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 カウントが3ボール2ストライクから動かない。


 桐葉は際どいボールを見極め、ストライクは打ちにいくが、石田のプライドが乗ったボールは何度もファウルゾーンに飛んでいった。とらえたと思っても差し込まれる。桐葉は表情にこそ出さないが、この打席を楽しんでいた。


 内角高め、ストレート!


 ファウル!


 外角低め、スライダー!


 ファウル!


 真ん中低め、フォーク!


 ファウル!


 いつの間にか12球が投じられていた。内野陣の伊賀崎も石田に声をかけられない。ランナーの犬走と月掛もリードを取れないほどの緊張感が辺りを包んでいた。石田と桐葉の意地がお互いに火花を散らせていた。


 13球目でやっと、決着がつく。


 石田は森本のサインに首を振った。森本はもう一度同じサインを送る。それは危険だ。石田を説得するための二度目のサインだった。それも石田は首を振った。投げさせてくれ、森本。ここでストレートを投げられないピッチャーなら、理弁和歌山のエースにはなれない。森本は仕方ないと覚悟した。ストレートのサインを送る。但し、内角高めだ。敢えてミットをそこに構える。俺の要求するコースに投げてこい。大きく石田は頷いた。


 下級生ながら天晴れ。桐葉は石田ー森本のバッテリーに敬意を表した。ならば、全力でそのストレートを斬るのみ。


 13球目。森本の構えるミットのど真ん中、一番打ちにくい内角高めへストレートが走る。時速148キロ。石田が人生で投げた最速の球だった。


 ───水月刀───


 桐葉が竜のごとく舞う。砂煙が立ち上がる。窮屈に見えたバットの軌道は、竜のようにくねり、見事に内角高めのボールを芯でとらえた。


 カキ-ーーーーーーーーン!!!


 空は野球観戦を楽しんでいるかのように、青い空に白球を輝かせた。白球は気持ち良さそうに空を飛び、やがてスタンドのコンクリートで嬉しそうに跳ねた。


「マジか……すげえ」


 思わず副島はそう漏らした。2打席連続のホームランがライトスタンドに突き刺さった瞬間だった。


 桐葉がゆっくりと一塁を回る。横目に、ベンチでもみくちゃにされながら生還した白烏と三塁を小躍りしながら回る月掛の姿が見えた。その手前にうなだれた石田の姿があった。がっくりと頭を垂れ、膝に両手をつき、顎から汗を滴らせていた。それでも、垣間見えた石田の顔は笑っているように見えた。


 石田は5回でこれほど点を取られるとは思ってもいなかった。精根を全て乗せた球がスタンドに跳ねた瞬間、がっくりと力が抜け、両手を膝についた。それでも、人生最高の球だったと言える。だから、笑った。今度こそリベンジすると心に誓ったから。


 石田ー森本のバッテリーと桐葉の対決は、桐葉の2打席連発で結末を迎えた。


 13-7。


 6点差。


 一人の男がキャッチボールを止めた。

 オーラというものがこの世に存在するのならば、この時にこの男が放ったものを言うのかもしれない。グラウンドに稲妻が走ったか……甲賀も理弁も、皆が動きを止めた。


「監督、いきます」


 理弁和歌山のエース大伴資定が帽子を整え、高鳥監督へ確認した。


「ああ、行ってこい。終わらせてこい」


 ピッチャー、石田に替わり、大伴資定。

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