第一話 英雄は令嬢に
財布とマイバッグを握りしめ俺はゲームショップに入る。
ピッ
「はい合計8045円です。ありがとうございました」
(ついに今日発売の新作「ドラコミッションⅡ」が買えたぞ!)
コイツのために俺は期末テストの赤点回避を頑張ったんだ。俺はうかれた気持ちでマイバッグにパッケージを入れる。そしてもう一つ姉に頼まれて買ったゲームも中に入れた。
姉が欲しいと言ったゲームは恋愛シュミレーションゲーム「ファンタジーズ」。俺がよく買うRPGゲームとは真逆の存在だ。
電車の中でドラコミッションⅡをバックの中から覗く。パッケージには凶暴なボーンドラゴンと対比して4人の勇者達が描かれている。
一方ファンタジーズには3人のイケメンと1人の主人公と思われる金髪の女の子、その後ろに黒髪のメイドが。そしてその主人公を睨んでいる赤髪の女の子も載っている。コイツがよく聞く悪役令嬢ていうやつか。
(こういう恋愛ゲームは好きじゃないな〜。きっと俺とは一生縁のないゲームなんだろうな)
そう思いながら横断歩道の前でぼーっとしていた。その時。
キキィ
「子供が轢かれるぞ!」
男の野太い声がする。前を見ると子供がトラックに轢かれそうだった。子供が急に歩道を飛び出したせいでトラックは止まれない。現場の近くにいるのは俺だけだ。
(今あの子を救えるのは俺だけだ……)
そう思った時、俺は子供の方に突っ込んだ。
ドンッ
子供は向こうの歩道まで吹っ飛んだお陰で助かった。しかし、
(あ……これ俺が轢かれるんじゃ)
そこから俺は意識を失った。
轢かれた時、二つのパッケージがマイバッグから溢れ出して道路に転がった。奇跡なのかは分からないがその時落ちた「ドラコミッションⅡ」と「ファンタジーズ」は二重に重なった。
気がつくと不思議な空間にいた。自分の手が見えないほどには暗く床はコンクリートのように硬かった。
訳がわからず慌てていると後ろから光が差し込んでくる。
「素晴らしい行動でしたよ、古町謙也」
後ろを向くと白髪の美人さんが俺に語りかけていた。
「私に会えたということは貴方は善良な人間と言うことです」
「えっと……あなたは?」
その美人さんは自慢げに教えてくれた。
「私は女神ハリアー、死んでしまった貴方を管理するためにここに来ました」
ようやく理解した。俺死んじゃったんだ。普通トラックに轢かれて生きてるなんてそうそう無いしこんな空間にいるのも納得だわ。
「そんなぁ、俺まだ高校生なのに死んじゃったか〜」
家族にも友達にも会えないのはとても悔しいことだ。何より残った人生60年分がパァになってしまった事も辛い。
「あ! 子供はどうなったんですか?」
もしあの子が生きてないと俺は本当に絶望してしまう。
「そう私はその件で貴方を呼んだのです」
「はい?」
「実は貴方が助けたあの子供、将来人類を救う存在だったのです」
「そうだったんですか!?」
「彼は見ず知らずの自分を助けた貴方に感銘を受け自分も人を救えるようにと医学部に入ります。そして生涯を立派な医者として終える事になります。それすなわち!」
「貴方は実質何千人もの命を救った事になるのです!」
あまりの衝撃に動けなくなったがそれと同時に涙が出てきた。
「俺の死は無駄じゃなかったんですね……」
唐突だが俺は憧れの英雄になれたのだ。ドラコミッションの勇者のように。多くの人を救えたなら自分の死にも納得できる。
(これで納得して天国に行け……)
「貴方は特に人を傷つける事もしていません。よって、
貴方には天国どころか我々女神に願いを頼めるほどの立場にあるのです」
「!? 今なんて言いました!?」
女神が手を広げると後ろの光がさらに眩しくなる。
「叶えてあげましょう!貴方の願いごとを一つだけ!」
「じゃあ生き返らせて」
「あっそれはダメです。もう魂が肉体から完全に離脱しているので」
ガックシと肩を落とす。
(ん? 待てよ? どんな願いも?)
女神に負けじと俺は立ち上がりカッコつけながら女神に言う。
「それじゃあ俺をゲームの世界に転生させてください!」
「オッケーです。転生ですね」
「あっいいんですか?」
あっさりと承諾されたので困惑してしまった。女神が
何かの準備をしている。
だが今は喜ぶべきなのである。憧れの転生しかも俺が千時間やり込んだドラコミッションの世界に行けるんだ!
それにしても転生か〜。夢にまで見た事だから浮かれてしまうな〜。まずは主人公の勇者ガイルに会いたいな〜。それとギルドで冒険者やって〜。パーティとか組めるのかな〜。
「貴方が轢かれた時持っていたゲームでいいですね?」
「はいそれでいいです〜」
浮かれていたせいでよく聞いてなかったけどきっとドラコミッションのことだろう。
色んな妄想を続けている謙也だが女神様はある二択を迫られていた。
(いったいどっちのゲームを選べばいいのかしら?)
謙也が買ったゲームはドラコミッションⅡだけではない。恋愛シュミレーションゲーム「ファンタジーズ」もその中に含まれる。正解が選ばれる確率は50%。本来ならまだ賭けに勝つ可能性もあった。しかしこの女神最悪な選択肢を選んでしまう。
(きっと両方とも好きなゲームなのね!ならこの二つの世界を合体させればいいんだわ!)
女神はポチポチと世界を想像していく。二つのゲームの要素を組み合わせて一つの異世界が完成する。
俺の後ろに真っ黒なゲートができる。
「できましたよ。このゲートを通れば貴方が大好きなゲームの世界に行けます」
「ホントですか!女神様、ありがとうございました!」
「いえいえ。次の人生では死なないように気をつけてくださいね」
ニヤッ
「残念ですけど俺は冒険者になるのでその約束は出来ませんね〜!」
「冒険者?」
謙也はそう言い残すとスキップをしながらゲートの奥に進んで行く。そして姿が見えなくなる程まで行ってしまった。
「……もしかして選択ミスしちゃった?」
目が覚めると王族が使うようなベットにいた。
(もしかして俺貴族に転生しちゃった?まあ魔法使いノイズも元貴族だったしなんとかなるだろ)
起き上がる時に服に違和感を感じた。この服異世界物で見た気がする。上から下まで布団のように覆い被さってて腕にシュシュがついてるアレだ。アレを俺が着ている。こういう服って令嬢とかが着るもんじゃ……!?
すぐさま近くにあった化粧台で顔を見る。
そこには赤髪のクールな顔をした美人が目と口を見開いていた。
明らかに古町謙也とは違う1人の女の子だった。
「なんじゃこりゃぁ〜!!」
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