矛盾ネセサリー
グロイ表現が苦手な方は御注意下さい
深夜0時過ぎ。人の家に訪れるにはあまりにも非常識な時間帯。
ビーとくぐもったインターホンが静まり返った室内に響いた。
私はゆっくりとベットから降り、玄関のドアを開ける。
普通の客ではないだろう、こんな夜中に。
ドアを開けた瞬間、向こうに居る者の手で殺されるかもしれない。そういう想像は容易に出来た。
だが、それでも別にいい。特別生に執着しているわけでもないし、何かこの世に思い入れがあるわけでもないのだから。
しかし、ドアの向こうに立っていたのは、所々破けた灰色の長袖のシャツを着ている血だらけの背の高い女性。
季節関係なく一年中吊している風鈴が、風もないのにリンと鳴った。
「助けて欲しい」
「え?」
紅を引いたように真っ赤な唇を少し開いた後、力尽きたのか彼女は私の肩にもたれ掛かり気を失った。
「ちょ、ちょっとー」
確かに普通の客ではない。
しかしこれはー。
「私を殺しに来た殺人鬼よりたちが悪いのかもしれない」
小さく溜息を吐き、戸惑いつつも私は玄関のドアを閉めた。
#
「国民の皆様お早うございます。只今午前8時です」
町毎に設置してあるスピーカーがお決まりの言葉を発するのが聞こえた。
ゆっくりと頭を持ち上げ、上半身を起こす。
結局昨夜は、一睡も出来なかった。
私は今自分の部屋の床の上に居る。非常識な客はベットでこの家の住民が床だというのも可笑しな話だ。
隣のベットには、昨夜の女性が眠っている。
しかも、私はこの人物に見覚えがあった。
少し長いプラチナブロンドの髪。雪の様に真っ白な肌。長い睫毛。スッと通っている鼻筋。薔薇のように毒々しい唇。
全てが作り物のようだ。
この世の者には思えないその風貌を見間違える筈がない。そして、更に決定づけるのが左下の羽が欠けた揚羽蝶のネックレス。
確かにあの時ー。
「んー」
その時、彼女がゆっくりと瞼を上げた。