募る不信感
生まれ育った故郷、今はもう不毛の大地となった場所、しかしかろうじて残った森林地帯から彼らは旅立った。
初めて乗った馬車に揺られてはじめは緊張した面持ちで流れていく景色を眺めていた三人であったが単調な、同じようなリズムを刻む揺れにやがて意識を失いゆっくりと眠りにつく。
その様子を孫を見るような目で見つめる導師
「こうして見る限りはどこにでもいるような子供なんですけどね」
「だが、彼らは絶対に経験させてはいけないことを経験してしまった。これがどう影響するか……」
導師はこれからのことを思案する。と、馬車が急停止する。
その衝撃で子どもたちは目を覚ます。
「なに、なに?」
状況を飲み込めない彼らを余所に大人たちは行動を起こす。
「見えないところでやってくれないか。子どもたちに見せたくない」
「了解です。聞いたな。できるだけ離れて行動するように」
これから起こることを察した導師の意図を理解したリーダーはそう部下に指示をだす。
「心配ない。寝ていればいい。次に目を覚ましたときには街に着いている」
不安がる子どもたちに催眠術をかけ彼らを再び眠りへと誘う。
やがて言い争う声が聞こえたかと思うと激しい音が鳴り響いたがそれも数分で収まる。
「終わったとはいえまだまだ政情不安は続いてますね。彼らには見せたくないと言うのは理解できますが……。少なくとも正しい情報は必要なのでは」
「それは今は必要ない。少なくとも心がおちつくまではな」
そう、彼らは襲撃されたのだ。戦争は終わったとはいえ、人々の気持ちはそう簡単には変わらない。またまだわだかまりは残っている。政府関係者だということで襲われることも多々ある。
そういう状況にあることを知られたくはなかった。そう思う導師の思いは3人には伝わらなかった。眠らせたはずの彼等は二人の会話をしっかりと聞いていたのだった。