case.1 歪んだ愛と呪いの欠片②
口は災いの元。
それはどんなに小さく呟き、どんなにわずかだったとしても意思を持って発してしまった言葉は現実のものとなる。
魅力的に映る代物だが悪意を持ってしまえば凶器へと変貌する代物。
それが例え冗談で言った言葉でさえも、ほんの少しでも意思が混ざってしまっただけで無差別に作動してしまう。人の命すら簡単に奪えてしまう言葉の刃だ。
「《僕なんて消えてしまえばいいのに》」
学校でかなりの人気を誇る化学教師のドライアイス実験で歓喜の声が上がるなか、ボソッ!と誰にも聞こえないような小さな声で発せられたその言葉は霧散した。
『ある事件』をきっかけに、能力の消滅を願い発したが効果を発揮しなかった。自身の消滅で元を絶とうとしたが、それは許されず後戻りは出来ないとでも語るように強烈なトラウマを脳裏に残す。
この能力は命あるものにしか作用しないのだ。
もちろん、こんな摩訶不思議な発言を信じるような大人はおらず、当時原因不明の幼児消滅事件として一時期世間を賑わせたが、不可解な点が多すぎるのと現場にいたのが消滅したのが同じ年の少年少女と教師だけだったこともあり、未解決事件として終息した。
しかし、ネットが普及したこの現代で完全に火種を消すことは出来ず、いまもなお面白半分で考察を続ける人物達がいるくらいには燻っている。
犯人が安藤だということに気づいている人物がクラスの中にいた可能性もないわけではないが、それでも逮捕に至ってないのは『子供の証言』と『ありえない現象』の2点が大きな原因だ。
警察の目には、発想力豊かな子供が安藤の発言の直後にクラスメートが消滅したなどと妄言を発しているようにしか写らなかったのだろう。
「安藤さーん!どこですかー!」
教室の扉を開け、元気が服を着たような少女が侵入してくる。
「相変わらず、一人ぼっちだから探すのが簡単で助かります」
「あのさー、美咲さん?だっけ?いちいち大声で教室に呼び出しに来るの止めてくれない?」
「なるほど、分かりました」
何かを納得したようにウンウンと頷き、安藤の耳元に口を寄せる美咲。
「あのですねぇ」
「ひゃぁ!!!」
思わず、安藤本人も出したとがないような声が教室に響き渡る。
「何すんだよ!」
「え?だって大声での呼び出しがダメだとの事だったので、クラスの方々に迷惑かけないように、耳元で小さく喋ろうかと」
「どうしてそうなる!?」