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序章②

「こうなることを見越して色々と策を示したはずですが?」

「我々は賢者様の示した策に従い用水路と水を汲み上げるための装置の建設を行い、しかも取水制限も守っている。言いがかりをつけられる覚えはないのだが」

上流側は自分たちに非はないと訴える。

「何を言っている。そもそも全体の量か少ないのに制限内だからととりまくっているほうが悪い。もっと気を使ってほしい」

下流側も全く引く気はない。

「私見を申し上げるなら上流側に非はないように思えますね。私の言うとおりのことを行い、約束を違えることもない、問題はありませんね」

「それでは」

「そうです。この件は下流側の怠慢に責任があると考えます。私の名を以て責任を取らせます。もう帰ってもらって結構です。そういうことでよろしいですね。領主様」

賢者は騒ぎを聞きつけ駆けつけた領主に対し下流側にこの騒ぎの責任を取らすと宣告する。

「賢者様がそうおっしゃるのであれば従います。ただし、この領地の揉め事は私の責任でもあります。私めに何なりと申し付けください」

この領主、こうやってすぐに駆けつけるあたり腰が軽い。こういうことを臆面もなく言うあたりかなりの善人でありおおよそ領主らしくない。

「 いいんですか、そんなこと言って。領主の言葉とは思えませんね」

「いいんです。領民のために尽くすのが領主の務めですから」

賢者は思う。こういう領主もいるんだなと。

「苦労しますよ。そんな考えでは」

「よく言われます。それでも上にたつならそれも当然です」

「貴方がた、こんな領主のもとで暮らせることを幸せに思いなさい。こんな人めったにいませんよ。ついでに言うなら貴方がたは甘えすぎなんです」

賢者は領主の言葉を聞いて下流側の領民たちに説教を始める。

「私はこんな状況になった時に備えて策を提案しました。上流側には水を引き込む用水路と汲み上げ装置の設置、下流側には貯水地の設置を。上流側はそれに従いすぐに実行しました。ところがあなた方はどうですか? 何の手も打っていない。それでこの騒ぎ。自業自得だと思いませんか?」

「策は授かりましたが誰も実行できなかったんです」

「方法も道具も用意しましたよね? 上流側はそれで自分たちで完成させましたよ。要はやる気の問題ですよ。上流側は山間部で平地が少ない。いかに効率よく収穫をあげることを常に考えている。だからいいと思えばすぐに実行する。あなた方はどうですか? 恵まれた環境で誰かがやってくれると思っているから誰も動かない。違いますか?」

「それがどうした。やってもらって何が悪い。しのごの言わずに賢者様がやってくれればよかったんだ」

一斉に抗議の声をあげる下流側の領民たち。

「本当に困った人たちだ。それを私やその誰かにやってもらったところで次にこんな問題が起きたらどうするんですか? いつまでもいるわけではないんですよ。自分たちでやらないと次にこんな問題が起きた時にまた同じようなことになりますよ。自分たちできるようにならないといつまでたっても解決できない。それがわからないのですか?」

そう言われて領民たちはようやく理解した。問題が起きた時、そこに解決できる人材がいるとは限らない。

「全くその通りです。私の不徳の致すところであります」

頭を下げる領主、賢者は思う。人間は反省できる生き物である。この領主のもと、このことをふまえてこれからはしっかりとやってくれるだろう。

賢者はそう期待して宿舎へと帰還するのだった

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