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旅立ちの日

夜は明けた。何やら騒がしい。3人はそんな騒がしさに眠りを邪魔されるように目を覚ました。

「起きたか?」

三人を見つけた導師は優しく声をかける。

「何をしているの?」

騒がしさの原因になっている人々の声があちこちに響いている。

「どうせやるなら盛大にってな。その準備だ」

「ここまでしなくても……」

「何を言う。これは君たちの旅立ちを、未来を祈る大事な儀式でもあるのだ。同時にここを復興させるための決意を伝えるためにもな」

困惑する彼らに導師は遠くを見つめそう言った。

「うぅ……。これはひどい、これほどとは」

要請を請けて派遣されてきた係官は現場を見るなり思わず目を背ける。

「君ほどのものでもこの惨状は直視できないか」

「私も幾度となく遺体処理に携わってきましたがこれほどのものは……」

「しかし、やってもらわなければ。そういう経験があるから君が呼ばれたのだよ」

「わかっています。すぐに取りかかります」

それでももはや人間であったとは思えないほど腐敗した遺体の処理に取り掛かる彼はやはりプロであった。

急ごしらえではあるが祭壇が作られ係官によって棺に納められた遺体が並べられる。

「遅きに失する。が、せめての罪滅ぼしに彼らがこれ以上の苦しみを味わうことのないよう丁重に葬らせていただく。この子達の願ったことを実行させてもらいたい」

「了解した。私も今回のことについては胸を痛めていた。この子たちが生きていてくれたことがせめてもの救いだ」

導師は派遣されてきた神官の長と話をしていた。そこに真新しい礼服に身を包んだ三人がやってきた。

「辛いにあわせてしまった。だが生きていてくれてよかった」

神官は涙を浮かべながら3人に声を掛ける。だが3人にはなんの感情も浮かばなかった。彼らが望んでいたのはこういうことではなかった。ただこの時を待てずに死んでいったかつての仲間たちを弔って欲しかっただけなのだ。事態は彼らの望みをよそに大人たちの勝手な思い込みによって思わぬ方向に進んでいく。


やがて準備が終わり法要が営なわれる。かろうじて覚えていた犠牲者の名前が読み上げられていくがこれがすべてではない。

ほとんどの遺体が個人を特定できるものではなき腐敗の他、食いちぎられたあともあり、まともな状態で棺に収められた者は何一つなかった。法要は終わり棺は荼毘に付された。彼らはようやく本当の死を迎えることができたのだった。

同時にそれは別れを意味していた。3人の子どもたちは旅立ったであろう空に向かい心のなかで呟いた。

「さよならだけど。さよならだけど。俺たちはきっとまたここに帰ってくる。だから……、みんな待っててくれ」


「さあ、行こうか」

導師に促されて彼らは生まれて初めて生まれ故郷を後にする。後ろを振り返ることはしない。ただ今この景色を記憶に刻み込もうと景色だけを見ていた。そんな彼らにまとわりつくように優しい風が吹きつける。そして彼らは確かに聞いた

「行ってらっしゃい」

という声を

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