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三国義志風雲録  作者: 栃綿棒鍬瀬郎
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第五話 内海平定に舵をきれ

 我孫子城には城代として劉備前守がなったが、甘寧太郎は特に不服はない。

 というのも元から甘寧太郎は、我孫子城を襲った理由が特になく、城主の我孫子某の家中がイカサマ賭博をし、弟分をコケにしたから纏めてあの世に放り込んだからだ。

 城主にとっては家中が悪い相手をカモにしようとして、反って酷いとばっちりを受けただけである。


 守谷城に戻った義志は甘寧太郎からその事を聞き、手始めに海賊衆の歓待を兼ねて祝宴を催すことにした。

 領民に乱暴しないよう注意するのが先決だが、最初から注意しても言う事を聞きそうにないので、まずは解すことから始めようというのである。

 それと同時に甘寧太郎は布川城周辺の海域で暴れていたので、そのことを具に聞くという意味合いもあった。

 

「それが聞いてくれっぺよ。お館様。あの百貫デブと来たら・・・」

「・・・ほう。成程」

 

 百貫デブというのは大垣聡右衛門おおがきそうえもんという城代で、豊島家の家臣ではなく、江戸崎土岐家の者だそうだ。

 この時、布川城は土岐原氏の庇護下にあり、豊島の当主は幼少の身らしい。

 

 大垣聡右衛門は美濃大垣の出で、どうやら現当主の土岐治頼に従って来たとのことである。

 土岐治頼は、新任したばかりの美濃守護職の土岐頼芸の弟で、江戸崎土岐家の要請により下向してきたのだ。

 そして、江戸崎土岐家は小田家に江戸崎城を奪われていたが、名門土岐家の人脈を活かしつつ関東管領山内上杉家の力を借りて江戸崎城を奪還、他の旧領も回復させることに成功した。

 

 土岐家は千葉家、その家臣筋の原家との関係も良好で、それもあって行商らは安心して印旛から布川を経由し江戸崎、土浦まで行けるのだ。

 故に甘寧太郎を始めとする連中も、当初はその恩恵を受けていたのだが、ある日そこに大垣聡右衛門という奉行が大きな顔をして赴任してきた訳である。

 聡右衛門は美濃土岐家の為と称し、運上金を勝手に値上げしただけでなく、勝手に漁師の縄張りを取り上げてしまった。

 これには当主の土岐治頼も激怒したが、兄土岐頼芸の戦費調達ということで目を瞑ってしまっていた。

 ただ一番の問題なのは、聡右衛門がそこからかなり着服していることだ。

 

「それは酷いな・・・。しかし、布川城は君らでは落とせないのか?」

「支城の布佐も近いっぺなぁ。それに下手したらすぐに印旛の師戸もろとからも・・・」

「ふぅむ・・・」

 

 印旛の師戸城は周りを沼に囲まれた臼井城(千葉県佐倉市)の支城だ。

 名将太田道灌も臼井城攻略に苦労した背景には、この師戸城の存在がある。

 湿地帯と沼に囲まれた臼井と師戸の攻略は、かなりの難関なのだ。

 

 それともう一つ重要なことを付け加えておく。

 現在、茨城県利根町布川と千葉県印西市布佐の間には利根川が流れているが、これは利根川東遷のおりに開削されたからだ。

 この時代は逆に地続きであり、布佐城は布川城の支城として存在している。

 

 反対に布川北部からはほとんどが内海と沼地や湿地帯だらけで、布川からは舟で江戸崎、龍ケ崎へと渡る者が多い。

 それに、湿地帯などは満潮時には内海と繋がってしまい、歩くには困難な場所だらけなのだ。

 因みにだが、布川を舟で出るとすぐに、蛟蝄神社こうもうじんじゃや泉光寺などがある半島とも島とも言えない畔がすぐに見える。

 現代からしたら全く違う光景が、そこにあるだろう。

 

「しかし、大垣聡右衛門なんて聞いたことがないな・・・。あまりにもドマイナー過ぎて知らないだけか・・・」

 

 義志はそう思ったが、まずは甘寧太郎や董襲左衛門、陳武右衛門らを労うことに専念した。

 布川も布佐もこの海賊衆がいなければ攻略は無理なのだ。

 

 祝宴が終わり一息ついていると、何時の間にか果心居士が残り物をつまみにして酒を飲んでいた。

 まるで妖怪ぬらりひょんである。

 

「丁度良かった。聞きたいことがある」

「フェフェフェ。なんじゃい?」

 

 満足そうに酒を飲む果心居士に、義志は特に怒ることもなく話しかけた。

 

「大垣何とかというのは、どんな奴なんだ?」

「なんじゃ。そんなことか」

「当初、三国志系の水軍持ちで呉のライバル系だろうから、てっきり黄祖か蔡瑁かと思ったが・・・」

「そいつらはいるかどうか解らんが、大垣何ちゃらも架空の奴じゃよ」

「何だ・・・」

「大体、この辺は史料がかなり少ないようじゃしの」

「・・・だろうな。俺も昔、中学、高校の部活動で郷土史部に入っていたけど、ほとんど解らずじまいだった・・・」

「フェフェフェ。で、それだけかの?」

「もう一つある。こっちの方が重要だ。ゲーム世界とのことだが、能力値のパラメータとかあるのか?」

「あるぞい。スキルとかもある」

「どうやったら見られる?」

「マスクじゃ。全部、マスクじゃ」

「石高とか資金とかもか?」

「そうじゃ。故に石高をちょろまかして懐に入れるような奴もいる。せいぜい気をつけることじゃな」

「・・・マジか。まぁいい。関羽や張飛が王忠、劉岱とかに負けるとは思えねぇしな・・・」

「それとお主に嬉しいお知らせがあるぞい」

「何だ? それは?」

「三国志系の人物はお主にしか仕えぬ。どうじゃ。吉報じゃろう?」

「ああ、それは有難い限りだ。大いに利用させて貰おう」

 

 義志は聞き終えると、同時にその場で両手を枕にしてゴロンと寝転がった。

 そして、他に三国志系でどんな人物が出てくるか連想した。

 

「董襲、陳武か・・・。マイナー処か微妙だな・・・。それ以前に曹操とか郭嘉が欲しい所だが・・・」

 

 考えてみれば呂布などはいつ裏切るかもしれない筈だが、それなら安心して使うことが出来る。

 それに曹操の下の名前とかを予想し当てるのも、それはそれで面白いかもしれない。

 色々妄想しながら目を瞑ると、どれくらい時が経ったのだろうか。

 何時の間にか果心居士の姿は消え、陽は東から上りはじめていた。


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