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───打席に少し緊張した桔梗の姿があった。ダブルプレーなら試合終了だ。無理もない。
「副島、伊香保は俺らに必要な優秀なスコアラーなんだ。副島の野球経験と伊香保の分析が噛み合えば、ほんとに俺ら甲子園を目指せるかもしれない。伊香保は県大会出場校のすべて分析してくれてるんだ。それでマネージャー合流が遅くなった」
明らかに面白くない顔をしている副島に滝音は諭すように、そう語りかけた。
「……そっか、事情は分かった。でもな、んな頭でっかちで野球はでけへんで」
副島は桔梗にサインを送った。バントのサインだ。桔梗が自信無さそうに頷いた。
「副島くん、バントする?」
伊香保はどやされる覚悟で副島に訊ねた。
「なんや、采配批判かいな」
「ううん、あたしも変にひっかけてダブルプレーよりは良いと思う。ヒットの確率は薄いとも思うし。……ただ……」
「ただ?」
桔梗への初球はボール。バントの構えに白烏の時と同様、ファーストとサードが猛然と前へダッシュしていた。
「副島くん、一度だけあたしを信じてタイムとって!」
副島が伊香保を見つめる。真っ直ぐな伊香保の瞳が副島を撃つ。滝音を見ると、滝音がゆっくりと頷いた。
副島が急いでベンチを出る。
「審判っ、すみません、タイムで!」
桔梗が不思議そうにバッターボックスを外して、向かってきた副島に近寄る。
「なに? びっくりした。でも、何か副島くん来てくれて嬉しい」
「ふざけてんじゃねえ。東雲、今から俺の言う通りにやってみろ。いいな?」
「や、なんかそんなオラオラ系でこられるとキュンってなる」
「てめえ」
「ごめんなさい」
長いアドバイスに少し理弁和歌山サイドが苛ついているのが分かる。これも伊香保の作戦のひとつだ。ギリギリまでタイムを取って、理弁和歌山を迷わせて欲しい。伊香保にはそう言われている。
「東雲、バスターでいくぞ。出来るだけギリギリまで引き付けてからのバスターだ。難しく考えんな。もうここでバスターに切り替えないと当たんねえってとこで、やればいい。東雲は反射神経も良いから、タイミングは任せる。いいな」
そう伝えて、副島はベンチへ戻ろうとした。その腕が強く掴まれる。振り向くと、ふざけていない真剣な目の桔梗がいた。
「なんだ?」
「バスターって……なに?」
「…………」




