第一話 迎夢転生
男の名は三国義志。四十五歳。
所謂、ロスジェネ世代と言われる世代で、それなりの大学を出たものの就職出来ず、派遣やバイトで転々と仕事を変えていた。
家は代々庄屋で地主の家系にあたるため、元から裕福な家庭ではあったが、ある出来事が大金を呼ぶ出来事になった。
家や土地は茨城県の守谷にあり、売れば二束三文の土地がつくばエキスプレス開業により値段が極度に跳ね上がったのだ。
だが、その出来事は義志にとって不幸の始まりだったのかもしれない。
結婚もせず、何不自由なく老後が保障された義志にとって、仕事をするのは馬鹿らしいとしか感じなくなったからだ。
それも致し方ないのだろう。
両親は既に他界しており、親戚付き合いは全くない。
というのも、親戚は多額の金が義志に入り込んだのを切っ掛けに、やたらと無心するようになったからだ。
元から親戚付き合いは無いに等しかったので、反ってそれが助長する結果となっただけであるのだが・・・。
タバコも吸わず、酒は嗜む程度。その上、友人付き合いも少ないとなれば、出費などはたかが知れている。
一番の出費は車だが、時折一人でドライブに行く程度で、年間通しても三千キロも走らない上に軽自動車だ。
預貯金は三億円ほどあるので、気楽なニート生活をこのまま続け死ぬのも満更ではない。
もっとも日本政府からしたらこんな人物が大量にいたら経済が破綻するのだろうが・・・。
「何処だ? ここは・・・」
ある日、起きたら自分のベッドではなく、布団の上で寝ていた。
周りを見渡すと当然ながら自室ではなく、明らかに日本家屋の一室なのだ。
義志は爆上げした駅近の自宅も売り払い、今では駅から離れた土地で1LDKの平屋を建て、そこで生活している。
当然ながら和室なんぞある訳がない。
「おう。気づいたか?」
小柄でニヤついた爺が部屋の片隅にちょっこんと座っていた。
「お、おい。爺さん。何だこれは?」
「お決まりの通りじゃ」
「・・・お、お決まり?」
「そうじゃ。そして儂は果心居士じゃ」
「えっ!? じゃあ何だ!? 俺、室町時代にタイムスリップしたってのか!?」
「儂の名でいきなりそれか。よいぞよいぞ」
「よくねぇ!」
「フェフェフェ! あの小童と同じ反応じゃ。ま、当然かの」
義志は何が何だか理解できない。
当然と言えば当然だ。
唯一の救いとすれば戦国、三国志のSLGが好きなので、果心居士を知っていたことか?
それと同時に自身の姿に驚きを隠せない。
鏡を見たら中学生か小学校高学年ほどの容姿だからだ。
救いがあるとすれば、中年のブサメンでなく、紅顔の中性的な美少年といった感じだけか?
「お前さん。ある会社に株式投資したじゃろ?」
「・・・ああ。五千万で特別な株式優待があるとかいうふざけたヤツ・・・。まさか、あのゲーム!?」
「そうじゃ。察しが良いと助かるわい」
あのゲームとはその企業のPCゲームだ。
ダウンロードした際に眩い光が辺りを包み込んだのだが、その結果がこれとは・・・。
因みにその会社だが、同人ゲームの開発、ダウンロード販売を手がけている会社だ。
そんな会社に五千万円も注ぎ込むのは、ある意味において正気の沙汰ではない。
三億円も預貯金があり、特に買う物があまりないゲーム生活三昧の人間だからこそ出来た至難の業と言うべきであろう。
「でじゃな。儂はチュートリアルじゃ。お主は守谷城からスタートし、天下統一をすれば良い」
「おい待て。じゃあ俺は相馬氏を名乗るのか?」
「おっ!? 何じゃ!? 守谷相馬氏なんてドがつきすぎるマイナー処を知っておるとはの!」
「一応、地元だから調べたことがあるだけだよ。大体、相馬と言えば磐城の方がメジャーだけどな」
「何という地元愛じゃ。感心感心」
「で? 俺は相馬氏の誰になるんだ?」
「守谷相馬氏はこの世界において内紛で滅んだことになっておる」
「ひでぇな・・・。ま、ゲーム世界だから別にいいか」
「お主、随分と冷静になったな」
「泣こうが喚こうが変わらないだろ? なら、やるだけだよ」
「そうか。感心感心。あの小童に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものじゃ」
「その小童って誰だよ・・・?」
「ま、それは置いておくとしてじゃ。家臣なのじゃが」
「守谷相馬の家臣なんて誰だか解らん」
「うむ。オリジナルじゃ。安心せい。では、謁見に向かうと良いぞ」
果心居士はそう言った瞬間、フッと姿が消えた。
義志は未だ何が起こったか半信半疑であったが、家臣がいると言われた奥の間に出向くことにした。
「おお! 殿!! ご無事でしたか!」
そこには初老の武士と青年の武士がいた。
それと同時に両名の顔の下に名前が出たのだ。
皇甫嵩兵衛義真
公孫瓚太夫伯珪
「おい! ちょっと待て!」
義志は心の中で思わずツッコむ。
二人とも大いに聞いたことがある名前だからだ。
一応、その名前は若干日本風にしているのだが・・・。
「字って本来なら公家や武家の日本人もあった筈だよな。中国のマネで・・・」
と思ったが、すぐに気にしないことにした。
所詮はゲーム世界である。
「おい。嵩兵衛」
「何ですかな? 若。いつもなら爺と呼ばれるのに・・・」
「・・・う、爺。大病を患ったせいか未だに記憶が曖昧なのだ。今年は何年になる」
「天文五年ですが・・・」
天文五年。西暦で直すといつ頃であろう。
義志は頭脳をフル回転させて思い出そうとした。
その結果、第一次国府台合戦の二年前ということに気づく。
それと同時に織田信長が二歳ということも思い出した。
そうなると自分は小弓公方足利義明寄りなのか古河公方足利晴氏、いや北条側なのかで対応が変わる。
それと同時に近隣がどちら側なのかが重要になる。
関宿城には梁田氏、龍ケ崎城には土岐氏、真壁城には真壁氏がいる。
増尾城(現在の千葉県柏)は高城氏の勢力範囲だろう。
更には忘れてはならない小田城、土浦城の小田氏がいる。
常陸といえば佐竹氏だが、この頃はせいぜい北常陸までしか勢力が及んでいない。
他にも多賀谷氏や結城氏なども忘れてはならない存在だ。
「爺。聞きたいことがある」
「若。何でございますかな?」
「我らは小弓様側か? それとも古河様側か?」
「いずれに属しておりませぬ。先日、大殿が他界し、若に家督を譲った直後に今度は若が・・・」
「そ、そうか・・・。では、評定を急ぎ始めねばなるまい」
「はっ! その前に拙者の弟分にお目通りをしていただきたい」
最後に発言をしたのは瓚太夫だ。
この時、すぐには解らなかったが、思わず義志はハッとした。
「弟分とな? どういうことだ?」
「ハハハ。拙者。足利荘の学校にて出来の悪い勉強嫌いの弟分がおりましてな」
「・・・ふむ」
「その弟分が更に弟分二人を引き連れて仕官したいという。いやはや困ったもんですわ!」
「その弟分三人はもしかして・・・」と義志は思い、急ぎ面会することにした。
そう。あの三人にしかいない筈だ。