case.1 歪んだ愛と呪いの欠片③
教室での一悶着をそのままに、美咲を強引に連れ出す。
階段の踊り場で息を切らせて立ち止まり、背後から生首が並べられているかのように覗き見をするクラスメートの視線を浴びながら会話を切り出す。
「《頼むから、僕に関わるな》」
「え?何でです?」
あっけらかんと首を傾げる美咲。
それが生物であったならば、有無を言わせず従わせる能力が何故か彼女には効果がない。
それどころか、彼女は他の人と違う点がもう1つあった。
「どうして僕なんかに構うんだ?ですか?」
「ーーーッ!」
ギョッ!っと目を見開く安藤。
何度か目の当たりにしているが、彼女は比喩抜きで他人の心の中の声を可視化することができるのだという。
「ふっふっふ。私こそ『心眼の魔女』。あらゆる謎を解き明かすものです」
凹凸のハッキリした胸をこれでもかと主張させる美咲。
見た目だけならば間違いなく芸能人やトップアイドル級だが、それを全て帳消しにできる程の残念な言動から『残念系美少女』のアダ名を手にいれている。
「で?その魔女さまが僕に構うのは何でだ?」
「前から言ってるんですけど、、、あぁーなるほど、私みたいな美少女を前にしてるから話が入ってきてないんですね、それは仕方ないです」
「自分で言ってて恥ずかしくないのか?」
「いえいえ、自分の長所はむしろ誉めるべきです。むしろ私のダメな部分を探して欲しいくらいですよ」
そういうとこだよ。と言おうとして飲み込んだ安藤だが、どのみち心が読まれているので話を切る。
「助手、だったっけ?」
「はい!安藤さん、あなたに私のパートナーになって欲しいのです!」
堂々と、まるで愛の告白でもするかのような言葉。
背後で覗き見をしていたクラスメート達の色めき立った声が嫌でも耳に届く。美咲の言葉に対する返事は、きっとどんな感染症よりも早く学校内に伝染し、発祥元への好奇心で埋もれる。
安藤は一度、大きくため息を漏らす。
(美咲さん、聞こえてる?)
「はい!」
(声に出さなくていいから、とりあえずこの場から恥ずかしそうに去ってくれる?助手の話は考えとくから、あ、このまま静かにだよ)
「はい!分かりました!」
ガクッ!とうなだれる安藤を尻目に、美咲は「恥ずかしそうに、恥ずかしそうに」とブツブツ言いながら自分の教室に戻る。
彼女が見えなくなった頃合いを見計らい、安藤も教室へ戻ろうとすると教室の扉の前でヒソヒソとこちらを見てくるクラスメート。
聞きたい欲求があるにも関わらず聞きに来れないのは、普段の安藤の態度からだろう。
「ねぇねぇ」
そんな中で、空気をある意味読んだ1人が声をかけてくる。
「安藤くんと美咲さんって付き合ってるの?」
そんな彼女に触発されたのか津波のように安藤の席を取り囲むクラスメート。
そして矢継ぎ早に飛んでくる質問の嵐。
先程の交際関係を疑うものならまだしも、男性に興味があるのかと思ってた!や、人と話すの嫌なのかと思ってたなどと色んな意味で恐怖を与えていたようだ。
交際関係を否定し、あくまで絡まれているだけだと説明し、その他の質問も丁寧に返していくとクラスメートに抱かれていた印象は幾分良くなっていく。
「これからも絡んでいいかな?あ、ダル絡みとかはなるべくしないからさ」
「僕の方こそよろしく。いままでとは違う土地で緊張してたんだよ」
「うん」
もっともらしい理由を並べたところで、担当教師が入ってくる。
安藤とて、別に友人作りをしたくないわけではない。過去のトラウマが無意識にそれを避けていたのだ。
上の空で進んでいく授業を聞き流し、時計の針が進んでいく。