忘れえぬ過去⑤
「相手は3人だけか? しかも子供。他には見かけなかったか。」
傷を追った部下たちに指揮官は問いかける。しかし、3人の子供以外には何も見ていないと彼らは口を揃えて言う。
「なんてことだ。たかが子供にここまでやられるのか」
「流石にこの環境で生き抜いてきただけのことはある。侮った我らの負けだな」
死人こそ出てないものの重症者を多数出したことに苛立つ指揮官を同行していた老人がなだめる。
「しかし、子供相手にこの体たらく、どう言い訳したものか」
「文字通り死ぬ気で戦う者と軽い気持ちで対峙した者との差じゃな。しかし、殺す気であっただろうにこの程度の手傷しか負わせられんあたりは子供だなとおもえる。うちの衛生兵が優秀だということもあるだろうが」
「そういうものですか、で、この後は?」
「ワシにまかせてはもらえんだろうか。なんとか説得してみる」
「大丈夫ですか。彼らは完全にこっちを敵だと思っているでしょう」
「だからだ。大人数で行ったらかえって逆効果だ。君らはここで待機だ」
「わかりました。導師、お気を付けて」
「吉報を待っておれ」
導師と呼ばれたその老人は指揮官に背を向けて森へと入っていく。
「わし一人しかおらん。少し話をしないか」
そう問いかけてみるが返事はない。
「そう簡単にはいかんか」
導師はさらに歩みを進める。
「なるほど。よくできている。手こずるはずじゃ」
あちこちに仕掛けられた罠を簡単に突破して導師はさらに奥へと入っていく。
「何なんだよ。どうなっているんだ。どうしたらいい」
「こっちが聞きたいよ。なんであんな簡単に突破できるんだ」
会心の出来だと自負していた罠を簡単に突破され明らかに動揺する3人。
「こうなったら……」
焦りの表情を浮かべたアレンを見たグージェスは直接攻撃を仕掛けようと導師に背後から接近する。
「やっと出てきよったか」
背後をとっていたはずのグージェスはまさか自分が背後をとられているとは思っていなかったため、後ろから聞こえてきたその声に驚いて思わず尻もちをついてしまった。
「なぜワシがここにいるのか……、知りたいか? だったら話を聞け」
グージェスは混乱した。なぜ? なにがどうなっている。
「やれやれ。やはりまだ子供だな。想定外のことが起きたときの対応がまったくできておらん。おい、まずは落ち着け」
導師は声を掛けるがグージェスの耳には届かない。
「まずい、殺られる。俺のせいだ」
「いまさらなにを言っているの。早くいかなきゃ。死ぬときは一緒だと決めていたでしょう。あの子だけ先に逝かせちゃだめよ」
アレンとヴァネッサは尻もちをついたままその場を動けずにいるグージェスを守るように導師の前に立ちはだかる。
「仲間を見捨てることなく現れよったか。なかなか見どころがあるな。まあ、落ち着いてワシの話を聞け。わるいようにはせん」
こう言って導師は子供たちの前で話を始めるのだった。