた。おもいっきり息を吸う。危なかったあと少しで意識がなくなっていた。
「さあ、貴方の本当の名前と正体を教えなさい」
「わ……わかりました。名前は古町謙也……高校生です。帰り道に死んでそれで……」
「嘘じゃないですよね、本当のことを……」
「本当です! 嘘じゃありません! だからもう殴るのは……」
「貴方が本当のことを言ったら殴るのをやめます。では出身は?」
「日本です……日本の神奈川県の……」
「ニホン……そんな国はありません。どういう経路でここに?」
「……死んでその後女神が願いを叶えてくれると言ったのでこの世界に転生しました……」
「……死んだ理由は?」
「トラックに轢かれて……」
「トラック?……ですか」
「では最後に……何故お嬢様に転生したのですか?」
その最後の質問にプツンときた。そうだよ。俺は別に令嬢になんてなりたくなかったんだよ。なのに勝手にクロエさんに転生されて……どうしてこうなったんだよ……。
「理由……そんなのある訳ないでしょ……」
「……どういうことですか?」
「……俺はただ……ドラコミッションの世界に転生させてくれって言ったんだよ! なのに気づいたら令嬢なんかに転生させられて……。俺はただ生きたかっただけだよ!」
溜まった怒りをスターチスにぶつけた。すると彼女は俺に向けていた殺意を消していた。
「俺は別にこうなったことを望んでいない……この人をどうかしようとも思っていない……ホントだよ」
「……信じていいんですね?」
「信じてください……俺は別にあなた達に危害を加える気なんてないんです」
彼女はナイフを捨てた。俺を抑えるのをやめて正座になった。
「少し昔話をしますね」
「……」
「黙ってもらっても結構です。私には兄がいました」
「父が死んで、残された母も病気で動けませんでした。それでも私と兄は力を合わせて畑仕事をこなしていました」
「そんなある時」
「兄の様子がおかしくなったのです。『やったー異世界だ』とか『すげぇモンスターがいるぞ』とか、当たり前のことにいちいち反応していました。その時、ドリルウルフが畑の前に現れました」
「私は狼達に襲われそうになりました。ですがその時に兄が魔法を詠唱して倒したのです。もちろん兄は魔法が唱えれるほどの魔力はありません。それなのに兄は風魔法を使い狼達をバラバラにしたのです。聞いてみると兄はチート能力だと言って自慢げにしていました」
「まるで別人のようでした。大人しげな兄がギルドで冒険者になると言い始めた時は私も抵抗しました。それでも兄は私と母を見捨てて家を出て行きました」
「……」
「結局薬代も稼げなくなり母は死にました。私は気づきました。アイツは兄ではなく誰かが兄を操っているんだと。そして今日また大切な人が別人になりました」
「……俺のことですね」
「……お嬢様はワガママですけど約束は守る人です、私がプレゼントしたティーカップは大切に使うと約束してくれました」
「……!」
「ですから……お嬢様をかえしてください……。元のワガママで乱暴でそれでも義理堅い私の主人をかえしてください……」
彼女は土下座をして俺に頼み込んだ。俺はどうすればいいか分からない。だが俺にだって家族がいる。スターチスさんの気持ちがよくわかる。それならどうすればいいか決められるはずだ。
「今どうすればいいかはわかりません。俺が身体から出る方法も」
「そうですか……」
「それでも約束します。必ずクロエさんを身体に戻すと!」
俺は彼女の手を握った。
スターチスさんは泣き出した。夜に浮かぶ月のように静かに。
「……お願いします……」
プロローグはこれで終了です......
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