忘れ得ぬ過去②
あれからまた月日はさらに過ぎていく。助けはまだ来ない。生き残った三人はもはやいつ来るかわからない救助をあてにはしてなかった。
「あそこにいる。射程内におびきだそう」
生き残ったものうちの一人、知略にすぐれたアレンが獲物を獲るための作戦を提案する。
「どうすればいい」
「簡単なことだ。お前が囮になってここまでつれてくればいいだけだ」
「わかった。行ってくる」
「待て、言い出しっぺの俺が言うのもなんだがおまえはそれで良いのか。むちゃむちゃ危険だぞ」
「お前、言ったよね。それぞれがそれぞれの役割を果たせば生き残れると。俺にやれることはこれだけだから」
「だからって細かいことを聞かずに引き受けるなんて」
「俺は頭悪いからごちゃごちゃ言われても理解できないんだよ。とりあえず自分の役割を果たしてくるからあとはそっちでやっておいて」
そう言って彼、後の賢者グージェスは何の躊躇もなく獲物の前に立つ。
「まったく。あの子、恐怖心ってものがないのかしら」
あきれたように呟いたのは武器や生活道具の製作に優れた能力を発揮するヴァネッサ、そう言いながらも視線は獲物から外さない。
やがて獲物は目の前にいるグージェスを喰らわんと追いかけはじめる。グージェスは獲物との微妙な距離をはかりながらかなり大きな弓を構えるヴァネッサの前に獲物をおびきだす。
射程内に入ったことを確認したグージェスは弓が放たれるギリギリのタイミングで獲物の視線からはずれるように自らの体を地面と一体化させる。
ヴァネッサから放たれた矢はまっすぐに獲物の頭部に突き刺さる。
「あなた、狙いやすいようにまっすぐにギリギリまで誘導したのね。そこまでしなくてもいいのに。射程内に入れば狙いをつけるぐらいこっちでできるのに」
腕には自信のある彼女だからここまでお膳立てしてくれなくてもいいと言いたかったのだろう。だけどグージェスは確実に仕留められるようにしておきたかった。
「私達に出会うまえからこんなことしてたの。こんな危険なことしてよく生き残ってこれたわねえ」
あきれたように彼女は言う。だけど知力も器用さもなく力もない彼は危険を犯してでも強者の隙をつくことでしか生き残れなかった。が、器用さも技もある彼女にとっては彼の生き方は危なっかしく見えた。
一方でアレンは彼らの身体能力の高さと恐怖心のなさをかっていた。自らを強大な獲物にさらすことを厭わない彼の精神力を充分に生かした作戦を立てていた。こうした三人の能力を生かしあい彼らはこの厳しい環境を生き抜いていく。そうしてあの悪夢のような出来事から一年が過ぎようとしていた。そしてこんな生活は終わりを告げる。当初あれほど待ち望んでいた救援がようやくやって来たのだった。