第二話 夢叶わず
「なんじゃこりゃぁ〜!!」
本当に訳がわからない。てっきり男に転生すると考えてたし、なんならベイビーから人生やり直しかと思っていた。
だが鏡に写っているのは前世の古町謙也と同い年ぐらいの美少女だった。もちろんベイビーではないしモブ顔で癖っ毛だった俺とは真逆の赤髪でサラサラのロングヘアーだ。
「嘘だぁ!こうなるんだったら女神に注文しとけばよかった!青髪で高身長なイケメンがよかった〜!」
「好みの男性の話ですか? お嬢様」
「うわっと! どちら様!?」
一人のメイドさんがドアを開けていた。
「お忘れですか?貴方の専属メイドのスターチスですか?」
(スターチス? この人何処かで見たような気が……)
その時、前世の記憶を読み返す。そして正体がわかった。この人はファンタジーズのパッケージに載っていたあの黒髪のメイドだと。
「あ〜あの時の!」
「あの時というか毎日屋敷にいるのですが」
あはは〜そうだっけ〜と目を背けて誤魔化す。
よく見てみると今の俺の顔もパッケージに載っていた女の子の顔だ。ん?ちょっと待て、この人が目の前にいるということは!それすなわち!
「スターチスさん! この世界にバロウ王国はありますか!」
緊張が走る。今俺が言った国名はドラコミッションの大国で勇者ガイルの祖国だ。もしそんな国ないと言われたら、ここは確実にファンタジーズの世界だと決まってしまう。
「何を言ってるですか? ここはバロウ王国の領域内ですよ」
「あっそうなんですか?」
「それよりどうしたんですか?唐突に私に敬語だなんて」
「いやぁあのその……」
ハァ
「まあ良いですよ、それより朝食の時間ですよ」
「あはい、分かりました」
怒涛の展開だったが少しこの世界を理解できた。俺はバロウ王国のどこかの貴族の令嬢に転生したらしい。
(だが落ち着け! 古町謙也! 令嬢になったからってなんだって言うんだ! まだ冒険者の道はまだ終わっていない!)
「冒険者なんて危険な仕事お前にさせる訳ないだろ!」
はい、夢は終わりました。たった今新しいお父さんに拒否されました。お父さんの名前はカール・クレイ。ムキムキで目に眼帯を付けているイケオジだ。見た目的にこの人のほうが危険だと思うけど……。
「お前は冒険者を経験したことが無いからそんなことが言えるんだ。絶対に冒険者になることは認めない」
(この人も元冒険者なんだ。やっぱりこの世界にも冒険者はあるんだな)
「私も賛成です旦那様。クロエお嬢様は魔法学を全然学ぼうとしてませんし体力もかなり酷いです。せめて二十歳になってようやくギルドへの申請を考えるぐらいですね」
スターチスさんにボコボコに悪口を言われてしまった。でも悪口を言われてるのはクロエ・クレイのほうだから嫌な気分にはならない。
結局朝食はそのまま終わってしまった。カールお父さんは朝食を終えると仕事部屋に入っていった。
自分の部屋に戻ったが暇で仕方がない。鏡でクロエ・クレイを見ていると一つの疑問が頭に浮かぶ。
(俺がこの身体に転生したってことは元の精神であるクロエ・クレイの精神はどうなったのだろう)
もしかしてクロエ・クレイの精神は消えてしまったのだろうか?だとしたら気分が悪くなる。クロエさんに申し訳なくなってしまう。
(クロエ・クレイさん、どうか呪わないでください)
鏡にたいしてパンッパンッと手を叩いて手をこする。ナムアミダブツナムアミダブツ。
(まぁこれで気分も紛れるだろ。あまり考えないほうがいいな。それとまた気になることがあるんだよな)
俺は異世界でおなじみのことを沢山やってみた。適当に魔法を唱えてみたが何もなし。剣は重くて振り回せないし。そしてこんな行動が功を奏した。
随分前に異世界ものの小説を読んだ。その時に主人公は自分のステータスを確認できていた。空中にポンと表示されて周りの人には見えない設定だった。ステータスを見る方法は確か……。
「ステータスオープン!」
ブゥンッ
でたー!! まさか本当にステータスが見れるなんて。とにもかくにも初めて異世界っぽいことができてとても嬉しい!ステータスを確認してみる。
クロエ・クレイ 種族人間
Lv1
知力5
体力2
魔力8
瞬発力5
スキル
ファイアバール
特異スキル
RPGシステム
恋愛システム
色々突っ込みたいが気になるのは俺のスキルだ。俺はファイアバールというスキルを知っている。ドラコミッションの初級魔法で炎をバールのように長い棒にして叩く物理技だ。なんでこの魔法をファンタジーズの住人のクロエが持っているんだ?
さらに気になるのが特異スキル? というもの。よく異世界に来た人間にはチートスキルが貰えるがそういう類なのだろうか? どうしても気になったのでRPGシステムというスキルを試しに唱えてみた。
「RPGシステム!」
「……」
何も起こらない。なにか条件が必要なのだろうか?それとももうなにか作動しているのだろうか?そう思いながら紅茶が入っているティーカップに触れた。その時。
テンテンテンテテーン
愉快なBGMと共に俺の周りが全てドットになってしまった。タンスもベッドも絵画もカクカクの四角に。そして
「ティーカップがあらわれた!」
という字幕が下に出てきた。前にはドットになったティーカップがある。ティーカップの上にはHPと思われる1/1という数字が出ている。そして俺の前には「こうげき」「スキル」「アイテム」「にげる」という文字が浮き出てきた。
このドットにこのバトルシステム、これはドラコミッションの戦闘システムに似ている。
そして困惑していたのもありうっかりこうげきの文字に触れてしまった。すると、ティーカップに攻撃エフェクトが加わり1/1が0/1になった。ティーカップは消えて「バトルに勝った!」という字幕が出てくる。
シュン
「!? 戻った!?」
気がつくと周りがドットから元の部屋に戻っていた。パリンッという音が後ろから聞こえた。ティーカップに目を向けると背筋が凍った。ティーカップがバラバラに砕けていたのだ。
(もしかして俺が「こうげき」を押したから……)
このおかしな状況のせいで謙也は最悪で嫌な想像をしてしまう。
(もしこれが物ではなく人だったとしたら……)
その時ドアが開く。
「お嬢様大丈夫ですか!? 何かが割れる音がしたので……」
(スターチスさん!今俺に近づいちゃダメだ!)
ご愛読ありがとうございます
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